ニュースでは、午後6時ごろ、猛烈な台風が凪浜市に上陸する見込みだと伝えていた。午後4時になると、同僚たちは次々と帰り支度を始めた。電車も路線バスも、すでに運休が決まっている。車で来ていた人たちは、帰る手段のない同僚に声をかけていた。私、高階結月(たかしな ゆづき)も乗っていかないかと聞かれたが、笑って断った。「ありがとう。でも大丈夫。彼氏が迎えに来てくれるから」すると、みんなから「彼氏がいるといいね」とからかわれた。恋人の鷺坂柊真(さぎさか とうま)からは、1時間前に【もうすぐ着く】とLINEが届いている。午後5時。外の風は、さらに強くなっていた。柊真に電話をかけたが、出なかった。道路も混んでいるだろうし、遅れるのは仕方がない。そう思って待ち続けた。午後5時半を過ぎると、外では激しい雨が降り始めた。オフィスに残っているのは、もう私一人だけだった。天井の照明が何度かちらつき、パチンと音を立てて消える。暗闇の中で、もう一度柊真に電話をかけた。今度はつながった。ところが、聞こえてきたのは、柊真の同僚・星名陽葵(ほしな ひまり)の声だった。「結月さん?」一瞬、言葉を失う。「……柊真は?」「柊真さんなら運転中です。今は電話に出られなくて」「今、2人はどこにいるの?」「私の家に向かってるところです。ひとりで帰るのは危ないからって、柊真さんが送ってくれてて」「そういえば、30分くらい前に結月さんへLINEしたって言ってましたよ。自分でタクシーを呼んで帰ってって。もう家に着いてますよね?」窓の外では、風が激しく唸っている。その音を聞きながら、指先から少しずつ力が抜けていった。この3年間、柊真が気にかけてきたのは、いつもこの女同僚だった。今夜、わずかに残っていた気持ちまで消えた。「うん。もう着いたよ」もう二度と、柊真と暮らすことのない家に。……電話の向こうで、陽葵がほっと息をついた。「よかった。私たちも、もうすぐ着きます」それから、何でもないことのように続けた。「ただ、もうすぐ台風が上陸するみたいで……今夜はたぶん、うちに泊まることになりそうです。柊真さんから、結月さんにも伝えておいてって言われました」「そう」気のない声で、それだけ返
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