結婚式を翌日に控えた、独身最後の夜だった。木川司(きがわ つかさ)はカラオケで酔い潰れていて、迎えに行ったのは私、井島千晴(いじま ちはる)だった。普段はどんなことにも顔色ひとつ変えないあの司が、今夜に限って目を赤く腫らし、マイクを握ってちょうどこんな歌詞を口ずさんでいた。「青いまま枯れていく、あなたを好きなままで消えてゆく」友人の一人が、しみじみと司の肩をぽんと叩いた。「ずっと言えずにいたんだけどさ……あいつ、戻ってきたらしいぞ。それでも、会いたいか?」名前を出さずとも、その場にいた誰もがわかっていた。上地京子(かみじ きょうこ)。司の初恋の人だ。激しく燃え上がり、深く結びついた二人の恋は、彼女が去ったことで終わりを迎え、愛することの意味と、相手を大切にすることの重みを司の心に刻み込んだ。息をするのも忘れるほど、私はただ、司が「いいや」と首を振ってくれることだけを祈っていた。けれど司はほんの一瞬だけ黙り込み、結局、指が覚えている番号を押していた。電話が繋がった瞬間、個室の中が静まり返った。「司……?」スマホの向こうから、震えを押し殺した女の声が聞こえてきた。「聞いたわ……もうすぐ、結婚するんですってね」司は低く、短く答える。「ああ。明日だ」一瞬の沈黙のあと、電話の向こうで、すすり泣きを堪える声がした。「だったら今夜、どうして電話なんてかけてきたのよ!」私は個室の外に立ち尽くし、ドアの隙間から中を覗いていた。心が、暗い海の底へと深く沈んでいくようだった。私だって知りたい。私の婚約者が、結婚式の前夜に、何年も音信不通だった初恋の相手に連絡を取って、いったい何を伝えようとしているのか。過去に別れを告げるためなのか。それとも、よりを戻すためなのか。薄暗い部屋の隅に座る司の表情までは読み取れなかった。ただ、肩を強張らせ、何かを必死に堪えているように見えた。隣にいる友人たちも、息を殺して司の言葉を待っていた。電話の向こうの声は、なおも責めるように震えていた。「司、私に見せつけてるつもり?私を笑い者にしたいの?私がこの何年、あなたのせいでどれだけ苦しんできたか知ってる?誰と会っても心が動かなくなった。これで満足?私が悪かったわよ、それでいいんでしょ……」言
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