巽は熱湯で濡れたコートを脱ぐと、傍らにいた駿へ手渡した。仕立ての良いオーダースーツに身を包んだ彼は、気品と洗練された雰囲気をまとい、氷のように冷え切った声で命じた。「この二人は病院で騒ぎを起こし、故意に人を傷つけようとした。駿、警察に通報しろ」駿はすぐにスマホを取り出し、通報しようとした。その瞬間、二人の男は腰を抜かさんばかりに青ざめ、慌てて頭を下げながら必死に謝罪を始めた。ベッドに横たわる老人は、先ほどまで自分の世話を押し付け合っていた二人の息子に腹を立てていたものの、彼らが警察へ突き出されそうになっているのを見ると、慌てて声を張り上げた。「そこまでしなくてもいいじゃないか!この子たちは少し気が短いだけで、わざとやったわけじゃないんだ。ほら、もう謝ってるんだから、どうか許してやってくれ。それに、この子たちが警察に捕まったら、誰が私の面倒を見てくれるんだい」巽は老人へ冷ややかな視線を向けた。「警察に捕まろうが捕まるまいが、彼らがあなたの面倒を見ることはない」老人は言葉を失い、目から光が消えたようにうつむき、何も言い返せなくなった。老後のために子を育てるものだ、とよく言われる。だが、彼には二人も息子がいながら、そのどちらも世話をしようとはしていなかった。騒ぎを起こした二人の男は、ボディーガードたちによって病室の外へ引きずり出されていった。ようやく病室には静けさが戻った。床に散乱した惨状を見渡した巽は、鈴音へ視線を向けて言った。「この病室では、おばあさんも落ち着いて療養できないだろう。VIP個室を手配する」その声を聞いた鈴音は、はっとした。やはり、この人が秋子の孫なのだ。彼女は慌てて口を開いた。「ありがとうございます、雨宮さん。でも、個室なんて今の私にはとても払えません。お気持ちだけで十分です。このままで大丈夫ですから」しかし巽は答えることなく、駿へ視線を送り、手配するよう静かに指示した。ほどなくして、幸子はVIP専用の個室へ移された。すると病院の院長をはじめ、数名の主任医師までもが自ら病室を訪れ、挨拶にやって来た。巽は院長へ向かって言った。「こちらの川澄さんは、雨宮家の恩人だ。ご家族の治療は、どうか最善を尽くしてほしい」院長は、雨宮家当主がこれほど穏やかな表情を見せる姿
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