それを手に取ってページをめくると、そこに綴られていたのは優衣の筆跡だった。表紙には、【章臣と叶える100の願い事リスト】と書かれている。3月2日、私の誕生日に、章臣と一緒に北極へオーロラを見に行って、十分間キスをしたい。5月20日、港で、章臣に一晩中花火をプレゼントしてもらって、プロポーズしてほしい。11月22日、いい夫婦の日に、章臣とN国へスカイダイビングに行きたい。ウェディングドレスを着て、彼と15,000フィートの上空から飛び降りて、一生この日を忘れられない思い出にしたい。……その「100の願い事リスト」を読み終えた瞬間、鈴音の目から涙があふれ落ちた。章臣が「出張」と言って家を空けていたあの日々、裏では優衣とこんなにも多くの思い出を重ねていたのだ。結婚してからというもの、章臣がロマンチックな演出やサプライズをしてくれることは、すっかりなくなっていた。花を贈ってくれることさえ、ほとんどなかった。SNSで他のカップルの甘い投稿や話題を目にするたび、彼は決まって眉をひそめ、こう言っていた。「鈴音、俺たちはああいう人たちとは違う。わざわざロマンチックな演出で愛を証明する必要なんてないんだ。穏やかに寄り添って生きていく関係こそ、俺たちには一番合ってる」だが、彼はロマンチックを忘れたわけではなかった。ただ、そのロマンチックを別の女に捧げていただけだった。鈴音は日記帳を棚へ押し込み、ティッシュで涙を拭った。章臣が車へ戻り、赤くなった彼女の目元に気づくと、心配そうに尋ねた。「鈴音、どうした?泣いたのか?」鈴音は胸の奥で渦巻く感情を必死に押し殺し、無理に微笑んだ。「何でもないわ。目にゴミが入っただけ」章臣は軽く頷き、それ以上は追及せず、エンジンをかけて車を走らせた。美咲のマンションまであと二区画という交差点に差しかかった、その時だった。突然、章臣のスマホが鳴り響く。電話に出ると、相手は管理会社だった。「伊藤様、ご自宅の火災報知器が作動しております。確認のため急行し、インターホンも鳴らしましたが応答がありません。伊藤様もご家族の皆様も、現在ご不在でしょうか」章臣の表情が変わった。優衣が、まだ家にいる。彼は慌てて車を路肩に停め、鈴音を振り返った。「ごめん、鈴音。家の火災報知器
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