御影潤一(みかげ じゅんいち)には先天性の心臓病がある。薬は1日たりとも欠かせない。それなのに、仕事に夢中になるとつい飲み忘れ、一度は教壇の上で倒れかけたことさえあった。だから私、御影麻耶(みかげ まや)は彼のそばで薬の管理をするために外での仕事を辞め、思い切ってこの大学の教務補助スタッフに応募したのだ。募集要件はすべて満たしていたはずなのに、最終面接で潤一に落とされ、代わりに紹介されたのは校内の清掃スタッフの仕事だった。納得できずに詰め寄ると、彼は困ったような顔でこう言った。「麻耶、身内を特別扱いするわけにはいかない。それに、仕事に上も下もないだろ。教務補助の仕事に就けば、学生や教員の対応に追われることになる。お前にそんな面倒な思いをさせたくなかったんだよ。清掃といっても、掃除するのは俺の研究室だけでいい。給料で足りない分は、俺がこっそり補うから。な?」その言葉を信じ、私はひたすら彼を支えることだけを考えて生きてきた。だがある日、掃除をしていると、ゴミ箱の底に使用済みの避妊具を見つけてしまった。チーズの香り付きで、パッケージは家からなくなっていたものとまったく同じだった。震える指で机上のスマホを取り上げ、ロックを解こうとする。自分の誕生日を打ち込んだ瞬間、画面が一度震え、エラーが表示された。直後、「チーズの甘えんぼ」というアカウント名から彼にメッセージが届く。甘えた文面で、こんな愚痴をこぼしていた。【今日の実験、すっごく大変だったんだから。潤一先生、ご褒美は?2回じゃ足りないよ。今度は3回ね。ちょうど残りぶんも使い切れるし】私の指先が凍りついた。そのアイコンには、見覚えがありすぎた。親友である栗坂深雪(くりさか みゆき)のものと、まったく同じだったからだ。そして彼女は今、潤一の研究室で院生として学んでいる。答えはすでに、目の前に突きつけられていた。それでも諦めきれず、潤一の誕生日を打ち込んでみる。画面が震え、また失敗。残るチャンスは、あと1回。思わず息を呑んだ。きっと偶然だ、そう自分に言い聞かせたかったけれど、ふいに脳裏に別の数字がよぎる。考えるより先に、指が勝手にそれを打ち込んでいた。ポン、と軽い音がして、画面のロックが外れる。すべてが暴かれた画面を見つめ
Read more