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第2話

Author: 苺ヨーグルト
鏡に映る、清掃スタッフの制服姿の自分を見つめた。血の気の失せた顔、野暮ったい体つき。

かたや潤一は仕立てのよいスーツに身を包み、金縁の眼鏡をかけ、どこまでも気品に満ちている。

傍から見れば、確かに釣り合わないふたりだろう。

けれど気を取り直した私は、もう彼のペースには呑まれることなく、むしろ冷ややかに笑ってみせた。

「私、最初からこんなだったわけじゃない」

潤一の顔に、一瞬だけ後ろめたさがよぎる。

私は一語一語、はっきりと言い切った。

「あなたには生まれつき心臓の持病があるのに、仕事に夢中になるとすぐ薬を飲み忘れるでしょう。一度なんて、授業中に倒れかけたこともあったわよね。

だから私は、あなたのそばにいるために、それまでの仕事を辞めて、この学校に来たの。

応募条件は全部満たしていたし、本当なら教務補助スタッフとして採用されるはずだった。それなのにあなたは、『身内を特別扱いするわけにはいかない』なんて言って、私を採用候補から外した。

その結果、私に残されたのは、校内の清掃スタッフの仕事だけだった」

涙をぬぐい、胸の奥の悲しみを押し殺す。

苦く笑って続けた。

「自分からバラを摘み取っておいて、枯れていく姿を疎ましがるなんて。

どれだけ卑怯で、身勝手なことか。恥じるべきはあなたよ。私じゃない」

潤一の顔が、怒りでどす黒く沈んだ。

それでも私は顎を上げたまま、たとえどれほどみっともなくても、屈するつもりはなかった。

そのとき、彼のスマホが鳴った。

深雪が大好きなアニメの主題歌だった。

潤一の表情が途端に和らぎ、電話の向こうの相手と二言三言交わした。

そして私には「家で話す」とだけ冷たく言い捨て、ドアを叩きつけて出て行った。

私は涙を何度か拭い、鏡の中のみすぼらしい自分を見つめる。

スマホを取り出し、遠くA市にいる友人にメッセージを送った。

【園子、あなたの会社で働かせてもらうことにした】

私は清掃員だ。汚れたゴミは捨てるだけで、拾い集めたりはしない。

汚れた男も同じこと。

返信はほとんど一瞬だった。

【ウソでしょ!?やっと目が覚めたのね!

あたしの言うこと聞きなさいよ。あのクズ男なんて、あんたがそこまで尽くす価値ゼロだから!

そういえばこの前、あいつのSNSに……】

そこで前坂園子(まえさか そのこ)が急に口をつぐみ、話をそらそうとする。

私はすかさず聞いた。【何が載ってたの?】

30秒後、園子から画像が送られてきた。

1枚、また1枚。どれも潤一の旅行の投稿だった。

すべて、私にだけ非公開に設定されている。

写真の中で彼は、深雪と異国の寺院を巡り、極地でオーロラを眺め、海ではイルカと戯れていた。

その間、私は昼は仕事に追われ、息つく暇もなく、何度も目眩を起こしながら、夜は彼の病気の母親の看病に走り回っていた。

電話の向こうで、園子はまだ毒づいていた。

「写真の女、顔は写ってないけど一目であんたじゃないってわかるわ。

あのクズ、マジで最低!」

私は無表情のまま画像を保存した。

礼を言って弁護士に連絡しようとした矢先、深雪からメッセージが届いた。

レストランに着くと、遠目にも彼女が潤一と並んで座っているのが見えた。

私に気づいた潤一は、相変わらず険しい顔のままだった。

深雪は目を赤くして、私の手を握ろうとしてきたが、私はそれを乱暴に振り払い、冷たく言った。

「言いたいことがあるなら、さっさと言って」

深雪は鼻をすすり、苦笑いした。

「麻耶、あなたが私をどれだけ恨んでるか、わかってるわ。

でも小さい頃からずっと、あなたは私を守ってくれて、私のわがままを受け入れてくれた。

私がどれだけあなたを怒らせても、本気で責めたことなんてなかったじゃない。

今回だけ、どうして同じようにしてくれないの?」

涙で真っ赤に腫れた深雪の顔を見つめる。その首元には、化粧でも隠しきれないキスマークが浮かんでいた。

20年以上も付き合ってきた彼女が、急にまるで知らない他人のように見えた。

そうだ。6歳の頃に初めて出会って、いじめっ子から彼女をかばってやったあの日から。

私はずっと彼女を守ってきた。

気の弱いところがあって、私のために声を上げられない時があっても、生まれつき臆病な子なのだと思い、いつも我慢して譲ってきた。

昔、彼女が男を見る目がなく、前夫からDVを受けて殺されかけたこともあった。

バールで彼女の家のドアをこじ開け、あの畜生の手から強引に奪い返したのは私だ。

離婚して、大学院を受け直すよう励ましたのも私。

学校でいじめられないようにと、潤一を指導教員に選ぶよう勧めたのも私だった。

あの時、私のその身内びいきに、潤一はしばらく不機嫌だった。

毎日のように文句を言っていた。

「深雪にはそんなに優しくして、俺という夫の立場は?

もういっそ、深雪について行ったらどうだ」

それなのに今、あれほど深雪の甘えた態度を嫌がっていた彼が、料理が運ばれるたび、彼女の苦手な調味料を一つひとつ取り除いてやり、文句ひとつこぼしていない。

私は薄く笑い、離婚届を取り出そうとした。

そこへ深雪が先に、1枚の書類を差し出してきた。

拗ねたような口ぶりで言う。

「麻耶が強がりで、損得にはきっちりしてる人だって分かってるから、潤一とも話して、この家はあなたに譲ることにしたの。せめてもの償いとしてね。

だから、麻耶。もうこれ以上争うのはやめない?それでいいでしょう?」

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