藤堂グループ本社ビルの最上階にある会議室。朔は上座につき、凛をその隣に控えさせている。ネオ・キャピタルとの会談に向け、藤堂グループの経営陣はすでに1週間、寝る間も惜しんで準備に奔走していた。彗星のごとく現れたこの投資機関は、その冷酷なまでに正確な眼力と底知れない背景により、国際市場で今最も提携が渇望される存在となっていた。彼らにとって国内初となる戦略的パートナーの座を勝ち取れるかどうかは、藤堂グループの今後10年の事業拡大において決定的な意味を持つ。「資料の最終確認は済んだ?」凛が顔を向ける。「リディア・アサノは経歴が謎に包まれていて、こっちが把握している情報が少なすぎるわ。今回の会談、絶対に失敗は許されない」「ああ」朔は短く応じたが、その視線はどこか宙を泳いでいる。なぜか彼の脳裏には、数日前の空港で一瞬だけ見かけたあの後ろ姿が焼き付いて離れなかった。「藤堂社長、結城副社長。ネオ・キャピタルの代表がお見えになりました」秘書がドアを開けて入ってくる。先に入室してきたのは、表情を固く引き締めた二名のアシスタントだ。その後から、廊下の光を背に受けて一人の影が姿を現した。オフホワイトのマックスマーラのカシミヤコートを無造作に羽織り、同系色のシルクシャツと細身のスラックスを合わせている。凛はハッと目を見開いた。テーブルを叩いていた朔の指がピタリと止まる。その姿は……寧々――いや、今はリディア・アサノだ。彼女は、アシスタントが引いた椅子に腰を下ろし、サングラスを外した。そこには、かつての青さが完全に抜け落ちた顔があった。彼女の視線が朔と交差しても、そこに一切の動揺はなく、ただビジネスライクな礼儀として微かに頷いただけだった。「ネオ・キャピタル東大陸地区責任者の、リディア・アサノよ。今日はよろしく」会議用マイクを通した彼女の声はクリアで冷徹であり、彼の記憶にある、優しく、時には悔しさを滲ませていたあの声色とは完全に別人だった。朔は自分の心臓が唐突に止まり、次の瞬間、狂ったように激しく打ち始めるのを感じた。驚愕、滑稽さ、信じがたさ……あらゆる感情が彼の理性を激しく揺さぶる。空港での後ろ姿、人事部からの「彼女はとうの昔に蒼葉市を去った」という報告……すべての手がかりが一瞬にして繋がり、彼がどう
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