Semua Bab 母さん、父さん、死んだのは俺だ: Bab 1 - Bab 10

11 Bab

第1話

意識が完全に途切れた後、俺の体は急にふわりと軽くなった。気がつくと、俺は古びた物置部屋のドアをすり抜け、リビングの温かい光の中に立っている。父さんと母さんはソファに座る兄さんにぴったりと寄り添っている。母さんは兄さんの背中を優しくさすり、父さんはうつむきながら微かに肩を震わせている。兄さんは見たことのない新しいジャージを着ている。水色の生地で、胸元には小さな星のマークがいくつか刺繍されている。その顔は照明の下でひときわ青白く見え、唇にはまったく血の気がない。「父さん、母さん、幸人は本当に大丈夫なの?」兄さんの声は弱々しく、ひどい鼻声だ。「頭が痛いって、叫んでたのが聞こえたけど……」「あいつのことは気にしなくていい」父さんはそう吐き捨てるように言うと、母さんもそれに頷きながら、愛おしそうに兄さんの頬を撫で、額にかかった前髪を直し始める。「どうせ熱なんて嘘よ。同情を引くための仮病に決まってるわ。あなたはあと一日で……」母さんは言葉を詰まらせ、目を赤くした。「あなたは明日の誕生日を、安心して迎えればいいの。あの子のせいで気を病むことはないわ」兄さんは唇を噛み締め、それ以上何も言わずに眉をひそめた。俺は分かっている。兄さんがずっと、俺に対して負い目を感じていることを。幼い頃からずっと、この家の愛情はすべて兄さんに注がれていた。俺は夕食のハンバーグを指をくわえて見ているしかなく、新しいスニーカーやグローブなんて夢のまた夢だった。それでも、兄さんはいつもこっそり自分のお菓子を俺に分けてくれたし、両親に買ってもらった大きめのスニーカーを、こっそり店に頼んでワンサイズ小さいものに交換してもらい、俺に履かせてくれた。両親が俺を叱る時、いつも真っ先に庇ってくれたのも兄さんだった。兄さんはいつも言っていた。「幸人、ごめんな。俺のせいで、お前にばかり辛い思いをさせて」しかし、両親はそうは思っていなかった。母さんはため息をつき、ひたすら愛おしそうな目で兄さんを見つめた。「いつもあの子を庇わなくていいのよ。あの子は物心ついた時からあなたに嫉妬して、あなたの幸せを喜べない子なんだから。あなたの14歳の誕生日の時のこと、忘れたの?」兄さんの14歳の誕生日。それは俺が初めて、「兄さんはいずれ死んでしまう」とい
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第2話

「あいつの誕生日なんか祝うの、見たくない!」俺は、どこにでもいる嫌われ者のクソガキのように甲高い声で叫んだ。俺に向けた父さんと母さんのあの目は、今でもはっきりと覚えている。父さんの平手打ちが飛んできた時、俺は避けなかった。ピシャッ――母さんはそばで泣いていたが、止めることはしなかった。俺に飛びつき、その細い体で庇ってくれたのは、兄さんだった。「幸人をぶたないで!父さん、やめて!」声は震えていたが、兄さんは俺をしっかりと抱きしめて放さなかった。「俺のせいだ、全部俺が悪いんだ……」その日の夜、兄さんはこっそり俺の部屋に忍び込み、隠し持っていた板チョコの半分を俺の手に握らせた。兄さんの手首には赤いすり傷があった。昼間、俺を庇った時に椅子にぶつけてできた傷だった。「幸人、ごめんな」兄さんは小声で言いながら、腫れ上がった俺の頬にそっと指で触れた。「俺はもうすぐいなくなるから。そしたら……もう誰もお前から物を奪ったりしないよ」……記憶が薄れていくと同時に、視界はまたリビングへと引き戻された。母さんが愛おしそうに兄さんの頬を撫で、その指先で額にかかった前髪を優しく整えていた。「翼、あの子のことは気にしないで」母さんは疲れ切った声で言った。「あの子は物心ついた時からあなたに嫉妬してるの、あなたも知ってるでしょ」俺はハッとした。そうだ、俺は確かに兄さんに嫉妬している。親からの愛情を独り占めしていることも、新しいスニーカーを履いていることも、熱を出せば母さんが一晩中看病してくれることも――たとえあと一日の命だとしても、両親の最も愛する存在であり続けていることも。そのすべてが妬ましかった。俺は兄さんの方へふわりと近づき、その手を掴もうとした。俺は本当に熱があって、本当に頭が痛いんだと伝えたかった。しかし、俺の手はまるで霧の中を通り抜けるように、兄さんの体をすり抜けてしまった。俺は宙に浮かんだまま、透けている自分の指を呆然と見つめた。振り返って、固く閉ざされた物置部屋のドアを見ると、その隙間から微かな光が漏れている。ふわりと近づき、ドアを通り抜けると、ガラクタの中でうずくまっている「俺」が見えた。そうか、俺はもう死んでいたんだ。兄さんの寿命のカウントダウンがゼロになるよりも先
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第3話

父さんは箸をバンッと激しく食卓に叩きつけた。「幸人!お前はどうしてそんなに聞き分けがないんだ!」父さんは立ち上がり、青筋を立てて怒鳴った。「翼の体が弱いって分かってるだろ?翼はもう……」父さんはそこから先を言葉にできなかった。俺は、知らなかった。俺が知っているのは、兄さんの顔色がいつも青白く、時々ひどく咳き込むこと、そして父さんと母さんがいつも悲しそうな目で兄さんを見ているということだけだった。それが何を意味するのか、幼い俺には理解できなかった。「どうして!どうして全部お兄ちゃんのものなの!」俺は泣き叫びながら椅子から飛び降り、向かいに座っている兄さんを指差した。「お兄ちゃんなんか死んじゃえ!僕のものを全部返してよ!」兄さんはハッとして口を開いたが、声は出なかった。母さんが勢いよく立ち上がり、俺の頬を思いきりビンタした。あんなに強く打たれたのは、それが初めてだった。兄さんは俺を庇おうと飛び出してきたが、母さんにきつく抱きとめられた。「この子には痛い目を見せなきゃダメよ!言っていいことと悪いことがあるって、教え込むの!」翌日、俺はキッチンで父さんと母さんが話しているのを盗み聞きした。「あと9年……」母さんは泣きながら言っていた。「分かってる」父さんの声はしゃがれていた。「9年……もう9年しかないなんて……」その時初めて、俺は知った。兄さんは本当に死んでしまうのだと。兄さんの頭上に浮かぶ、家族以外の他人には見えないあの数字が、兄さんの命のカウントダウンなのだと。……思い出から現実に意識を引き戻すと、リビングでは、目を真っ赤にした父さんと母さんが、慎重に兄さんを部屋へ連れて行くところだった。その光景を見ていて、俺は急に鼻の奥がツンとした。「やっぱり……幸人を出してやろうか」父さんの声は弱々しかった。「あの子には、もう少しだけ我慢してもらいましょう」母さんがしばらく黙り込んで、やっと口を開いた。その声は、すべての力を使い果たしたかのように疲れ切っている。「せめて……翼には、この誕生日を穏やかに迎えさせてあげたいの。今日だけ、この最後の一日だけだから」母さんが手を挙げて、目元を拭うのが見えた。「幸人も分かってくれるわ」母さんはまるで自分に言い
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第4話

母さんは自分でも気づかないうちに、ドアのささくれをいじりながら、言葉を続ける。「でも、お兄ちゃんにはあと一日しかないの。だから今日だけは譲ってあげて、あの子を笑顔で送ってやってくれる?」俺はふわりと母さんの前に近づき、その目尻が濡れているのを目にした。誰かに見られるのを恐れるように、母さんは急いで手で涙を拭った。「お兄ちゃんがいなくなったら、幸人の一番好きな唐揚げを山盛り作ってあげる。全部幸人のものにしてあげるから」その声はだんだんと小さくなり、最後はほとんど囁くような声になった。「新しいグローブだって買ってあげる。あなたが半年も前から欲しがっていた、あの有名選手のモデルのやつ。プロ野球の試合だって観に連れて行ってあげる。クラスのみんなは行ったことがあるのに、自分だけドームに行ったことがないって言ってたでしょ?」ついに母さんの目から涙がこぼれ落ち、廊下の古い床に小さな染みを作った。「お母さん、全部約束するから。何でも聞いてあげるから……だから今日だけ、今日だけは、もうワガママ言わないで。ね?」俺は手を伸ばし、母さんの涙を拭おうとした。母さんはしばらく待っていたが、ドアの向こうは相変わらず静まり返っていた。すると悲しみの色が徐々に消え去り、代わりに苛立ちが顔に浮かんだ。勢いよく立ち上がった拍子に、動きが急すぎたのか、少しよろめいた。「この子は……本当に聞き分けがないんだから!」小声で吐き捨てるように言うその声には、泣き出しそうな響きが混じっていた。「少しは親の気持ちも考えなさいよ。せっかくここまで育ててやったのに!」そう言うと、きびすを返し、こわばった背中を向けて足早に立ち去った。夕方になり、外は薄暗くなってきた。母さんが小さなカゴを提げてキッチンから出てきた。カゴの中には飾り付け用のリボンや、色紙、ハサミが入っている。兄さんの誕生日の飾り付けの準備だ。リビングに入ったちょうどその時、インターホンが鳴った。ばあちゃんだ。ばあちゃんはパンパンに膨らんだ手提げ袋を持っており、母さんの顔を見ると無理に作ったような笑みを浮かべた。「お義母さん、どうされたんですか?」母さんは少し驚きながら、慌てて体を横にずらしてばあちゃんを招き入れた。「翼の顔を見に来たんだよ」ばあちゃんの声は少
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第5話

ばあちゃんの声は次第に大きくなり、その目には涙が浮かんでいた。「でも、幸人はどうなるのさ?あの子だって可哀想じゃないか!小さい頃から、あの子が何をもらったって言うんだい?翼のお下がりの服に、食べ残しのご飯……あんたたちの愛情だって、ほとんど翼に与えてきたじゃないか!」「お義母さん、そんなことは……」母さんは弁解しようとしたが、その声にはまったく力が入っていなかった。「二人とも良い子だよ、本当に良い子たちさ……それなのに、あなたたちはどうなんだい?親として、幸人に申し訳ないと思わないのかい?あの子には、ほんの少しの愛情を貰う資格すらないとでも?」それを聞いた母さんは椅子にへたり込み、両手で顔を覆うと、肩を激しく震わせた。「それなのに今、あの兄弟に最後の別れすらさせないつもりかい?」ばあちゃんの声はひどく掠れていた。「翼は明日……逝ってしまうんだよ。幸人はあの子のたった一人の、小さい頃からずっと守ってきた弟じゃないか!翼を、心残りを抱えたまま逝かせるつもりなのかい?」「私……そんなつもりじゃ……」母さんの声が指の隙間から漏れ出し、ひどく途切れ途切れだった。「私はただ、翼に最後の一日を楽しく過ごしてほしかっただけで……幸人に邪魔されたくなかったから……」……夜が更けた。兄さんの部屋のドアは固く閉ざされたままだ。「もう寝なさい」ばあちゃんがようやくしゃがれた声で口を開いた。「明日……明日も早いんだから」母さんは少し身じろぎし、何か言おうとしたが、結局首を横に振っただけだった。「……眠れません」ようやく絞り出すように、母さんがそう呟いた。父さんも動こうとしなかった。ばあちゃんはため息をつき、それ以上は何も言わなかった。立ち上がって物置部屋の前に歩み寄り、しゃがみ込んだばあちゃんは、ドアの隙間に向かって優しく囁いた。「幸人、ばあちゃんがここで一緒にいてあげるからね。怖がらないでいいんだよ」俺の目から、再び涙がこぼれ落ちた。チクタクと時間が過ぎていく。リビングに灯っていたろうそくが燃え尽き、辺りは暗闇に包まれた。窓の外の空が少しずつ白み始め、深い青から灰みがかった青へ、そして白々とした夜明けの色へと変わっていく。最初の一筋の朝日がガラス窓を通り抜け、古い床に落ちて、
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第6話

「どうしたの?何が違うっていうの?」母さんは訳が分からず、兄さんの手を放して前に進み、中に入ろうとした。しかし、父さんが突然手を伸ばし、母さんを制止した。「待ってくれ」父さんの声はとても小さく、まるで何かを驚かせてしまうのを恐れているかのようだ。逆光になっていてその表情は読み取れなかったが、肩が微かに震えているのだけは見えた。父さんは入り口に立ったまま、部屋の隅にある小さな体を微動だにせず見つめている。兄さんが母さんの背中越しに顔を覗かせる。その顔色は、朝の光の中で一段と青白く見えた。「幸人?」兄さんは小声で呼んだ。その声には、恐る恐る期待を込めるような響きがあった。「幸人、聞こえてる?俺はもう大丈夫だ。俺はもう、死なないんだよ」部屋の隅で、俺の体は動かなかった。呼吸による胸の上下すら、まったくなかった。母さんの顔に浮かんでいた笑みが凍りついた。もう一歩前に進んでも、今度は父さんも止めなかった。母さんは俺のそばに歩み寄ってしゃがみ込むと、「幸人?」と声をかけ、手を伸ばして俺の肩を軽く揺すった。俺の体はぐったりとしていて、その動きに合わせて力なく揺れる。仰向けになった顔。目は固く閉じられ、唇はどす黒い紫色に変色している。「幸人?」母さんの声が少し大きくなり、その手は俺の肩から頬へと伸ばされる。氷のように冷たく、硬直している。母さんは、まるで火傷でもしたかのように指をビクッと引っ込め、体ごと後ろにのけぞって尻餅をついた。その目は大きく見開かれ、瞳孔が恐怖に慄いているかのようだった。「嘘……」母さんはうわ言のように呟き、首を横に振った。「嘘よ……そんなはずない……」父さんが部屋に飛び込んできた。俺にすがりつき、手を伸ばして鼻先に当てる。その手は空中で止まり、やがて激しく震え始める。「か、和恵」父さんの声は、いつもの父さんのものとは思えないほどひどく掠れている。「お前……お前が触ってみてくれ……」母さんは床にへたり込んだまま、動こうとしなかった。父さんはまた手を伸ばし、震える指先を俺の鼻先に当てる。一秒、二秒……そして三秒。「嘘だろ……」父さんは押し殺したような嗚咽を漏らした。「ありえない……幸人は昨日まで頭が痛いって叫んでたじゃないか
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第7話

頸動脈を探る父さんの手は、そこでピタリと止まったまま、長い、長い時間が過ぎた。やがて床にへたり込むと、子供のように声を上げて泣き崩れた。「死んでる……」むせび泣きながら紡がれたその声は、聞き取れないほど掠れている。「幸人が死んだ……俺たちの幸人、死んでしまった……」入り口に立ち尽くす兄さんの手は、ドアの枠を掴んだまま小刻みに震えている。泣き叫ぶ両親と、部屋の隅に転がる小さく冷たい体。その凄惨な光景を前に、兄さんの青白くなった唇が微かに動いた。「幸人……」次の瞬間、その視界が真っ暗になったのか、兄さんは糸が切れたように力なく倒れ込んだ。「翼!」悲鳴を上げながら母さんが飛びつき、床に打ち付けられる寸前でその体を抱き留めた。家中は大混乱に陥った。……兄さんが目を覚ましたのは、すでにお昼を回った頃だった。ベッドのそばに座る母さんは、泣き腫らした真っ赤な目でその手を握りしめ、何度も何度も繰り返している。「もう大丈夫よ、翼。もう大丈夫、あなたが無事で本当によかった……」虚ろな目で天井を見つめていた兄さんが、ふと口を開いた。「幸人は?」その声はひどく弱々しかった。再びこぼれ落ちた母さんの涙が、兄さんの手の甲を濡らす。「幸人は……」嗚咽が漏れ、言葉は最後まで続かなかった。事態を察したのか、兄さんは勢いよく身を起こし、布団を撥ね除けてベッドから降りようとした。「翼!」母さんが必死にその体を押さえつける。「動かないで、倒れたばかりなんだから休まないと……」「幸人はどこにいるの!?」兄さんの声が突然高くなり、ちぎれそうなほど震えている。「幸人はどこだって聞いてるんだよ!」息子の蒼白な顔を見つめていた母さんも、ついに感情の堰が切れた。「リビングにいるわ……」泣きながら、絞り出すように答える。「リビングで……お父さんが抱いてるわ……」母さんの手を振り払い、兄さんは裸足のまま部屋を飛び出した。リビングでは、父さんが床にへたり込んだまま、俺を腕の中に抱いていた。すでに泣き声は止んでおり、ただ呆然と座り込んで虚空をじっと見つめている。瞳孔は開ききって、焦点が合っていなかった。俺を抱きしめる姿勢はとても強張っていて、まるで壊れやすいガラス細工を抱いているよう
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第8話

「幸人を寝かせておやり」ばあちゃんが静かに言った。俺の体を抱きしめる手はガタガタと震えていたが、父さんは決して腕を離そうとはしなかった。「母さん……」嗚咽を漏らしながら言葉を絞り出す。「幸人は死んでない、ただ……」「死んだんだよ」ばあちゃんはすかさずその言葉を遮った。「武史、あんたの息子は死んだんだ。あんたたちが一晩中閉じ込めたせいで、高熱を出して死んだんだよ」その言葉に刺されたように、父さんの体は激しく震え始めた。「違う……違うんだ……」首を横に振り、大粒の涙をぼろぼろとこぼす。「違うんだ……ただ少し大人しくしてほしかっただけで……翼の邪魔をさせたくなかっただけで……熱があるなんて知らなかった……本当に、知らなかったんだ……」「知ってたはずだよ」ばあちゃんの声には深い失望が滲んでいる。「あの子は叫んでたじゃないか。頭が痛い、熱があるって。あんたも聞いたし、和恵さんだって聞いてただろう。ただ、あんたたちが信じようとしなかっただけさ」部屋から飛び出してきた母さんが、ばあちゃんの足元にすがりついた。「私が悪かったわ!」ズボンの裾を強く握りしめ、泣き叫ぶ。「私をぶって、いくらでも責めてちょうだい!私が幸人を死なせたの、私が……!」ばあちゃんは静かに視線を落とし、泣きじゃくる嫁、抜け殻のようになった息子、そして床にへたり込む孫を見回した。ふいに顔を上げ、そして――宙に浮かぶ俺の方へと視線を向けた。俺はハッとした。ばあちゃんには、俺の姿が見えているのか?だが、その視線はすぐに外された。ばあちゃんは腰をかがめ、しわだらけの老いた手で、俺の体を抱きしめる父さんの腕を、少しずつ、少しずつ解いていく。力の抜けた俺の体は、そのままぐったりとばあちゃんの胸の中に倒れ込んだ。俺を抱きとめたその腕には、ぎゅっと、ひどく強い力が込められている。しわくちゃの頬を俺の額にすり寄せ、静かに目を閉じる。一滴の熱い涙が、俺の冷たい頬にこぼれ落ちた。……尋常ではない泣き声を聞きつけて、近所の住人が様子を見にやってきた。「あら、どうしたの?」顔を出した鈴木のおばさんは、俺を抱きかかえるばあちゃんや、床にへたり込む両親と兄さんの姿を見て、その目をギョロギョロとさせた。「こんな
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第9話

ばあちゃんは、差し出された手をすっとかわした。「和恵さん」凍てつくような眼差しで見下ろす。「幸人は死んだんだよ。あんたが自分の手で一晩中閉じ込めて死なせたんだ。いつまで現実から目を背けるつもりだい?」床にへたり込んだ母さんは両手で顔を覆い、喉が裂けんばかりに泣き叫んだ。「私が悪かったわ……全部私のせい……幸人、お母さんが悪かったから、お願い、帰ってきて、帰ってきてよ……」父さんは床に膝をつき、何度も何度も額を床に打ち付けていた。鈍い「ゴンッ、ゴンッ」という音が虚しく響き渡る。「父さん、やめてよ……」泣きながら止めに入ろうとした兄さんは、荒々しく振り払われた。「俺のせいだ……全部俺が悪いんだ……」あまりにも惨めで愚かな光景を前に、ばあちゃんは静かに目を閉じた。再び目を開けた時、その眼差しは落ち着きを取り戻していた。「あの子に着せる服を買ってくるよ」そう言い残し、俺の体を抱いたまま玄関へと向かう。「母さん!」突然飛びついた父さんが、ばあちゃんの足にすがりついた。「幸人を連れて行かないでくれ……頼むから、連れて行かないでくれ……」鼻水と涙でぐしゃぐしゃになった息子の顔を見下ろし、ばあちゃんは静かに言った。「離しな」「母さん――」「離しなと言ってるんだよ!」……俺の葬儀はごく簡素なものだった。小さな棺と、ばあちゃんが買ってきた真新しい服。あんなに上等な服を着たのは生まれて初めてだった。水色の生地はとても柔らかく、襟元には小さなロケットの模様が刺繍されている。俺が小さい頃に一番好きだった柄だ。着せてくれるばあちゃんの手つきは、とても優しく、ゆっくりとしていた。手伝おうとした母さんは、ばあちゃんに追い出された。「あんたに、あの子に触れる資格なんかないよ」その声は酷く冷たかった。部屋の外に立ち尽くす母さんは、顔を覆って泣き崩れていた。棺の前にへたり込む父さんは、舞い上がった灰が髪や肩に降りかかっても何も感じていないかのように、ただ機械的に、何度も抹香をつまんでは香炉の火の中へ落とし続けていた。部屋の隅で膝を抱えて座る兄さんの目は、赤く腫れ上がり、ほとんど塞がっていた。兄さんはあの日から一言も口を利かず、ただぼんやりと座ったまま、棺と、その中で水色の服を着
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第10話

「埋め合わせだって?」ばあちゃんは鼻で笑った。その笑い声は、ひどく冷たく、そして苦々しかった。「人が死んでるんだよ、何をどうやって埋め合わせるって言うんだい?和恵さん、よくお聞き。幸人の遺骨は、あんたたちには渡さない。あんたたちには、その資格がないんだよ」「母さん!」父さんはドスンと膝をつき、哀願した。「頼む、幸人を俺たちのそばに置いてやってくれ。俺たちが悪かった、これからは絶対に……」「これから?」ばあちゃんが震える声でその言葉を遮った。「あんたたちに『これから』なんてないんだよ。幸人は死んだ。あんたたちの手で殺されたんだ。武史、和恵さん、あんたたちは一生、この子への罪を背負って生きていくんだ。一生かかっても、償いきれるもんじゃない!」そう言い捨てると、遺骨をきつく抱きしめ、きびすを返して歩き出した。「母さん!」「お義母さん、行かないで!」すがりつこうとした両親を、ばあちゃんは力任せに突き飛ばした。「触るな!」目を真っ赤に血走らせ、獣のように叫ぶ。「私の孫に触るんじゃないよ!あんたたちにそんな資格はない!」遺骨を抱えたまま、ばあちゃんは一歩また一歩と斎場の外へ歩みを進め、冷たい雨の中へと消えていく。その背中は丸く縮こまっていたが、一度も振り返ることはなかった。斎場の駐車場にへたり込んだ両親は、この世の終わりのように泣き叫んでいる。深いひさしの下に立ち尽くす兄さんは、遠ざかっていくばあちゃんの背中と、泣き崩れる両親をただ見つめながら、ゆっくりと、本当にゆっくりとしゃがみ込み、自分の体をきつく抱きしめた。雨は、さらに激しさを増していた。……俺の遺骨を胸に抱いたまま、ばあちゃんは田舎の家へ向かう長距離バスに揺られていた。俺はばあちゃんのそばに寄り添うように宙を漂い、窓の外を飛ぶように流れていく景色を、そしてばあちゃんの老いた横顔を見つめていた。深く刻まれた目尻のシワの奥には、底なしの悲しみが隠されている。田舎の古い家に着く頃には、すっかり日が暮れていた。ばあちゃんが一本のろうそくに火を灯すと、オレンジ色の薄暗い光が、この小さくて古びた部屋を照らし出した。仏壇の前の机に骨壺を置き、丁寧に位置を直してから、三本の線香に火を点け、使い古された香炉に立てる。立
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