哲也の瞳の奥に、歪んだ優越感がよぎるのを俺は見逃さなかった。未月の、有無を言わせぬ冷たい横顔も。思わず、乾いた笑いが漏れる。身内びいき、か。いいだろう。もうすぐ嫌でも思い知ることになる。俺という存在がいなければ、この小隊などとうの昔に全滅していたという事実を。未月は哲也へ解毒剤を渡す際、俺の方には一瞥すらよこさなかった。「哲也くん、これ、先に使って」まるで喉の渇きを癒すための水を分け与えるような、ひどく淡白な口調。哲也はそれを受け取りつつ、隠しきれない優越の光を瞳に浮かべている。次いで未月は、濁った液体の入った小瓶を俺に差し出した。彼女は頑なに視線を逸らしたまま口を開いた。「抑制剤よ。これで少しは進行を抑えられるはずだから」こんな気休めの薬が、ここまで進行した俺の感染症状に効くはずがない。俺は静かに告げた。「これが俺に効かないことくらい、お前にも分かっているだろう」未月は目を泳がせ、困ったように眉を寄せた。「孝之、そんなに感情的にならないで。哲也くんは体が弱いのよ。もし本当に感染していたら……」俺は鼻で笑い、彼女の言葉を遮った。「はっ。あいつは入隊してから、一度も任務に出てない。かすり傷ひとつ負ってないのに、どこで感染したっていうんだ?」未月の声がヒステリックに甲高く跳ね上がった。「目に見える怪我がないだけでしょう!ゾンビウイルスには3日間の潜伏期間があるって、あなたも知ってるでしょう?私は隊長なの。みんなの命を預かってるの!あなたは私の彼氏で、副隊長でもある。だからって、あなただけを優先してほかの人を見捨てたら、みんなはどう思う?そんなことをしたら、これからこの小隊をまとめていけなくなる。身内びいきだと思われるわけにはいかないのよ!」またしても、その言い分か。右腕に浮かび上がった灰白色の死斑が、じわじわと肩へ向かって這い上がっていく。皮膚の下を業火で焼かれるような激痛が、さらに苛烈さを増した。俺は彼女の目を真っ直ぐに見据え、深く息を吸い込む。「要するに、俺の命よりも自分の立場の方が大事だっていうのか。こんな気休めの紛い物で俺を誤魔化せると思っているのか」未月の顔から血の気が引いた。「何よ、その言い方は。明日、西区の研究所に行くって約束したじゃない!絶対に解毒
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