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第3話

作者: 煌めく孤狼
目を覚ましたとき、彼女はこう言っていた。

「孝之、もしあなたが先に死んだりしたら、地獄の果てまで追いかけてでも、ぶん殴ってでも生き返らせてやるから」

あの日の彼女の瞳には、確かないたわりと、俺を失うことへの本物の恐怖が宿っていた。

それが今は、どうだろうか。

俺を見つめる彼女の瞳の奥は、冷たく凍りついたままだった。

「今日は重要な任務があるの。あなたと言い争っている暇はないわ。哲也くん、出発の準備を」

哲也は即座に頷き、鼻血を拭いながら部屋を出ていく。俺の横を通り過ぎる瞬間、ねっとりとした挑発的な視線を向けてきた。

俺は未月の手首を強く掴んだ。「あいつを連れて行く気か」

未月は煩わしげに俺の手を振り払う。

「彼は西区の地理に明るいのよ。それに、今のあなたにこの小隊を任せるなんて、絶対に無理よ。

拠点で大人しく待っていて。解毒剤は必ず持ち帰るから」

彼女は手早く装備を身につけると、一度も振り返ることなく去っていった。

俺はその場に立ち尽くし、がらんとした部屋と、まだふたりの体温が残る毛布をただ見つめていた。

その時、体の奥底で未知の力が激しく脈打った。灰白色の死斑が一気に胸元まで広がる。

皮膚が内側から裂けそうになる。業火に焼かれるような激痛に、意識を呑み込まれそうになる。

それでも、俺は必死に堪えた。

拳を強く握りしめる。爪が手のひらに深く食い込み、指の隙間から血が滴り落ちる。

未月、お前はまたしても、あいつを選んだのか。

だったら、俺たちの絆もここまでだ。

よろけながら隔離室へと戻り、冷たい壁にもたれて荒い息を吐き出す。

俺の感染症状は明らかにおかしい。それはもはや、確信に変わっていた。

やがて、窓の外からエンジン音が聞こえてきた。

窓辺へ歩み寄ると、改造された3台のオフロード車が拠点の門を出ていくのが見えた。

先頭車の助手席には未月。そのすぐ後ろの席には、哲也の姿があった。

哲也が身を乗り出して何か話しかけると、未月が笑った。あの、ふっと力の抜けた無防備な笑い方だ。

彼女があんな風に笑うのを見たのは、随分と久しぶりのことのように思えた。

土煙を上げ、車列は廃墟の向こうへと消えていく。

俺は静かに目を閉じた。

未月。もし今日の日没までに戻ってこられなかったなら……

お前は今日の選択を、きっと骨の髄まで後悔するはずだ。

……

焼けつくような痛みに耐えながら、俺は日が暮れるまでじっと待ち続けた。

外の隊員たちが、これまでにない大規模なゾンビの移動痕跡を発見したと、ひそひそ囁き合っているのが聞こえた。

今の俺にできるのは、ただ待つことだけだ。未月が一刻も早く解毒剤を持ち帰ってくれることだけを祈りながら。

太陽が地平線の彼方へ沈み、拠点にぽつぽつと非常灯が灯り始めた頃。

遠くの闇から、ようやくエンジンの轟音が聞こえてきた。

3台。1台も欠けることなく。

心臓が期待に激しく跳ねた。

未月が帰ってきた。

俺は階段を駆け下り、拠点の中央広場まで飛び出した。

車のドアが開き、真っ先に未月が飛び降りる。続いて他の隊員たちが、そして最後に哲也が降りてきた。

俺の視線は、彼らの手元にだけ釘付けになっていた。

未月の手は空だった。哲也の手も、空だった。

隊員たちが物資の入った箱をいくつか運び下ろしていく。だが、肝心の解毒剤はどこにも見当たらない。

一瞬、息が止まった。

「……っ、解毒剤は?」

絞り出した自分の声が、ひどく掠れていた。

その場が、水を打ったように静まり返った。

未月の視線が一瞬だけ激しく揺れ、それから逃げるように俺から目を逸らした。

「解毒剤は……ちゃんと見つけたのよ」

俺の心臓が大きく跳ね上がる。

彼女はきつく唇を噛んでから、重い口を開いた。

「でも、帰り道でゾンビの群れに遭遇して。哲也くんが物資車を守ろうとして、ゾンビに引っ掻かれたの。

緊急事態だったから、とっさに彼に使ってしまったの……」

俺はゆっくりと哲也を見た。

彼はすぐに包帯の巻かれた手を持ち上げ、申し訳なさそうな表情を作った。

「孝之さん、すみません。本当にわざとじゃ……」

「どっちの手をやられた」俺は低く聞いた。

哲也が一瞬だけ固まる。「な、なに?」

俺は鋭く一歩詰め寄った。

「傷はどれくらい深い?出血は?感染の兆候はもう出ているのか」

哲也は動揺した目で、すがるように未月を見た。

未月が庇うように哲也の前に立ちはだかる。

「もう、いい加減にして!彼は怪我をしているのよ!なのに、どうしてそんな問い詰め方をするの!?」

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