All Chapters of 僕達のマザーランド: Chapter 1 - Chapter 3

3 Chapters

#1『始まり』

『#俺たちのマザーランド』 「みんな、そろそろ着くぞー」 沢山ある液晶画面の内、手前の小さなモニターに映し出された目的地の座標を指でなぞり、確認した彼女は耳に装着したイヤホンマイクを押さえて他の船員達に告げる。腕時計型の通信端末を通して全員の耳元へ届いた少女の声に、彼女の耳にも低い声が疎らに返ってきた。  今回の目的地には『瘴気』と呼ばれる有毒ガスが濃い区域のため、全員がガスマスクの着用を余儀なくされている。そんな物々しい雰囲気の中、鼻歌を唄いながら操縦感を握るのは見目にして十二、三の少女だった。  彼女が皆に声を掛けた数秒後、そのイヤホンマイクから「前方注意」の言葉が聞こえる。それは見張り台にいた船員の声で、少女の「見つけたか?」という問いに、彼は呆れたように鼻で笑った。《おいおい、またガセネタ掴まされてんじゃねぇか》 「またぁ? 今度は何だった?」 《四足大型が二頭》 ガスマスク越しにスナイパーマントを深く被り、双眼鏡を覗く彼は辺りを注意深く見回しながら、感じ取れる気配までの距離をおおよそで測る。「正面一五〇〇メートル、あとは10時方向一二〇〇メートル先の森ん中だ。どっちもまだ目視は出来ない」 《面倒臭ぁ……まぁ、別に偽情報でも良いけどもー?》 「良い訳あるか、このアホ船長。風向きが北西から西へ移動、風速も上がってる」 《了解、風下へ避けるぞ》 見張り台の青年の報告に応え、少女は操縦桿を小さく回してペダルを踏む。船の速度を落とし、ゆっくりと旋回する。  少女が座る操縦席の右後ろにあるコントロールパネルの前では、回転椅子に座る体格の良い男性が「こっちにも反応が出た」と少女に声を掛けた。彼は袖から覗く夜明け前の空のような青い肌の腕を伸ばし、モニターの角度を変えてカメラの切り替えスイッチを入れる。「レーダーに入ったか。映像を回してくれ」 「了解。左のは結構なデカさだ」 座標とは別のモニターに映ったレーダー映像に、少女はいよいよ溜め息を吐く。「……んもー……」 「ローズマリー、指図書には何と?」 「二足小型が三頭」 「まったく、『上』は俺達を余程殺したいらしい」 見張り台の青年とまったく同じ嘲笑を零した彼に、少女は「帰ったら文句言ってやる」と可愛らしく遺憾の意思を見せた。「しかし、どうしようか……装
last updateLast Updated : 2026-08-04
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#2『墓守犬』

「ねぇマリーさん、今日ってどうするの?」 クミンが保護されてから二日後の、午前七時。  ユズリハが朝食の洗い物をしている隣で、食器を拭いていたリンデンが問い掛けた。  リビングのソファの上で、クミンとタオルを畳んでいるローズマリーは当然のように「行くぞ」と答える。「もちろん、今日も十時に予約が入ってる。準備が出来次第、すぐに出発するからな」 「どこかへ行くのか?」 続いてクミンが問えば、ローズマリーは頷き笑顔を見せた。「ああ。毎週末、私達は子供達のお世話を手伝いに孤児院へ出向いているんだ」 「コジイン?」 「そう。身寄りの無かった子供達が、生きていくために必要な全てを学べる場所だ」 ローズマリーの説明を聞いても、クミンは不思議そうに首を傾げる。苦笑するローズマリーは「一緒に行こうな」とクミンに微笑み、食器を洗うユズリハに振り返る。「ユズ君、今日は何処だっけ?」 「『マーガレット学習院』だ」 「ん? でも今日って遠足じゃなかったっけ。確かカレンダーに入ってたけど」 リストベルのスケジュールを確認したリンデンの言葉に、何故かユズリハの顔が若干暗くなる。「……小学部と中学部だけな。それも、『ガーベラ』と『カマリア』も合同で行くそうだ」 「すげぇ、大人数だ。何処行くの?」 「旧皇家の博物館と樹立公園らしい」 「ほえー、みんな賢いねー……ん?」 ふと、リンデンは気付く。「待って待って、じゃあ『ガーベラ』と『カマリア』の幼学部は誰が看るの?」 「……合同で『マーガレット』に集まるんだと……」 「マジで!?」 ユズリハの言葉を聞いたリンデンは、両手を上げて喜んだ。「やったー! 赤ちゃんがいっぱいだー!」 「……また『大合唱』か……」 高身長と強面の顔のせいで毎度乳幼児に泣かれてしまうユズリハは、天井を見上げてどんよりと肩を落とす。  そんな彼に、ローズマリーも楽しそうに笑いながら彼に慰めの言葉をかけた。「ははは、いつも最初だけじゃないか。すぐ仲良くなってるのに」 「向こうが妥協してくれてんだよ……」 「そんなに器用な幼児は居ないぞ。大丈夫だ」 ふとローズマリーがクミンを見れば、彼女は落ち込むユズリハを心配そうな眼差しで見つめている。そんなクミンに、ローズマリーは「今の内だけだから」と説明
last updateLast Updated : 2026-08-08
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#『小茴香』

「おやすみー。じゃあユズ君、後は頼んだぞ」「おう。お疲れさん」 ローズマリーが、「ユズリハが寝るまで起きている」と駄々を捏ねるクミンを引き摺って、異ビングのハッチを廊下へと出ていく。 ソファにはフェンネルが腰掛け、黒い布を広げて縫い合わせた糸を切っている。その足元には、床に直接リンデンが転がって寝息を立てていた。「コイツは『邪魔になる』って事を学ばないもんかね」 キッチンから氷を持ってきたユズリハが、床に転がるリンデンを見て苦笑を零した。 フェンネルは視線を手元に落としたまま、こちらに寝返りを打ってきたリンデンを脚で蹴って押し返す。「そりゃ学べんでしょ。『言い出しっぺ』が真っ先に寝こけてる様じゃあ」 呆れるフェンネルに、ユズリハは吹き出して笑った。 孤児院から戻ってきた時、リンデンはとても機嫌良さげに「今日は飲みたい!」と言い出した。いつもなら皆で宴を楽しむが、疲れているであろうクミンの体調を考え、ローズマリーとクミンは先に部屋で休む事になったのだが。 二人が部屋に戻る前に、腹一杯に夕飯を食べてからソファで寛いでいるとそのまま眠ってしまったらしい。 寝返りでソファから落ちても起きない彼は、幸せそうな顔でむにゃむにゃと何かを言っている。「楽しみにしてたのになぁ。どうする、起こすか?」「やめときましょう。余計にウザくなる」「はっはっはっ! さすが気遣いの出来る男は違うな」「……こんな奴に気遣いなんざ必要無いでしょ」 疲れているだろうから、そのまま寝させてやろう。 そんな真意を汲み取ったユズリハは、不機嫌そうに眉根を寄せる彼の前に、琥珀色の酒を注いだグラスを差し出す。フェンネルがグラスを一瞥すると、グラスの中では大きな氷が一つ、澄んだ音を立てて動いた。「……良い色だな」「だろ? リンデンが『今日に』と選んだ酒だ」「銘は何です?」「あの時の地酒だ」 フェンネルは、糸を切る手を止める。 ローズマリーぼ知り合いが独自で作ったこの地酒は、二年に一度、春に送られて来るものだ。アルコール度数も分からない、手作り感満載のきつい酒だった。 あの日の『祝賀会』でも、この地酒をユズリハやリンデンと共に飲んだ。「……まったく……」「本当に、気遣いが下手な奴等だよ。二人共な」 あの日は、『家族』を『呪い』から救った。 今日は、本当の意味で
last updateLast Updated : 2026-09-13
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