地下の旧教室には、昨日までの埃っぽさがわずかに残っていた。 壁際へ寄せた机には、光の病に関する資料と、医療戦士の力について記された書物が積まれている。三人で片づけ、ようやく形になった研究拠点だった。 授業を終えた俺たちは、閲覧許可を得た資料の写しを机へ広げていた。紙面へ目を落としていたエマが、不意に顔を上げる。「ミナちゃんが、大きな音を怖がるようになった理由は聞いている?」「いや。ミナ本人からは、一度も」 十四歳だった頃のミナは、洗濯機が回る低い音や、テレビから突然流れる大きな音に身体を強張らせていた。誕生日が近づくと部屋へ閉じこもり、何を尋ねても「大丈夫」と笑っていた。 無理に聞くべきではないと思っていた。けれど、本人の気持ちを尊重することと、見ないふりをすることは違う。「今度は、急がずに聞いてみる。ただ、あいつが話したくないことまで無理に聞き出すつもりはない」「それでいいと思うわ。知りたいのは過去の出来事そのものではなくて、どういう状況で症状が揺れるのかよ。心と身体の反応を切り離さずに見れば、治療の手がかりになるかもしれない」 俺は記録用紙へ、思い出せる範囲の反応を書き留めた。 低く回る音。突然の衝撃音。誕生日が近づく時期。 どれも、光の病と直接結びついているとは限らない。勝手な推測で空白を埋めれば、かえってミナから遠ざかってしまう。「ハヤト、手が止まってるぞ」 向かい側で資料を分類していたテオが、俺の顔を覗き込んだ。「止まってない。考えていたんだ」「考えすぎて、紙に穴を開けるなよ」 見れば、筆記具の先が一点へ強く押しつけられていた。俺は力を抜き、紙から離す。「それと、昨日ミナちゃんと決めたことを忘れないで」 エマが釘を刺すように言う。「授業も課題も続けながら調べる。食事と睡眠も削らない。分かってる」「睡眠は何時間?」「……必要な分だ」「それは分かっていない人の答えね」「ハヤトの必要な分は、普通の人間の半分だからな」 テオまで大きくうなずいた。「お前らは俺の身体を何だと思ってるんだ」「放っておくと勝手に壊れる医療戦士」「そこまでひどくない」 二人の視線が揃って俺へ向けられた。 村を破壊するほど力を暴走させたことも、医療棟へ担ぎ込まれたこともある。胸を張って否定できる材料は、残念ながら一つもなかった。「
Last Updated : 2026-08-24 Read more