「やっぱり、ダメだよ、ハヤト。こんなの」 細い指が、俺の手首をそっと押し返した。重ねていた手の間から淡い光がほどけ、白いシーツに金色の残滓を散らしながら消えていく。 夏休みを終えた学園には生徒たちの声が戻っていたが、放課後の医療棟だけは別の時間に包まれていた。空調の低い作動音と、枕元のモニターが刻む電子音。磨かれた床に夕方の光が長く差し込み、半透明の扉には廊下を通る人影がときおり映る。 扉の向こうではエマが医療機器の数値を確認し、その先の曲がり角にはテオがいる。異変が起きればすぐに入れる距離を保ちながら、二人は俺とミナへ短い時間を譲ってくれていた。 俺が流していた光癒は、薄い糸ほどの量にすぎない。ミナの手首へ触れ、脈の速さを指先で確かめながら、必要以上に強くならないよう抑えていた。 それでもミナは、俺の変化を見逃さなかった。「顔、さっきより白くなってる。息も苦しそう」「少し集中しただけだ。心拍は落ち着いてきてる」「わたしの数字じゃなくて、ハヤトを見てるの」 返す言葉が止まった。 額には汗が滲み、光を送り始める前より呼吸が浅くなっている。視界の端も、焦点を合わせ直さなければ白い壁と床の境目が曖昧になった。 ミナは俺の手首から指を離さず、胸元へ視線を落とした。「光を受けると、確かに少し楽になるよ。でも、その分だけハヤトが弱っていくように見えるの。わたしに光が入るたび、ハヤトが自分の命を削って渡してるみたいで……怖いよ」「命を削ってるなんて、決まったわけじゃない」「決まってないから大丈夫、とは言えないでしょう?」 静かな問いが胸の奥へ入り込んだ。 光癒を使うたびに疲労が残ることも、定期薬に加えて頓服薬を必要とする日があることも事実だ。未完成の力へ明確な安全域などない。それなのに、ミナの心拍が乱れれば、自分の状態を後回しにして光を送ろうとする。 ミナは、そんな俺の性格まで知り始めていた。「わたしたち、会うことを止められているのに、これ以上会っちゃダメだよ」 身体の内側を冷たいものが駆け抜けた。「止められたのは、無断外出と長い面会だ。俺たちが付き合うことまで反対されたわけじゃない」「分かってる。でも、先生たちの目を避けて会ってることは同じだよ」 ミナの声に責める響きはない。その穏やかさが、かえって俺の焦りを大きくした。 会えなくな
Last Updated : 2026-09-11 Read more