บททั้งหมดของ 入学初日に、世界を救う医療戦士に選ばれました〜光のハンカチと3人の治療簿〜: บทที่ 1 - บทที่ 10

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第1話 ルミエールアカデミーをバカにするな!

 ルミナス市の中央駅を出た瞬間、俺は思わず足を止めた。 朝の光を受けた硝子張りの建物が、空まで届きそうなほど高く連なっている。建物と建物のあいだには半透明の通路が渡され、その内側を淡い青白い光が絶えず流れていた。 遠くから見れば、街の上空に何本もの光の川が浮かんでいるように見える。 通りには、朝から多くの人が行き交っていた。仕事へ向かうらしい人、制服姿の学生、荷車に薬草の籠を積んだ商人。焼き立てのパンの香りと、薬草を煮出した飲み物の少し苦い匂いが混ざり合い、村の朝とはまるで違う空気を作っている。 俺は胸の内ポケットに入れた封筒へ、そっと手を当てた。 白い紙に、細い金色の縁取り。 中央には、光を抱く獅子と薬草を組み合わせた紋章が刻まれている。 今朝、俺が育った孤児院へ届いたばかりの合格通知だ。 何度読んでも、書かれている文字は変わらない。 ルミエールアカデミー医療専門学校への入学を認めます。「……本当に、合格したんだよな」 誰に聞かせるでもなく呟き、封筒の角を指先で押さえた。 紙越しなのに、そこだけがまだ熱を持っているような気がする。 入学試験を終えた日から、ずっと落ち着かなかった。 答えを間違えたかもしれない問題が、いくつも頭に浮かんだ。あの設問は、もっと早く答えを出せたはずだ。最後まで迷った選択肢もある。試験官が答案を集めていく背中を見送ったあとで、急に正しい答えを思い出した気さえした。 終わった試験のことを、いつまでも考えても仕方がない。 分かっていた。 分かっていても、古い問題集を引っ張り出し、もう答えの出ない問いを解き直してしまう夜があった。 俺は、最初から何でもできる人間じゃない。 一度で覚えられないなら十回書いた。十回で足りなければ、覚えるまで繰り返した。 分厚い教本を前にして眠気に負けそうになった夜も、理解できない言葉ばかりが並ぶページを閉じたくなった日もある。それでも投げ出さなかった。 医療の道へ進みたかったからだ。 苦しそうにしている誰かのそばで、何もできずに立ち尽くすことが嫌だった。 知識があれば。 技術があれば。 少しでも落ち着いて、正しいことを考えられるようになれば。 自分にも、誰かを助けられる日が来るかもしれない。 そんな願いだけを頼りに、ここまで来た。「浮かれてる場合じゃないな」
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第2話 ルミエール特急、六時間の旅

 店を出たとき、発車時刻まで四十分を切っていた。 制服一式も、実習用の靴も、分厚い教本も、薬草学の器具も、銀色の留め具がついた魔法縮小箱の中に収まっている。両手に抱えられるほどの大きさだが、重さまでは消えないらしく、走るたびに腕へずしりと負担がかかった。 ルミナス駅へ続く大通りは、旅人と学生であふれていた。 白い治療服を着た医師たちが足早に行き交い、その間を、浮遊式の荷車が滑るように進んでいく。頭上では細長い飛行車が交差し、建物の壁に映し出された案内表示が、ルミエール特急の発車時刻を刻一刻と減らしていた。「間に合ってくれ……!」 縮小箱を抱え直し、俺は人混みを縫うように走った。 駅へ着いたときには、額から汗が流れていた。 巨大な半円形の天井の下に、無数の乗り場が並んでいる。列車の発着を知らせる声、車輪の音、別れを惜しむ人々の声が重なり、構内全体が生き物のようにざわめいていた。 床に埋め込まれた赤い案内線を追うと、ルミエール特急専用の改札へたどり着いた。 そこには、俺と同じ灰色の制服を着た新入生たちが並んでいる。 きっちりとネクタイを締めた者もいれば、家族に何度も振り返りながら手を振っている者もいた。胸元に縫いつけられた寮章は獅子、鷹、鹿、蛇とさまざまだ。 俺は私服姿のまま、列の最後尾へ並んだ。 前にいた二人組の女子生徒が振り返り、俺の顔を見た。 一人が大きく目を見開く。「ねえ、あの人……」「うそ。動画の人じゃない?」 押し殺した声のつもりなのだろうが、すぐ後ろにいる俺にははっきり聞こえた。 俺が顔をそらすと、今度は隣の列にいた男子生徒がこちらをのぞき込んだ。「あれが医療戦士?」「ミナって子を助けた人だろ。光るハンカチを使ったっていう」「まだ入学前なのに?」 視線が一つ増えるたび、背中に見えない針を刺されているようだった。 俺はただ、あのとき目の前にいたミナを助けたかっただけだ。 自分が何をしたのか、今でも全部を理解しているわけではない。 それなのに、知らない人たちは動画の中の俺を知っている。「次の方」 係員に呼ばれ、俺は慌てて合格証を差し出した。 紙に刻まれた獅子の紋章が金色に光る。「ハヤト・キサラギさん。獅子寮ですね」「はい」 係員は合格証と俺の顔を見比べた。 その目にも、わずかな驚きが浮かんだ。「あ
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-08-06
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第3話 医療戦士、いきなりマイナス5点

「これより、医療戦士の選定を始めます」 その言葉が告げられた瞬間、講堂から人の気配が消えたように感じた。 実際には、大勢の新入生が座っている。けれど、誰も咳一つしなかった。俺の隣にいるテオさえ、さっきまでの落ち着かない様子を忘れ、壇上を見つめている。 俺は緩めたネクタイに指を差し入れ、息を吐いた。 入学式が始まってから、ずっと首元が苦しかった。第一ボタンを外し、袖も少しまくっている。エマには式が始まる前に直せと言われたが、結局そのままだった。 これから医療を学ぶのに、服の形ばかり気にしていられるか。 そう思っていた。 壇上では、透明な箱の蓋が開かれた。 中に収められていた白いハンカチが、誰の手も触れていないのに浮かび上がる。 淡い光が布の周囲に集まり、ゆっくりと講堂へ広がっていった。 俺は膝の上で手を握った。 医療戦士。 世界中に広がる疫病と戦い、治療を待つ人々のもとへ向かう存在。 入学前から、その呼び名だけは何度も耳にしてきた。人を救う特別な力を持つ者として、期待と称賛を集める存在だ。 けれど、俺がなりたかったのは、そんな大げさなものではなかった。 俺は普通の医者でよかった。 目の前で苦しんでいる人がいたら、何が起きているのかを考える。必要な治療を選び、その人が自分の生活へ戻れるように手を貸す。 それができれば十分だった。 多くの人から名前を呼ばれることも、英雄のように扱われることも望んでいない。 それなのに、白いハンカチを見ていると、胸の奥が落ち着かなかった。「ハヤト」 テオの小さな声が聞こえた。「手、すごいことになってるぞ」 言われて初めて、自分が拳を強く握り締めていたことに気づいた。爪が食い込み、手のひらが痛い。「緊張してるのか?」「してない」「そうか。俺はしてる。もし俺のところに飛んできたら、驚いて避ける自信がある」「避けるなよ」「だって、いきなり布が飛んでくるんだぞ。顔にかかったら前が見えない」 真剣な顔で言うものだから、張りつめていた息が少しだけ抜けた。 前の席にいたエマが振り返る。「二人とも、静かに」「ほら、怒られた」「おまえのせいだろ」「ハヤトも返事をしたから共犯だ」 エマは呆れたように俺たちを見たあと、俺の手元へ視線を落とした。 強く握ったままだった拳を見て、彼女の表情がわず
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第4話 ミナに繋がる一枚

 授業を終えた俺は、獅子寮の郵便受けに届いていた一通の封筒を手に、談話室へ戻った。 窓から差し込む夕方の光が、長机の上に積まれた教本を淡い金色に染めている。使い始めてまだ数日しか経っていない本の背には、もう何度も開いた跡がついていた。慣れない授業に疲れた学生たちは、椅子に深く腰かけたり、温かい飲み物を片手に今日の課題について話したりしている。 紙とインクの匂いに、誰かが淹れた薬草茶の香りが混じっていた。 けれど、俺は談話室の空気をほとんど感じていなかった。 目は、手の中の封筒に引きつけられていた。 俺の名前が、間違いなく書かれている。 寮の郵便受けを開けた瞬間から、胸の奥で鼓動が速くなっていた。今まで一度も手紙をくれなかった相手の顔が、なぜか真っ先に浮かんだ。「ミナ……?」 声にした途端、期待が急に形を持った。 俺の居場所を知って、連絡をくれたのかもしれない。何も言わずにいなくなったことを謝る手紙かもしれない。あるいは、たった一言だけでも、元気だと知らせてくれたのかもしれない。 返事をどう書こう。 そんなことまで考えながら封筒を裏返し、俺は息を止めた。 差出人の欄に書かれていたのは、ミナの名前ではなかった。 ミナを引き取った里親の名前だった。 胸の高鳴りが、別のものへ変わる。「どうした、ハヤト。郵便受けの前からずっと、その手紙とにらめっこしてるけど」 長椅子に座っていたテオが、開いていた教本から顔を上げた。その向かいでは、エマが小さな紙片に授業の要点を書き出している。 俺は二人のいる長机まで歩き、空いている椅子を引いた。「ミナの里親からだ」 テオの表情から、疲れを隠すような笑みが消えた。 エマもペンを止める。「以前、話していた女の子ね」「ああ」 封筒の端に指をかけたものの、すぐには開けられなかった。 もし、中に望んでいない知らせが入っていたら。 その考えが頭をよぎる。けれど、開けずにいれば何も知ることができない。俺は浅く息を吸い、紙を傷つけないように封を切った。 便箋を探して指を差し入れる。 触れたのは、厚みのある一枚の紙だけだった。「写真……?」 取り出したものを見て、テオが身を乗り出す。 手紙はなかった。 説明も、短い伝言さえも入っていない。 写真に写っていたのは、白い壁と淡い青色の窓が並ぶ大きな建
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第5話 君を救った光が、俺を蝕む

 写真を制服の内ポケットへしまうと、俺は獅子寮の談話室を飛び出した。 重い扉が閉じる音を背中に聞いた瞬間、足が勝手に速くなる。 午後の授業を終えた学生たちが行き交う廊下を、テオとエマが追ってきた。開いたままの教本を抱えて歩く者、実習で使った薬草籠を提げた者、寮対抗戦の話で盛り上がっている者。いつもなら耳に入るはずの声が、今日は厚いガラス越しに聞いているように遠かった。 頭の中には、医療棟のことしかない。 あそこに、ミナがいるかもしれない。 その可能性に追いつこうとするように、俺の足はさらに速くなった。「ハヤト、教本!」 テオの声と同時に、脇へ挟んでいた教本が滑り落ちた。 床へぶつかる寸前で、テオが片手を伸ばして受け止める。勢いよく屈んだせいで、彼が抱えていた自分の教本まで傾いた。「あ……悪い」「いいって。今のハヤトに持たせたら、医療棟へ着くまでに全部落としそうだし」「自分で持てる」 手を伸ばしたが、テオは教本を返さなかった。「持てるのと、ちゃんと持っていられるのは別だろ」 いつもなら言い返していたかもしれない。だが今は、その時間さえ惜しかった。 俺が再び歩き出すと、エマが隣へ並んだ。彼女の歩調は落ち着いていたが、決して遅くはない。俺が走り出さないぎりぎりの速さに合わせている。「ハヤト。一度、呼吸を整えて」「平気だ」「平気な人は、そんなふうに肩で息をしないわ」 言われて初めて、胸が苦しいほど上下していることに気づいた。 まだ医療棟へ着いてもいない。階段を駆け上がったわけでもない。それなのに、細い紐で喉を締められたように息が通らなかった。 ミナに会えるかもしれないという期待。 もう手遅れかもしれないという恐怖。 二つの感情が胸の中でぶつかり合い、心臓を両側から握り潰そうとしている。「落ち着いている時間なんてない」「急ぐことと、何も見えなくなることは違うわ」 エマは俺を止めなかった。「医療棟へ入ったら、あなたが話をしなくてはいけない場面もある。今のままでは、自分の名前を伝えるだけでも息が切れるわ」 俺は唇を噛み、鼻から深く息を吸った。 胸の奥まで届かない。それでも、二度、三度と繰り返すうちに、喉を塞いでいたものが少しだけ緩んだ。「昨日まで何も分からなかったんだ」 歩きながら、俺は呟いた。「探しても、手紙を送っ
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第6話 君を救うたび、俺は

「講義を抜けるったって、どうやって抜けるんだよ」 俺が声を潜めると、テオは待っていましたとばかりに身を乗り出した。 講義前の獅子寮の談話室は、いつになく騒がしい。長机を囲んで課題を見せ合う声に、教本の紙をめくる音が重なっている。大きな窓から差し込む朝の光が、使い込まれた木製家具の表面を柔らかく照らしていた。温かい茶と焼いたパン、それに古い木の匂いが混ざり合っている。「俺がハヤトに変装して講義受けるぜ!」 胸を張ったテオの宣言に、俺は言葉を失った。 向かいに座るエマは、持ち上げかけたカップを静かに置いた。「いつも通り斜め上ね」「待て。見た目も声も違うだろ」「髪の色は近い。背丈もほとんど同じ。制服を同じように着れば、後ろから見ただけじゃ分からないって」「講義は後ろ姿だけで受けるものじゃない」「もっと現実を見なさい、テオ」 俺とエマから同時に否定されても、テオは少しもひるまなかった。「でも、ミナの様子が心配なんだろ? 面会時間まで待ってたら、今日の講義が全部終わっちまう。ハヤトの顔に、俺は今すぐ行きたいですって書いてあるぜ」 思わず頬へ手を当てそうになり、途中で止めた。そんなものが本当に書いてあるはずはない。それでも、否定の言葉は出てこなかった。 エマが俺を見つめる。厳しさの奥に、わずかな気遣いを含んだ目だった。「昨日、あなたの力でミナの光の病の進行は遅くなった。でも、完治したわけではないわ」「ああ。分かってる」「さらに治療を進めるには、あなたが医療戦士の力を安定させる必要がある。それに、光の病そのものについても研究を重ねないといけない。焦って力を使えば、何が起こるか分からないのよ」 冷静な言葉が胸に刺さる。正しいからこそ、反論できなかった。「それでも、顔を見ておきたいんだ」 自分でも驚くほど低い声が出た。「昨日より苦しくなっていないか。熱は下がったのか。ちゃんと眠れたのか。それだけ確かめたら戻る」「そう言って、あなたは放っておけなくなるでしょうね」 エマは小さく息を吐いた。けれど、拒むように教本を閉じるのではなく、膝の上から一冊のノートを取り上げた。「仕方ないわね。今回だけよ」「さすがエマ!」「喜ぶのは早いわ。テオ、あなたが解剖学の講義で指名されたら、この計画はそこで終わりだから」「俺の知識を甘く見るなよ。骨はだい
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第7話 倒れそうでも、俺は立つ

「本当に行くつもりなのか?」 テオの声が、朝の獅子寮談話室に落ちた。 長い窓から差し込む光はまだ淡く、磨かれた床の上をゆっくりと伸びていた。暖炉には昨夜の火の名残がわずかに赤く残り、焼きたてのパンと紅茶、古い木製家具の匂いが混ざっている。 いつもなら心を落ち着かせてくれる朝の匂いだった。 けれど、今の俺には、目の前の光景すらまともに見えていなかった。 窓も机も椅子も、輪郭が水に溶けたように揺らいでいる。正面に立っているテオの顔も、髪の色と制服の形でかろうじて見分けられるだけだ。視界の端には白い靄がかかり、ときおり光の粒がちらついた。「行くよ」 俺はそう答え、制服の袖口へ手を伸ばした。 小さなボタンを留めようとしても、指先に力が入らない。震える親指と人差し指の間から、ボタンが何度も逃げていく。三度目に爪が布をかすったところで、とうとう手を下ろした。 ただそれだけの動作で、呼吸が乱れていた。 胸の奥へ冷たい布を詰め込まれたように、深く息を吸えない。浅い呼吸を何度も繰り返しているうちに、首筋へ汗が浮かんだ。「無理だろ、それ」 テオは俺の前まで来ると、顔をのぞき込んだ。「顔色、朝の壁より白いぞ。今日は休め。講義の内容なら俺が聞いてくる」「お前、昨日の講義で半分寝てただろ」「あれは目を閉じて集中してたんだ」「寝てたわよ」 ソファの向かい側で、エマが冷静に言った。 彼女は湯気の立つカップを机へ置き、俺のそばまで来た。ひんやりした指が手首へ触れる。視界がぼやけていても、彼女の表情が険しくなったことは、わずかに止まった呼吸でわかった。「ハヤト、手を握ってみて」 言われたとおりに指を曲げる。 けれど、エマの手を包むどころか、指先が掌へ触れる前に震え始めた。「昨日より悪くなってる」「まだ歩けるよ」「歩けるかどうかを聞いてるんじゃないわ。視界は?」「少し、ぼやけてる」「少し?」 エマの声が低くなった。 俺は答えず、窓の方を見た。外に木々があることはわかる。だが、枝も葉も一つの緑色の塊に見えた。「……テオの顔が、ほとんど見えない」「俺のこの整った顔が見えないなんて重症だな」「そこで冗談を言わないの」 エマに叱られ、テオは口を閉じた。それでも俺の肩へ置かれた手には、普段の気楽さとは違う強い力が込められていた。「部屋に戻ろう、ハ
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-08-17
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第8話 学年首席への誓いと仕組まれた罠

「なんの騒ぎだ!」 張り詰めた空気を切り裂くような声が、医療棟の廊下に響き渡った。 床を打つ靴音が近づいてくる。俺は両腕を広げたまま、ミナとマルクスの間に立っていた。 胸の奥が狭い。息を吸っても、必要な量の空気が入ってこない。視界は薄い水膜に覆われ、窓から差し込む昼の光が白く滲んでいる。それでも、ミナへ伸ばされたマルクスの手と、その冷たい眼差しだけは見失わなかった。 背後から、ミナの浅い呼吸が聞こえる。 守らなければ。 その思いが、震えかけた膝を床へつかせなかった。 駆けつけた教授は、俺たちの顔を順に見た。マルクスの伸ばした手、進路を塞ぐ蛇寮の生徒たち、その前に立つ俺、検査室の扉を背にしたミナ。短い沈黙の間に、目の前の状況を正確に読み取っていく。「ミナ、何があった?」 教授に尋ねられ、ミナは胸元へ添えていた手をゆっくり下ろした。顔色は青白い。けれど、俯くことなく、自分の言葉で答えた。「検査室へ行こうとしたら、マルクスが前に立って……退いてほしいと何度も言いました。でも、聞いてくれませんでした」「触れられたか?」「いいえ。ハヤトが間に入ってくれたから」 その声には微かな震えが残っていた。それでもミナの瞳は逃げず、マルクスへ向けられている。 教授の表情が険しくなった。「マルクス・ヴェルナー! これはどういうことだ! 入院中の未成年患者に詰め寄り、本人の拒絶を無視して接触を強要しようとした。蛇寮を十点減点する!」 廊下の空気が、一瞬で凍りついた。 取り巻きたちが互いの顔を見る。四寮の得点争いが激しさを増している今、十点は小さな処分ではない。しかも獅子寮と蛇寮の差を大きく変える減点だ。「十点ですと?」 マルクスは声を荒らげなかった。 白い指先をゆっくり引き戻し、制服の袖口を整える。その動作には、自分が叱責される側であることなど受け入れていない傲慢さが滲んでいた。「俺は彼女の状態を確認しようとしただけです。医療を学ぶ者として、患者の症状に関心を持つのは当然でしょう」「本人が拒んでいる。それだけで十分だ」「病気で不安定になっている者の言葉を、すべて正しいと判断するのですか?」 ミナの肩が小さく揺れた。 俺の胸の奥で怒りが熱を持つ。病気を理由に、ミナの意思まで曖昧なものとして扱う。その言葉だけは聞き流せなかった。 だが、口を開く
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-08-19
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第9話 偽りの答案と、3人の証明

「やって……ません」 喉の奥に張りついた息を、声と一緒に無理やり押し出した。 視界の端では、白い霞がゆっくりと渦を巻いている。円形に並んだ机も、その向こうに立つ生徒たちも、薄い膜を隔てたように輪郭がぼやけていた。息を吸っても胸の途中で止まり、次の呼吸へうまくつながらない。額から流れた汗が頬を伝い、顎の先から答案用紙へ落ちた。 机の縁をつかむ指先が震えていた。 それでも、俺は教授から目を逸らさなかった。「そんな状態だからカンニングした。違うか!」 教授の鋭い声が、広い試験会場を震わせる。 胸の奥を締めつける圧迫感よりも、その言葉のほうが深く突き刺さった。 身体が思うように動かないことと、心まで折れることは同じではない。 俺は椅子の肘掛けを押し、立ち上がろうとした。膝に力が入らず、椅子の脚が床を大きく擦る。上半身が傾いたが、机へ手をつき、どうにか踏みとどまった。 白い霞の中央に、教授の険しい顔を捉える。「俺は……やってません。体調が悪いからって、不正に逃げたりしない」 声は掠れていた。呼吸も途切れていた。 それでも、言葉だけは揺らがせなかった。 会場のあちこちで交わされていた囁きが、わずかに静まる。 教授の横では、マルクスが偽の答案用紙を掲げていた。冷たく整った顔には、勝ち誇った笑みも、焦りも浮かんでいない。ただ、折り畳まれた紙を挟む指先にだけ、わずかに力がこもっていた。「口では何とでも言える。現に、お前の袖から――」「待ってください」 マルクスの言葉を遮った声は、会場の外周に近い席から聞こえた。 鹿寮の生徒が一人、静かに立ち上がっている。その手には小型の撮影端末が握られていた。 霞む視界を細めた瞬間、俺はその生徒を思い出した。 廊下や講義室で、何度か俺へカメラを向けていた人物だ。俺が視線を返すと、近づいてくるでも話しかけるでもなく、端末を下ろして人混みの向こうへ消えていた。 鹿寮の生徒は名乗らず、教授の前まで歩いていった。「これを確認してください」 差し出された端末を、教授は険しい表情のまま受け取った。 やがて、試験会場正面の大型表示板に映像が映し出される。 映っているのは、試験が始まって間もない会場だった。 画面の中央付近に、机へ向かう俺の姿がある。ペンを握る手はすでに震え、何度か目元を押さえていた。その斜め後ろ
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-08-21
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第10話 ゴールデントリオ、結成

「ハヤト、呼び出してごめんね」 ミナは白いシーツの上で両手を重ね、俺を見上げた。微笑もうとしたらしい口元はわずかに持ち上がっただけで、すぐに震えた。 窓から差し込む昼の光が、ベッドの端まで明るく照らしている。開けられた小窓から入る風がカーテンを揺らし、清潔な布と薬草の混じった匂いを病室へ運んでいた。「謝らなくていい。話って、この間の検査のことか」「うん」 短い返事のあと、ミナはシーツを握った。細い指の下で布に深い皺が寄る。息を吸うたびに肩が小さく上下していた。 俺はベッド脇の椅子へ座った。呼び出しの手紙を受け取ったときから、胸の底に沈んでいる予感がある。それを顔に出さないよう、膝の上で両手を組んだ。「結果が、あまり良くなかったの」 時計の秒針が、乾いた音を刻んだ。「光の病が、前より進んでるって言われた。このまま進行したら……わたし、今のハヤトと同じ十八歳まで生きられないかもしれないって」 耳に届いた言葉を、すぐには意味として受け取れなかった。 十八歳。 今の俺と同じ年齢になるまで、あと二年しかない。遠い未来の話ではない。季節が二度巡れば届いてしまう距離に、ミナの命の終わりが置かれている。 喉の奥が狭まり、息が肺まで落ちていかなかった。冷たいものが背骨を伝い、組んでいた指先から感覚が薄れていく。「そんな……急に、そこまで悪くなったのか」「急にじゃないの」 ミナは首を横に振った。目に溜まった涙が光を受け、頬へ一筋こぼれた。「前から少しずつ進んでるって聞いてた。ちゃんと調べてもらうたびに、悪くなってることも分かってた。でも、ハヤトには言えなかった」「どうして」「言ったら、ハヤトは自分のことを後回しにするから」 ミナの視線が、俺の胸元へ落ちた。 その瞬間、胸の奥で鈍い痛みが脈打った。まるで彼女の言葉に反応したようだった。俺の中にも光の病はある。だからこそ、ミナに告げられた期限を他人事として聞くことはできない。 もし俺の病も同じ速さで進んでいるのなら。 その考えが浮かびかけ、俺は奥歯を噛んで押し戻した。今は自分の恐怖に飲まれている場合ではない。「黙っていてごめんね。でも、もう隠したままにしたくなかった」 ミナは頬の涙を手の甲で拭った。声は震えている。それでも俯かず、濡れた目で俺を見つめ続けた。「怖いよ。まだやりたいことがいっ
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-08-24
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