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24 チャプター

第21話

F国の雨の夜。蒼介は裏路地の安宿で、ベッドに身を縮めていた。壁紙はカビが生えて剥がれ落ち、シーツには得体の知れないシミがついている。窓の外のネオンが薄汚れたガラス越しに差し込み、彼の青白い顔に不気味な影を落としていた。ナイトテーブルのスマホが光った。15件目の借金取り立てのメッセージだった。【48時間以内に返さなければ、金がないなら命で払え】彼は震える手で飲みかけのウイスキー瓶を掴んだ。粗悪なアルコールが喉を焼く中、テレビでは国際ニュースが流れていた。「国際的詐欺およびマネーロンダリングの疑いで、柊莉奈容疑者がS国のJ市にて逮捕されました。被害総額は230億円に上ると見られています……」画面がJ市の警察署に切り替わった。手錠をかけられた莉奈は、いつも完璧にセットされていた巻き髪も乱れていた。記者が横領金の行方を追及すると、彼女は突然カメラに向かって金切り声を上げた。「全部堂島蒼介の指示よ!あのプロジェクト資金は全部彼の手を通っているのよ!」ガシャン。蒼介の手から酒瓶が滑り落ち、琥珀色の液体が絨毯に染み込んでいく。彼は画面の中の歪んだ顔を見つめながら、3ヶ月前の社長室での最後の対峙を突然思い出した。「もし私に何かあれば、堂島グループにも道連れになってもらうからね!」彼女は本当にそれを実行したのだ。スマホが振動した。銀行からのメールだった。【お客様が担保に差し入れられた堂島グループの株式は、清算手続きに入りました】それは、百年続いた堂島グループが完全に堂島家の手を離れることを意味していた。ドアの外から乱暴な蹴り音が響いた。「堂島!中にいるのは分かってんだぞ!」ひどく訛った、ドスを利かせた怒声と、ドアを激しく叩く音が響いた。「開けないとこのボロ宿ごと燃やすぞ!」蒼介はふらふらと立ち上がった。鏡に映る自分の姿に、彼自身でさえ呆然とした。眼窩はくぼみ、髪には白髪が混じり、かつて数百万もしたオーダーメイドのスーツは今やすえた臭いを放っている。ビジネス界を席巻したあの堂島グループ社長の面影などどこにもなかった。ガシャン!窓ガラスが突然割れ、続いて火のついた松明が投げ込まれた。炎は瞬く間にカーテンに燃え移った。蒼介はジャケットを掴んで部屋を飛び出したが、廊下で借金取りの男たちと鉢合わせになっ
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第22話

デザインウィークのレセプションで、結衣が数人のブランド関係者と談笑していると、突然背後から澪に肩を叩かれた。「あなたに紹介したい人がいるの」振り返ると、クリスタルのシャンデリアの下に深青色のスーツを着た男性が立っていた。光に照らされた彼の輪郭はくっきりと際立ち、金縁眼鏡の奥の瞳には穏やかな笑みが浮かんでいた。「私の兄の瀬戸理人(せと りひと)よ」澪はウインクをした。「海外から帰国したばかりの国際弁護士で、女性の権利保護を専門にしてるの」「浅羽さんのお名前はかねがね伺っております」理人は手を差し出した。その指先は温かく、さらりとしていた。「あなたの『涅槃』シリーズのデザイン画を拝見しました。あの砕け散って再構築されるラインに……とても心を揺さぶられました」結衣は少し意外に思った。実は、ほとんどの人は銀河シリーズの方を好んでおり、涅槃シリーズを好む人は少なかった。ましてや、彼女のデザインに隠された暗喩――結婚によって砕け散り、そして生まれ変わった歳月を一目で見抜く人など皆無に等しかった。「瀬戸先生はデザインにもお詳しいのですか?」「美しいものを鑑賞するのが好きなだけです」彼は微笑みながら名刺を差し出し、その指の腹が不意に彼女の手首の内側の傷跡――かつて堂島家で残された鞭の痕を掠めた。結衣は無意識に手を引っ込めようとしたが、彼が静かにこう言うのが聞こえた。「この傷跡の線は、あなたの作品に刻まれた模様とよく似ていますね」パーティーの喧騒がふっと遠ざかった。この3年間で、同情や好奇心からではなく、まるで芸術作品を鑑賞するかのように彼女の傷跡を見つめてくれた人は初めてだった。3ヶ月後、結衣は「結衣財団」の設立式典に立っていた。会場には大勢の記者が集まり、理人は法律顧問として彼女の傍らに立っていた。彼女が悪意ある質問を浴びせられるたび、彼は的確な法律知識で助け舟を出してくれた。「浅羽さん、この財団を設立したのは元夫への復讐のためだという噂がありますが?元夫の会社が破産したことにも、あなたが関与しているのでしょうか?」結衣が口を開こうとした瞬間、骨ばった手が突然マイクを受け取った。「公益法人に関する法令には、明確な規定があります」理人の声は焦らず落ち着いていた。「財団の設立には、所轄
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第23話

桜木中央病院の特別室。消毒液の匂いが鼻を突いた。小百合はベッドに寄りかかり、痩せ細った指でアルバムの写真を撫でていた。それは結衣が堂島家に嫁いできたばかりの写真で、彼女は上品な着物を着て、仏間で静かに手を合わせていた。「大奥様、浅羽様がいらっしゃいました」執事が低い声で報告した。小百合が勢いよく顔を上げると、病室のドアが開き、深緑のコートを着た結衣が入ってきた。髪は一糸乱れぬシニヨンにまとめられている。しばらく見ないうちに、彼女の表情から人におもねるような色はすっかり消え、代わりに余裕と落ち着きが漂っていた。「結衣さん……」小百合は無理やりベッドから降りようとしたが、よろめいて床に跪いてしまった。結衣は無意識に半歩前に出たが、すぐに足を止めた。小百合は跪いたまま彼女のコートの裾を掴み、大粒の涙をポロポロとこぼした。「私が悪かったわ……」結衣は、かつて鞭で自分を打ち据えたこの貴婦人が、今や枯れ葉のように自分の足元に這いつくばっているのを見下ろした。彼女が身をかがめて助け起こそうとすると、手首を掴まれた。「これは堂島家の嫁に代々伝わるものなの……」小百合は震える手で自分の手首からクリスタルの腕輪を外し、彼女の腕にはめようとした。「あの時あなたに渡さなかったのは、私の目が節穴だったから……」クリスタルが肌に触れた瞬間、結衣は突然手を引き抜き、腕輪は床に落ちて真っ二つに割れた。「お忘れですか」彼女は足元の破片を見下ろし、その目に冷ややかな色を浮かべた。「新婚3日目、あなたは私のことを育ちが悪いからこの腕輪には釣り合わないと仰いましたよね」小百合の泣き声がピタリと止まり、脳裏にはあの日の光景が鮮明に蘇った。親族一同の前で、客として来ていた莉奈にその腕輪を渡してしまったのだ。「全部あの泥棒猫のせいよ!」小百合は声を上げて泣き叫び、彼女の服の裾を引っ張った。「あいつが蒼介を騙して、堂島家をこんな目に遭わせたのよ……」「本当に、すべての原因が柊莉奈にあるとでも思っていらっしゃるのですか」結衣は彼女の言葉を遮った。「それに、そのすべてをご存知なかったとでも?すべてを黙認していたのは、他でもないあなたご自身ではありませんか」小百合は激しく喘ぎ、その話題を避けるように枕の下から書類
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第24話

「結衣、僕と結婚してくれるかい?」見渡す限りの花畑の中で、理人は片膝をつき、シンプルなダイヤモンドの指輪を掲げていた。澪はそばで口元を覆ってクスクス笑いながら、スマホで動画を撮っている。結衣は一瞬驚いたが、すぐに微笑んだ。「急ね」「半年前につき合い始めた時から、もう準備していたんだ」理人は真剣な眼差しで言った。「僕の生涯のパートナーは君だ、君しかいないって確信したから。出会ってから今まで、僕たちはいつも完璧に気が合っていた。一緒に仕事をして、好みも似ていて、お互いを深く愛している。これ以上待つ理由なんて見つからないよ」結衣は少し顔を横に向け、目尻を赤くした。理人の言う通りだった。彼と一緒にいると、いつもとても心地よかった。彼女が病気の時は、理人は必ず仕事の手を止めて看病してくれた。デザインに行き詰まった時は、午前3時まで文句も言わずに付き合ってくれた。インスピレーションを探しに色々な場所へ連れ出してくれ、いつも陰で支え続けてくれた……「結衣、ボーッとしてないで!」澪もこの雰囲気に少し緊張してきたようだ。「もちろん結衣の意思が一番よ。今回私が無理についてきたのは結衣を急かすためじゃないから、もし結衣がまだ決心がつかないなら……」「ええ、喜んで」澪の声がピタリと止まった。次の瞬間、理人に指輪をはめてもらおうと手を伸ばした結衣に勢いよく飛びつき、ぎゅっと抱きしめた。「やったー、結衣!私たちこれから家族ね!」理人はダイヤモンドの指輪を持ったまま固まり、少し苛立ったようにそそっかしい妹を睨みつけた。それから再び結衣を見ると、その瞳は笑みで溢れていた。……結婚式の当日、ベールを直していた澪が突然目を潤ませた。「結衣、絶対に幸せになってね……」結衣は思わず吹き出したが、目頭がわずかに赤くなり、涙で視界が滲んだ。「どうしたの?私があなたのお兄さんと結婚するのが心配?」「ち、違うわよ。ただすごく嬉しくて……」パイプオルガンが結婚行進曲を奏でた時、結衣は祭壇の前に立つ理人の指が微かに震えているのを見た。神父が「誓いますか」と尋ねると、彼は間髪入れずに「はい、誓います」と答えた。そのあまりの早さに、招待客からどっと笑いが起きた。ブーケトスの時間になり、結衣はわざと後ろへ高く投げた。
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