早紀も足を止め、彼を見つめ返した。月明かりに照らされた彼の表情は、誠実でまっすぐに見えた。前の人生の自分なら、きっとひどく心を揺さぶられていた。好かれていると知っただけで舞い上がり、戸惑いながら受け入れていたかもしれないし、慌てて断っていたかもしれない。けれど今の早紀の心は、凪いだ湖のように静かだった。もう、簡単に揺れることはなかった。「拓海くん、ありがとう」彼女は静かに口を開いた。声は柔らかかったが、はっきりとした一線を引いていた。「あなたはとてもいい人だし、話していて楽しいわ。でも、私は今、恋愛をするつもりはないの」彼女は少し間を置き、遠くにぼんやりと見える図書館の輪郭、そしてさらにその向こうに広がる深い夜空へと目をやった。「今は、ただしっかり勉強して、しっかり書いて、失ってしまった大切な時間を取り戻して、自分が歩みたい道を1歩1歩、着実に歩んでいきたいの。恋愛のことは、今の私の計画には入っていないの」拓海の目に宿っていた光が、一瞬だけ翳った。だがすぐにまた輝きを取り戻す。「大丈夫です。待ちます。君の学業が終わるまで、恋愛したいと思うようになるまで……」「ううん、待たないで」早紀は彼の言葉を遮り、振り返って彼を見た。その眼差しは澄んでいて、少しの揺らぎもなかった。「拓海くん、人生は短いの。誰かを待つために時間を使わないで。あなたはもっと広い世界を知るべきだし、もっとたくさんの面白い人たちと知り合うべきだし、本当にやりたいことをして、愛したい人を愛するべきよ。不確かな未来に期待を託したりしないで。私たち、いい同級生、いい友達でいられれば、それで十分」拓海は彼女を見つめたまま、長いこと黙っていた。彼女の言葉を噛みしめているようでもあり、その目に浮かぶ揺るぎなさを静かに確かめているようでもあった。やがて彼はゆっくりと、深く頷いた。口元に、少しぎこちない、けれどどこか吹っ切れたような笑みを浮かべて。「わかりました。早紀さんの言う通りですね。じゃあ……これからも、友達でいてくれますか?」「もちろん」早紀は微笑んだ。その日以降、拓海は本当に、二度と恋愛の話を持ち出さなかった。二人は相変わらず一緒に授業のことを話し合い、たまに食事を共にしたが、拓海はちょうどいい距離を保ち、その眼差しも、友人ら
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