All Chapters of 夫の葬儀で、死んだはずの彼から電話がきた ~「棺を開けるな」その一言から始まる財閥復讐婚~: Chapter 1 - Chapter 8

8 Chapters

第1話 棺を開けてください

「その棺を、今すぐ開けてください」 喪主である私が最後の花を手向けようとした、まさにそのときだった。 重い扉が開く音とともに男の声が礼拝堂を横切り、久瀬家の親族も、巨大企業グループの重役たちも、夫の死を嗅ぎつけて集まった報道陣も、一斉に後ろを振り返った。 六月の雨を黒い髪から滴らせながら立っていた男は、弔問客には見えなかった。黒いスーツこそ身につけているものの、ネクタイは緩み、濡れた革靴には泥が跳ね、なにより、死者を悼むために来た人間なら玄関に置いてくるはずの怒りを、隠そうともせずに目の中へ残していた。 私は、その顔を写真でしか知らなかった。「久瀬、朔也……さん」 私の夫、久瀬冬真の異母兄であり、八年前に久瀬家から追放された男。久瀬グループの医療部門で起きた情報漏洩事件の責任を問われ、取締役の地位も、保有していた株式も、家族と名乗る権利さえも奪われた人だった。 義母の雅世が、私のすぐ隣で息を呑んだ。けれど、その動揺はほんの一瞬で、彼女は葬儀の始まる前に私へ言ったときと同じ、背筋まで凍らせるような声を取り戻した。「警備は何をしているのです。この男を外へ出しなさい。冬真の葬儀を、これ以上汚させないで」「汚しているのは俺じゃない。棺の中にいるのが誰なのか確かめもせず、三十分後には焼こうとしている、あなたたちのほうだ」 朔也は歩き出した。警備員が二人、左右から腕をつかもうとしたが、彼は暴れることも怯むこともなく、濡れた上着の内側から一枚の紙を取り出した。「久瀬冬真は、この棺には入っていない」 礼拝堂に、ざわめきが走った。 最前列に並んでいた取締役たちは互いの顔をうかがい、後方ではカメラのシャッター音が雨粒のように重なった。誰かが配信を始めたらしく、広報担当者が青ざめて制止に向かったけれど、一度外へ流れた言葉は、もう久瀬家の力でも棺へ戻すことはできない。 私は白百合を握ったまま、朔也を見つめた。「どういう意味ですか」「言葉どおりの意味です。そこにいるのは弟じゃない」「冬真は四日前、久瀬グループ所有のクルーザーで事故に遭いました。海上保安当局が船内から遺体を収容し、歯の治療記録と所持品で本人だと確認したと、私は説明を受けています」「説明を受けた、ですか。あなた自身は確認していないんですね」 喉の奥が詰まった。 事故を起こしたクルーザーで
last updateLast Updated : 2026-08-11
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第2話 棺の中の携帯電話

 私が二度目の命令を口にしても、棺の周りに立つ葬儀社の職員たちは、誰一人として動こうとしなかった。 無理もないのかもしれない。つい先ほどまで、ここで行われていたのは、久瀬グループの次期会長を送り出すための、あまりにも整いすぎた葬儀だった。祭壇を飾る花の種類も、弔辞を読む人間の順番も、報道陣へ公開する映像の長ささえも、久瀬家の広報部と顧問弁護士が細かく決めていたのだろう。そこへ、死者の兄を名乗る追放者が現れ、棺の中から死者の携帯電話が鳴り、挙げ句に喪主が棺を開けろと言い出したのだから、職員たちが、自分たちの判断で触れてよいものなのかと青ざめるのも当然だった。 けれど、今の私には、彼らの立場を思いやって待つだけの余裕がなかった。「聞こえなかったのなら、もう一度言います。棺を開けて、中で鳴っている携帯電話を取り出してください。私が冬真の妻で、今日の喪主であることに、異論のある方はいませんよね」 年配の葬儀責任者が、助けを求めるように高遠へ目を向けた。「奥様、棺はまだ完全には閉じておりませんので、物理的には開けられます。ただ、ご遺体の状態を考えますと、ご対面はお控えになったほうがよろしいかと存じますし、納棺後に私どもの判断だけで開けることも――」「あなた方の判断ではありません。私が責任を取ります」「澪さん、責任という言葉で片づけられる問題ではないんです」 高遠は声を荒らげず、それでも私と棺の間から退こうとはしなかった。「中にある携帯電話が冬真さんの物なら、なおさら素手で触れてはいけません。誰が、いつ、どのような目的で入れたのか、今の段階では何もわからないのですから、まず警察へ連絡し、鑑識の到着を待つべきです。あなたが取り乱すのは当然ですが、ここで急いで証拠を壊してしまえば、あとでいちばん後悔するのはあなたですよ」 言われていること自体は正しかった。だからこそ、私は、彼がどうして火葬を止めるという同じ結論を、先ほどまで一度も口にしなかったのかが気になった。「では、高遠さんから警察へ連絡してください。火葬は中止し、誰もこの礼拝堂から出さないようにお願いします」「誰も、というのは、参列者全員を疑うという意味ですか」「夫の携帯電話を棺へ入れた人が、この中にいるかもしれないのでしょう。久瀬家の体面を守るためなら、誰か一人を見逃しても構わないとおっしゃるなら
last updateLast Updated : 2026-08-11
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第3話 夫は事故で死んでいない

第3話 夫は事故で死んでいない 冬真の名前で送られてきた写真を見た瞬間、私は礼拝堂にいる誰かの目と目が合うことさえ恐ろしくなり、参列者の顔をまともに見られなくなったのに、相良は私の恐怖へ同調するような慰めを口にせず、画面に触れないよう私の手首を支えながら、声だけを一段低くして周囲の警察官へ指示を飛ばした。「礼拝堂のすべての出入口を閉めてください。ただし、犯人がこの中にいると決めつけて参列者を刺激しないようにしながら、携帯電話や鞄には勝手に触れさせず、体調の悪い方を外へ出す場合も必ず氏名と時刻を記録してください。それから鑑識は写真の画角を先に見て、澪さんの正面に置かれている物を、花一本、椅子一脚まで見落とさず調べてもらえますか」「でも、この写真は三秒前に撮られたものですし、私の正面には誰もいなかったんですから、撮った人間は、私たちと一緒にこの礼拝堂へ閉じ込められているんですよね」 自分の声がひどく頼りなく聞こえたことが悔しくて、私は冬真の携帯電話を抱えたまま言い直そうとしたが、相良は私を落ち着かせるための嘘だけは選ばなかった。「その可能性は否定しませんが、この写真だけで、そうだとは言えません。人間がカメラを構えなくても写真は撮れますし、送信した人間と撮影した機械が同じ場所にある必要もないので、いま確かなのは、犯人が私たちに『礼拝堂の中にいる誰かを疑え』と命令してきたことだけです。怖がるなとは申しませんが、怖がらされた方向に、そのまま走らないでください」 相良の言葉が終わるより先に、祭壇の右側を調べていた鑑識員が、供花の名札へ顔を寄せ、黒い喪章の結び目をピンセットで持ち上げた。百合と菊の白さを締めるための黒い布にしか見えなかったその中心から、縫い針の頭ほどのレンズが現れ、細い配線は花籠の底に隠された小型端末へつながっていた。「この位置なら、奥様のお顔をほぼ正面から撮れます。動体検知か、外部からの遠隔操作かは解析しないと分かりませんが、少なくとも、誰かがそこに立って撮った写真ではありません」 さらに二階の聖歌隊席の手すりからも、木目を模したシールで覆われた同型のカメラ
last updateLast Updated : 2026-08-12
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第4話 あなたを信じたわけではありません

第4話 あなたを信じたわけではありません 認めなければならないことと、受け入れられることは同じではなく、写真の中で父の腕をつかんでいる朔也が本当に父を死へ追い込んだのか、冬真が私へ残した文章は警告なのか、それとも死後まで私の行き先を決めようとする命令なのか、どれ一つ答えを出せないまま、私は写真の端を強く握りすぎていた。「澪さん、写真にも封筒にも、これ以上触れないでください。すでに開封したあとで申し上げても遅いのですが、冬真さんの殺害と雨宮さんの死がつながる可能性がある以上、それは警察へ提出し、いつ、どこで、誰が発見したのかを記録してもらうべき証拠です」 高遠が差し出した手を見た私は、反射的に写真を胸元へ引き寄せてしまい、その露骨な拒絶に自分でも気まずくなったが、謝罪の言葉はすぐには出てこなかった。「あなたが証拠を隠すと思ったわけではありません。ただ、昨日までなら、高遠さんに預けておけば間違いないと考えたのに、いまは、間違いないと考えることそのものが怖いんです」「分かっています、と格好よく答えられればよいのでしょうが、正直に言えば傷つきましたし、冬真さんが亡くなった直後からあなたを支えてきたつもりの自分が、ほんの二日で疑われる側へ移ったことに腹も立っています。それでも、疑われたくないという私の感情と、証拠を適切に扱う必要は別ですから、相良さんへ連絡して、到着するまで誰も書斎へ入れないようにしましょう」「そういうふうに正しいことを言われると、疑っている私だけがひどい人間になったように感じますけれど、高遠さんは、私に罪悪感を持たせようとしているわけではないんですよね」「まったくその気がないと言えば嘘になります。私は弁護士である前に、疑われれば腹を立てる人間ですし、少しくらい申し訳なく思ってほしいという幼稚な気持ちもありますが、その気持ちに従って証拠を取り上げるほど、自分を見失ってはいません」 高遠は苦笑しながら携帯電話を取り出したが、その率直さに安心した自分まで、私は疑わなければならなかった。人は、嘘をつくときにすべてを偽るのではなく、相手が信じやすい程度の本音を混ぜ
last updateLast Updated : 2026-08-13
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第5話 亡き夫の兄と、今日、結婚します

第5話 亡き夫の兄と、今日、結婚します 私が返事をしないまま窓の外へ顔を向けると、車はホテルへ続く大通りへ入り、雨に濡れた街灯の光が、一定の間隔で朔也の横顔を照らしては消していった。十二日間考えればよいと言われても、翌朝には取締役会が開かれ、古い研究資料が消されるかもしれない状況では、考える時間を与えられたというより、追い詰められた場所へ時計だけを置かれたように感じた。「十二日間待つような言い方をしましたけれど、本当は、明日の取締役会までに返事が欲しいのではありませんか。期限を正直に言えば私を脅しているように見えるから、選ぶ時間を与えたふりをしただけなら、その時点で契約に必要な誠実さがありません」「明日までに結婚しろとは言わないし、君が断った場合に備えて、椎名には信託委員会への仮処分を準備させている。ただ、裁判所が動くまでに研究資料を別の名目で処分される可能性はあるから、俺が明日の返事を期待していないと言えば嘘になる」「それなら、最初から、明日までに決めてほしいと言えばよかったでしょう。自分は強制していないという形を残しながら、私が断れば証拠が消えるかもしれないと説明するのは、選択肢を与えることではなく、断った責任まで私へ背負わせることです」「君の言うとおりだし、俺は、自分が嫌われない形で必要な答えを得ようとした。冬真なら、君を守るためだと言って肝心な事情を隠したんだろうが、俺は、君に卑怯だと思われたくなくて、時間があるように見せかけたんだから、弟よりましな人間だとは言えない」「自分から卑怯だったと認めれば、それ以上責められないと思っていませんか」「思っているし、いま認めたことで、少しは許されたいとも思っている。人間は、自分の欠点を正確に説明できたからといって、その欠点を直したことにはならないのに、俺は昔から、言葉にすれば責任の半分くらいを払った気になるらしい」 朔也の言葉に腹が立ちながら、言い返す言葉を探しているうちに、車はホテルの車寄せへ到着した。入口にはすでに数人の記者が立っていたが、運転していた椎名は地下駐車場へ車を回し、今夜から自分が手配した警備員を廊
last updateLast Updated : 2026-08-14
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第6話 新婚初夜に、夫の棺が届きました

第6話 新婚初夜に、夫の棺が届きました 冬真の名前で届いた文章を読んだ朔也は、私が握り返していた手を振りほどくことも、安心させるために強く握り直すこともせず、そのままの力で支えながら、携帯電話の画面を椎名と真奈へ見える位置まで持ち上げた。「この写真は区役所の中で撮られているから、外で待っている記者が望遠レンズで撮ったものではないし、俺たちの契約内容だけでなく、株式の正確な割合まで知っている。警察へ連絡したあと、澪は真奈さんと別の車で移動し、今夜は俺と離れた場所へ泊まったほうがいい」「犯人から一人にするなと言われたから一緒にいる、という判断もしたくありませんけれど、脅迫が届いた途端に私を別の場所へ移し、あなた一人が囮になるというのも、契約で禁止したばかりの行動です。危険を説明したうえで選ばせると約束したのに、結婚から一時間もしないうちに、もう忘れたんですか」「忘れてはいないが、相手は次の棺を用意したと具体的に言っているし、俺が殺される可能性と、君まで巻き込まれる可能性を同じ重さで扱うことはできない」「自分が死ぬことだけを軽く扱う人は、相手の命を大切にしているのではなく、残される人間が何を背負うかを考えていないんです。冬真に黙って死なれたばかりの私へ、今度はあなたまで、守るために一人で死ぬと言うつもりなら、そんな結婚は今日中に終わらせます」「一人で死ぬつもりはないし、警備も警察も使う。ただ、君がそばにいなければ守れる可能性が上がると考えただけだ」「それなら、『別々に行動したほうが安全だと思うけれど、どうする』と尋ねてください。私が同じ結論を選ぶとしても、あなたが決めてから知らせるのと、私が選ぶのとでは意味が違います」 朔也は何かを言い返しかけたが、椎名から、契約違反第一号として記録される前に謝ったほうが安上がりだと告げられ、わずかに顔をしかめた。「分かったし、結婚した直後から君の意見を聞かずに決めようとしたことは謝る。俺は今夜、警備を入れた祖母の家へ移る予定だが、犯人が俺の居場所を知っている可能性もあるから、君には警察が用意する別の場所へ泊ま
last updateLast Updated : 2026-08-15
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第8話 亡き夫も、新しい夫も、私を利用していました

第8話 亡き夫も、新しい夫も、私を利用していました 胸を刃物で刺されたような痛みはなく、泣き崩れることも、画面へ物を投げつけたい衝動もなかった。代わりに、冬真と初めて会った日の光景が、古い監査資料を差し替えられたときのように、一枚ずつ別の意味へ置き換わっていった。 四年前、内部監査に関する研究会で、隣の席へ遅れて座った冬真は、久瀬製薬の副社長という肩書を名乗らず、休憩時間に私が落とした資料を拾い、数字の誤記を一つ指摘した。私が、拾ってもらった礼と、頼んでもいない確認作業への苦情を同時に述べると、彼は、あなたは礼を言いながら怒れる人なのですねと笑い、その三日後、研究会の事務局を通して食事へ誘ってきた。 あの出会いが偶然ではなかったのなら、隣の席も、資料を拾ったことも、誤記を指摘して会話のきっかけを作ったことも、全てが準備されていた可能性がある。冬真が私を愛した日を探そうとするより先に、どこまでが計画だったのか調べようとしている自分に気づき、私は、夫を亡くした妻ではなく、架空取引の範囲を確定する監査人へ戻らなければ呼吸さえできないのだと思った。『君と出会うため、俺は研究会の参加者名簿を事前に確認し、空席だった隣の席を取った。君が資料を落としたことは偶然だが、誤記に気づいても黙っていれば、話す機会を失うと思い、嫌われてもよいから声をかけた。その時点で俺が知りたかったのは、雨宮修司が亡くなる前、娘へ何を話し、どの遺品を残したかということだけだった』 まるで私の記憶へ返事をするように、映像の冬真が説明を続けたため、私は、喉の奥に上がってきた笑いを飲み込んだ。亡くなる三日前まで、彼は、私が最初に思い返す場面を予測できるほど私を理解していたのに、真実を聞けばどう傷つくかだけは、自分の都合よく理解しなかったことになる。『君の父親は、アウローラ計画の会計監査を担当し、治験費用の一部が、死亡した被験者の遺族へ口止め料として流れていることを発見した。父と会社は、修司さんが金を横領したように帳簿を書き換え、告発を止めたが、彼は改竄前の原本を複製し、どこかへ隠した。俺は、その原本が君へ渡されたと考えて近づき、交際を始めてからも、君が持
last updateLast Updated : 2026-08-16
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第9話 最初の被害者は、黒幕候補の母親でした

第9話 最初の被害者は、黒幕候補の母親でした 着信音が七回鳴ったところで、私は応答の表示へ指を触れ、相良が通話を記録できる状態になっていることを確認してから、画面の向こうにいる彼へ携帯電話を近づけた。父の紙片に記された『高遠香織』という名をこちらから告げれば、高遠が何を知っていたか判断できなくなるため、私は、最初の被験者が誰なのか、あなたの言葉で話してくださいとだけ尋ねた。『原本の一頁目が残っていたのですね。ほかの写真を奪われても、雨宮さんは、娘へ届くべきものを一つだけ守れたということですか』「質問に答えてください。あなたは、その写真が残っていたことを、どのように知ったのですか。侵入者が十一枚を持ち去り、一枚を見落としたことは、まだ警察と私たちしか知りません」『知っていたのではなく、あなたが電話へ出たことで、何かが残ったと推測しました。全てを失ったのなら、あなたは、私の声を聞く前に、侵入者を追うよう求めたでしょうし、最初の被験者が誰かと尋ねたということは、名前を読んだか、名前へつながる記号を見つけたはずです。私の説明を、先に答えを知っていた証拠として扱うなら、それでも構いませんが、香織という名が書かれているのでしょう』「高遠香織さんは、あなたの何ですか。同じ姓だから家族だと決めつけるつもりはありませんので、続柄と、アウローラ計画との関係を説明してください」 電話の向こうで、高遠が深く息を吐き、これまで弁護士として選び続けてきた整った声ではなく、喉に何かが引っかかった人間の声で答えた。『香織は、私の母です。アウローラ計画が正式に始まる十六年前、久瀬製薬が、まだ久瀬薬品研究所と名乗っていた時代に、後のAR系化合物へつながる薬を投与され、二十九歳で死亡しました。当時八歳だった私は、母が借金を苦に睡眠薬を飲み、自ら命を絶ったと教えられましたが、遺体を見せてもらえず、葬儀では中身の見えない棺へ花を入れました』 中身を確かめられない棺という言葉が、冬真の葬儀と重なり、私は、自分の指が携帯電話を強く握ったことに気づいた。高遠が最初に冬真の遺体を疑わず、棺を開けることへ慎重だっ
last updateLast Updated : 2026-08-17
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