澪が画面の一文を見つめたまま動けずにいると、颯真から電話がかかってきた。「悪い、澪。玲奈をお前だと思って、そのまま連れてきちゃった」受話口から聞こえるのは、いつもと変わらない穏やかな声だった。「もうスタジオに入っちゃってるし、カメラマンにも急かされてる。今から迎えに戻る時間はないんだ。お前たち、顔はそっくりなんだから、黙ってれば誰にも分からないよ」澪は何も返せず、スマホを握りしめた。指の関節が白く浮く。――また、この言葉。もう20年以上、聞かされ続けてきた。幼い頃、賞を取ったのは澪だったのに、両親は玲奈だと思い込み、旅行へ連れていったのも姉だけだった。中学では玲奈の無断欠席が澪のものとして処理され、処分まで澪の記録に残った。高校では寝る間も惜しんで勉強し、難関大学のサマープログラムへの参加枠を勝ち取った。それでも両親が連れていったのは玲奈で、帰ってきてからも悪びれもせず言った。「間違えたのよ。玲奈を澪だと思ってたの」その夜、澪は階段の踊り場にうずくまり、息ができなくなるほど泣いた。見つけてくれたのは颯真だった。まだ少年だった彼は澪を抱き寄せ、頭に顎をのせるようにして、迷いなく言った。「澪。俺だけは絶対、お前を誰かと間違えたりしない」その言葉どおり、颯真はどんな人混みの中でも真っ先に澪を見つけた。玲奈を澪と呼ぶことも、一度もなかった。――ある学校行事の日までは。澪と玲奈がたまたま同じ白いワンピースを着ていたその日、颯真は初めて玲奈に向かって「澪」と呼びかけた。それを境に、人違いは少しずつ増えていった。初めのうちは、そのたびに真剣に謝っていた颯真も、いつしか「ごめん」のひと言で済ませるようになり――今日に至っては、前撮りの相手を姉と間違えても、「顔は同じなんだから、黙っていれば分からない」と言うだけだった。澪が何も言えずにいると、受話口の向こうから玲奈の声がする。「颯真、ちょっと来て」「うん、今行く」玲奈に返した声だけが、ひどくやさしい。けれど澪に話を戻したときには、もう何事もなかったような調子だった。「じゃあ澪、もうすぐ終わるから。終わったら帰る。玲奈はお前の代わりに1日付き合ってくれたんだ。今夜はちゃんと飯を作って、礼くらい言えよ」そこで通話は切れた。暗くなった画面に、澪の顔
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