電話を切り、ドレスのキャンセル明細をゴミ箱へ放り込んだ。新居のドアを開けると、結花が好む甘ったるいピーチウーロンの香りが鼻をついた。玄関には、ピンク色のウサギ耳がついた彼女のスリッパまで置いてあった。つま先は当然のように家の中へ向いており、ここが自分の居場所だと主張しているようだった。私は目をそらし、裸足のままリビングへ入った。ローテーブルには、案件の記録ファイルが何冊も広げられていた。一番上にあったのは、私が半月かけて書き上げた準備書面だ。ところが作成者欄から私の名前が消され、赤いペンで「倉橋結花」と書き換えられていた。その脇には付箋が貼られていた。【颯斗、正式採用のお祝いありがとう!大好き!】踊るような文字の横には、ハートまで描かれていた。私は不格好に書かれた名前へ指を置いた。腹は立たなかった。ただ、あまりの馬鹿らしさに笑いそうになった。付箋を剥がそうとした時、玄関のドアの鍵が開く音がした。颯斗が入ってきて、その後ろから結花が姿を見せた。裸足で立っている私を見た颯斗は、わずかに眉を寄せた。「どうして裸足なんだ。風邪でもひいたら、また世話が焼けるだろ」「私のスリッパが見当たらないの」颯斗が言葉に詰まった。すると結花が彼の背中から顔をのぞかせ、いたずらっぽく舌を出した。「涼音さん、ごめんなさい。昨日、資料を取りに来た時にコーヒーをこぼしちゃって、クリーニングに出すほどのものでもないって颯斗が捨てたんです。怒ってませんよね?」私は首を横に振った。「別に」どうせ、もう私が片づける必要もないのだから。私のあまりに淡々とした返事が意外だったのか、颯斗は怪訝そうに私を見た。彼は高級ブランドの紙袋をテーブルに置き、私の額に触れようと手を伸ばした。「今日は妙におとなしいな。ドレスの試着はどうだった?結花が司法試験に受かったから、お祝いを買ってきたんだ」そう言ってから、ポケットから小さなベルベットの箱を取り出し、私に差し出した。「これはついでに買ってきた。気に入るといいんだが」箱を開けると、入っていたのは飾り気のない銀のネックレスだった。小さな石すらついていない。一方、結花の首元では、同じブランドの限定品らしいダイヤのネックレスが輝いていた。値段は軽く300万
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