All Chapters of 離婚?上等!――クズ夫と裏切った親友を捨てた私は、世界一の外科医になって御曹司に溺愛されます!: Chapter 1 - Chapter 3

3 Chapters

1.手術前夜、夫は愛人と花火を見ていた

「成功率は、五割にも満たないのです」担当の形成外科医に告げられた言葉が、何度も頭の中を巡っていた。桐生倫子は病室のベッドに横たわり、傷跡が残る右手を見つめた。明日、神経修復手術を受ける。うまくいけば、再び細かい作業もできるようになるかもしれない。けれど失敗すれば――。「……」倫子はぎゅっと目を閉じた。不安で心臓が嫌な音を立てている。倫子はスマートフォンを手に取った。桐生智也。夫の名前を押し、通話ボタンをタップする。呼び出し音が鳴る。だが、智也が電話に出ることはなかった。予想していたけれど、手術前日くらい甘えても許されるのではないかと思ったのだ。倫子は通話を切り、メッセージ画面を開いた。【明日、手術です。時間に間に合うように来てください】送信。しばらくして、既読がついた。けれど、返信はない。「……そう」倫子は小さく息を吐いた。万が一、手術中に予定外の処置が必要になった場合に備え、病院からは家族に待機してほしいと言われている。実家の母に来てもらおうとしたら、智也は「俺がいるんだから」と難色を示した。「でも、あなたは忙しいでしょう?」「俺が社長なんだ。スケジュールくらい好きに決められる」不機嫌そうに言う智也に、嬉しいというより複雑な気持ちになった。それならば、なぜ他のお願い事のときは「忙しい」と話も聞いてくれないのか――そんなことを思い出していると、病室のドアがノックされた。「失礼します。桐生倫子さん、明日の手術について、最終確認をさせてくださいね」看護師が書類を持って入ってくる。説明を受け、倫子は必要な欄に目を通した。そして、最後のページで手を止める。緊急時の連絡先。家族代表者。そこには、桐生智也と署名してある。入院前に、署名してくれたのだ。これがなければ、母に頼んで田舎から出て来てもらったのだが。母を家に泊めるのが嫌で断ったのか――そんな、嫌な考えが頭をよぎった。まさか、そこまで人でなしではないだろう。……そう、思いたかった。   ***手術前夜である。なんとなく不安になり、眠れない。倫子は眠ることを諦め、病室を出た。ナースステーションの近くの、見舞客用のスペースで一人の看護師が休憩している。その人はスマートフォンを見ながら、楽しそうに声を
last updateLast Updated : 2026-08-21
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2.再生の魔術師になるまで

手術から数日後。桐生倫子は、予定より早く退院した。右手にはまだ包帯が巻かれている。医師からは無理をしないようにと言われていたが、一刻も早く離婚を成立させ、復学に備えたかった。タクシーを降り、自宅の前に立つ。ここはもう、自分の帰る場所ではない。最後の一仕事をするのだ。夕日が、沈もうとしていた。玄関のドアを開けると、リビングから楽しそうな笑い声が聞こえてきた。「ただいま」声をかけても、返事はない。倫子がゆっくりとリビングへ入ると、ソファに座っていた桐生智也が顔を上げた。その隣には、直也がいる。「……もう退院したのか」智也の第一声は、それだった。右手のことを気遣う言葉は、一つもなかった。「ええ。問題なく終わったから」「そうか」たった一言、それだけだった。智也は、すぐにスマートフォンへ視線を戻した。倫子はしばらくその姿を見つめていたが、意を決して口を開いた。「花火は、楽しかった?」智也の指が止まる。「……何の話だ」「つい、五日前の話よ。ヘリコプターで花火を見るのって、楽しいんでしょうね」智也の表情が変わった。直也はようやくゲーム機から顔を上げた。「美琴さんを悪く言うな!」「悪くなんて言っていないわ。事実を確認しただけよ」直也は口を尖らせた。「僕、美琴さんと一緒に暮らしたい。こんなママ、いらないよ」躾のために叱る倫子と、会うたびに甘やかす美琴。まるで、心臓が握り潰されたように痛い。すると、智也が面倒そうに口を開いた。「子どもの前で変な話をするなよ」「変な話?」智也が何を言おうとしているのか、理解できなかった。「あのSNSのことを言っているなら、仕事の付き合いだ」「人生を一緒に歩むっていうのが?」「演出だよ」智也は眉をひそめた。「お前も、もう少し妻としての自覚を持ったらどうだ」倫子は思わず笑いそうになった。妻としての自覚。手術前日に連絡を無視され、当日にすっぽかされ、夫が親友と新しい人生を歩むと発表する。そんな状況で、自分に足りないのは妻としての自覚なのだろうか。倫子はバッグから一枚の書類を取り出し、テーブルの上に置く。「何だ、これ」智也が書類を見る。そして、表情が変わった。「離婚届?」「ええ」倫子はまっすぐ夫を見つめた。「署名して」智也は呆然としながら、倫子の顔を眺めた
last updateLast Updated : 2026-08-21
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3.話晩餐会の前に

空港のVIPゲートから出てきた女を見て、桐生智也は足を止めた。「……倫子?」隣にいた白木美琴は、顔をしかめた。「まさか。似ているだけよ」六年前に離婚されて、何も持たずに自分たちの前から去った女だ。さらに言うなら、結婚する前に医学の道から転げ落ちた、目障りな存在。そんな負け犬が、このような場所にいるはずがない。けれど……。長身の男性の隣を歩く女性は、倫子に似ている。智也は、その女と目が合った気がした。ほんの一瞬。だが、まるで見知らぬ他人を見るような視線は、智也を素通りした。そのまま隣の男の腕に自然と手を添える。濃紺のスーツと紺色のワンピース。まるで最初から対になるように選んだ装いだった。二人は親密そうに囁き合い、警備員にガードされたまま通路の先へ消えていった。「……何なんだ、あいつ」智也の胸に、理由の分からない苛立ちが湧いた。「あの男性が『再生の魔術師』なのかしら?」と、美琴が呟いた。それからしばらく様子を見ているが、他にVIP扱いされる人は出てこなかった。智也はスマートフォンを取り出した。「今夜のパーティーに入れるようにしろ」電話の向こうへ命じる。「俺と妻の二人分だ」   ***倫子たちは空港を出て、タクシーに乗った。「桐生夫妻が、今夜のパーティーに出席するそうです」長身の男――イーサン・タンがスマートフォンを見て、倫子に告げた。「元の招待客から横取りしたようです。出席を阻止しますか?」隣に座る朝倉倫子は、窓の外を眺めていた。懐かしい日本語が、車窓の向こうに溢れている。「いいえ。そのままで」倫子は淡く微笑んだ。「よろしいのですか?」「せっかく自分から来てくれるんですもの」イーサンはぴくりと眉を上げたが、それ以上は何も言わなかった。今回の来日で彼は、倫子のアシスタントとして同行している。その実、彼女を守るボディガードでもあった。「あの二人が来るなら、ビジネス用のパンツスーツという訳にはいかないわね」「だから、ドレスを用意した方がいいと……」イーサンは小言を途中で切り上げ、運転手に高級ブランド店へ向かうよう指示を出した。「パーティー用のドレスなんて、その場に馴染めればいいのよ」倫子はそう言って車を降りた。店内で、彼女は一着のドレスを選んだ
last updateLast Updated : 2026-08-24
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