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離婚?上等!――クズ夫と裏切った親友を捨てた私は、世界一の外科医になって御曹司に溺愛されます!
離婚?上等!――クズ夫と裏切った親友を捨てた私は、世界一の外科医になって御曹司に溺愛されます!
Author: 紡里

1.手術前夜、夫は愛人と花火を見ていた

Author: 紡里
last update publish date: 2026-08-21 11:15:30

「成功率は、五割にも満たないのです」

担当の形成外科医に告げられた言葉が、何度も頭の中を巡っていた。

桐生倫子きりゅうりんこは病室のベッドに横たわり、傷跡が残る右手を見つめた。

明日、神経修復手術を受ける。

うまくいけば、再び細かい作業もできるようになるかもしれない。

けれど失敗すれば――。

「……」

倫子はぎゅっと目を閉じた。不安で心臓が嫌な音を立てている。

倫子はスマートフォンを手に取った。

桐生智也きりゅうともや。

夫の名前を押し、通話ボタンをタップする。

呼び出し音が鳴る。

だが、智也が電話に出ることはなかった。

予想していたけれど、手術前日くらい甘えても許されるのではないかと思ったのだ。

倫子は通話を切り、メッセージ画面を開いた。

【明日、手術です。時間に間に合うように来てください】

送信。

しばらくして、既読がついた。

けれど、返信はない。

「……そう」

倫子は小さく息を吐いた。

万が一、手術中に予定外の処置が必要になった場合に備え、病院からは家族に待機してほしいと言われている。

実家の母に来てもらおうとしたら、智也は「俺がいるんだから」と難色を示した。

「でも、あなたは忙しいでしょう?」

「俺が社長なんだ。スケジュールくらい好きに決められる」

不機嫌そうに言う智也に、嬉しいというより複雑な気持ちになった。

それならば、なぜ他のお願い事のときは「忙しい」と話も聞いてくれないのか――

そんなことを思い出していると、病室のドアがノックされた。

「失礼します。桐生倫子さん、明日の手術について、最終確認をさせてくださいね」

看護師が書類を持って入ってくる。

説明を受け、倫子は必要な欄に目を通した。

そして、最後のページで手を止める。

緊急時の連絡先。

家族代表者。

そこには、桐生智也と署名してある。入院前に、署名してくれたのだ。

これがなければ、母に頼んで田舎から出て来てもらったのだが。

母を家に泊めるのが嫌で断ったのか――そんな、嫌な考えが頭をよぎった。

まさか、そこまで人でなしではないだろう。

……そう、思いたかった。

   ***

手術前夜である。

なんとなく不安になり、眠れない。

倫子は眠ることを諦め、病室を出た。

ナースステーションの近くの、見舞客用のスペースで一人の看護師が休憩している。

その人はスマートフォンを見ながら、楽しそうに声を上げた。

「花火が上がった!」

画面には、夜空いっぱいに広がる大輪の花。音声は切っているようだ。

「あら、眠れませんか?」

看護師が倫子に気づき、画面を少し傾けた。

「退院して元気になったら、こんな楽しみもありますよ」

「そうですね」

倫子は微笑んだ。

「ヘリコプターで花火を上から見るんですって」

画面に映った人物を見て、笑顔が凍りつく。

ヘリコプターの機内。

窓の外には、夜空を彩る花火。

そして、その前に寄り添う男女。

サングラスで顔を隠した男性。その隣に、白木美琴しらきみことがいた。二人の間には、とても親密な空気が流れている。

「……智也?」

美琴はカメラに向かって手を振っている。

『今日は、特別な夜になりそうです』

画面の下にそうテロップが流れた。

コメント欄には、すぐに祝福の言葉が並んでいく。

夫が、美琴の肩を抱いた。

『これからは、白木美琴と人生を歩んでいきます』

そんな言葉が画面に流れる。

倫子は、すっと血の気が引いた。

さらに、その隣には目元を隠す仮面を着けた小さな男の子がいた。

直也なおやだ。

倫子が、自分の子として育ててきた子ども。

直也は満面の笑みで、手にした札を掲げていた。

【みことまま だいすき!】

「……っ」

息が止まった。

「大丈夫ですか?」

看護師の声が、遠く聞こえる。

   ***

白木美琴。

大学で出会った親友だ。

田舎から上京し、倫子には知り合いがいなかった。サークルに入る余裕がない中で、同級生は貴重な存在だった。

六年前。医学部の五年生が終わり、最終学年が目前に迫っていた。

美琴に、忙しくなる前に最後に遊ぼうと誘われた夜。

酒を飲み、急に意識を失った。

そして目を覚ましたとき――隣には、智也がいた。

それが、すべての始まりだった。

「友達の恋人を奪った女」

美琴は泣きながら、自分は裏切られたのだと周囲に訴えた。

一番味方になってくれそうな美琴を傷つけてしまい、倫子は途方に暮れる。

結局、倫子は医学部を休学した。

妊娠したからだ。

そして美琴は、倫子がいなくなった医学部で「天才」と呼ばれるようになった。

もしかしたら倫子が手にしていたかもしれない栄誉を、美琴が手に入れた。

今思えば、何かがおかしかった。

入籍してすぐに倫子は流産した。その数か月後に、智也は一人の赤ん坊を連れてきた。

「俺たちの子として育てよう」

そのときの倫子は、何も疑わなかった。

いや。

疑いたくなかったのだ。

夢を諦め、母を泣かせたのだ。その分、新しい家族と幸せにならなければと――

   ***

翌日。

麻酔が効いてくるまで、智也は現れなかった。

そして、手術が終わり、倫子が目を覚ましたとき、病室には誰もいなかった。

「……智也?」

声を出してみたが、返事はない。

右手はまだ、感覚がなかった。

枕元のスマートフォンを左手で取る。

個人的なメッセージは一件もない。

一瞬、自分が何のためにここに存在しているのか、わからなくなった。

美琴のSNSを開く。

そこには、数え切れないほどの通知が届いていた。

美琴と智也を祝福する投稿。

二人はお似合いだ。

そこに直也が自然と馴染んでいる。

顔立ちが、智也と美琴を混ぜ合わせたようだった。

もしかして、直也の生みの親は……美琴?

画面を見つめながら、倫子はしばらく動けなかった。

涙が出る。

けれど、それを拭う右手は動かない。

「……そう」

かすれた声で呟いた。

「私は……必要なかったんだ」

夫にも。

親友にも。

そして、息子にとっても。

「だったら……」

倫子はスマートフォンを膝の上に置き、左手で予定表に文字を打ち込んだ。

右手で打つより時間がかかる。

【離婚】

少し考えたあと、続ける。

【リハビリ】

そして――

倫子は、ゆっくりと最後の言葉を入力した。

【復学】

画面を見つめる。

六年前に諦めた、医師になるという夢。

「まだ……終わってない」

もし右手が元に戻らなくても、医師にはなれる。

夫も、家族も、親友もいらない。

「私の人生は……私のものだから」

今度こそ。

誰にも奪わせない。

倫子は、固定されて動かない右手をそっと見つめた。

そして、左手で予定表を閉じる。

――奪われた人生を、この手で取り戻す。

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  • 離婚?上等!――クズ夫と裏切った親友を捨てた私は、世界一の外科医になって御曹司に溺愛されます!   45.気持ちと苛立ち

     医療法人白徳会の理事長、白木総一郎は苛立っていた。 国際医療グループに朝倉倫子を指名して手術依頼を出したのに、断られたのだ。「日本で標準的に治療可能な症例であり、国外へ搬送する医学的メリットが乏しい」 そんな理由で―― 有名な女優の顔の傷跡を目立たなくする手術だ。 撮影中の事故で、額に3センチほどの傷跡が残った。 髪型やメイク、画像処理で対応できるが、やはり「なかったことにしたい」と願うのは普通だろう。 形成外科としては、一般的な手術の範囲だ。 その女優は、外国の映画に出演することが決まっていた。 世界進出に向けて、有名な医師に手術させる。 両者が相乗効果で名を上げられる。白徳会は手術する場を提供する。 誰にとっても、いい話のはずだ。 せっかく話を持ちかけてやったのに、「神経をつなぐ必要がない」からやらないだと? 総一郎は返信のメールに納得ができず、国際電話をかけた。「なぜだ。朝倉倫子ならできるのだろう?」 と、最初から責め立てるように、大きな声を出した。 電話を受けた医療コーディネーター、イーサン・タンは受話器を耳から離した。「技術的には可能です。しかし、ドクター・アサクラでなければならない医学的理由がありません。そのように回答いたしましたが?」 そのすました態度は、さらに総一郎を苛立たせた。 お高くとまったものだ。 ああ。日本にだって、有能な医師はたくさんいる。そんなことは百も承知だ。 だが、それでは話題にならない。 あの女優だって、「そこまでして、撮影に向き合うプロ根性」という評判が捨てがたく、傷を残しているのだ。 話題作り、話を振られやすいネタ作り。 彼女自身の意思かはわからないが、少なくとも事務所はそう考えている。――昔はよかった。 医師というだけで尊敬された。病院の経営が危ぶまれることも、医師の数が足りないなんてこともなかった。 今では、いつ、何を理由に訴訟を起こされるかわからず、赤字にならないよう経営に腐心する。 親から受け継いだものを守るだけでも大変な時代だ。 子どもたちがもっと頼りになればよかったが、どうも頼りない。まだまだ自分が踏ん張らないといけない。 医療法人や病院の名を上げ、価値を高めるのだ。 総一郎は、自らを奮い立たせた

  • 離婚?上等!――クズ夫と裏切った親友を捨てた私は、世界一の外科医になって御曹司に溺愛されます!   44.敵と好敵手

     できることを頑張っているだけなのに、誰かに「ずるい」と非難される。 そのことが、朝倉倫子を疲弊させた。 学生時代は、奨学金をもらっていることを、ずるいと言われた。学費を出してくれる親がいる方が、恵まれていると思う。 医師になり、手術をして、人を助けることができるのは嬉しい。 本来なら、そこには地元の患者であろうと、国外からの要人であろうと区別はないはずだ。 要人の手術をする機会が多いせいで、また、ずるいと言われた。 国際医療グループには、国外からの患者向けの紹介窓口がある。 紹介された患者については、紹介元の主治医と調整を行い、医療情報のやり取りなどをする必要がある。国際医療グループで担当する医師が、直接あるいは医療コーディネーターを介してやり取りすることになるのだ。 両者で治療方針を調整し、ときには共同で手術をすることもある。 そのため、医師としての技量はもちろんのこと、他の医師や医療スタッフと円滑に連携する能力も求められる。 自分のほうが上だと相手に思い知らせたい――そんなタイプは、連携に支障をきたしかねないため、敬遠される傾向にあった。 選ばれるのは光栄だが、手術以外に神経を使うことが多いのだ。「ずるい」と言われて、納得できない気持ちになった。   ***「ドクター・リン。この患者を担当してくれないかな?」 地元の患者を主に担当している医師が、外科医のスタッフオフィスにやってきて、倫子に声をかけた。 倫子はパソコンの前に移動し、患者の電子カルテを一緒に見ることにした。 舌がんで、舌の半分近くを切除する必要がある患者だった。「腫瘍を確実に取り切ることを考えると、かなりの範囲を切除する必要があるけれど、できるだけ残存部分を残したい。いい方法がないかも含めて、相談したいんだ」「悪性腫瘍の範囲想定は? ……ああ、これね。遊離皮弁による舌再建がいいかしら」 前腕や太ももなどから皮膚や軟部組織を採取し、移植する。そうして、舌の形と機能をできるだけ補うやり方だ。「この患者は、地元の屋台を営む男性なんだ。手術後に舌が動くようになればいいというだけじゃなく、味を感じるようにしたい」 思ったよりも、大きな問題だ。「そんな条件があるなら、話が変わってくるわ」「舌の再建部分は、ドクタ

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