LOGIN空港のVIPゲートから出てきた女を見て、
「……
隣にいた
「まさか。似ているだけよ」
六年前に離婚されて、何も持たずに自分たちの前から去った女だ。
さらに言うなら、結婚する前に医学の道から転げ落ちた、目障りな存在。
そんな負け犬が、このような場所にいるはずがない。
けれど……。
長身の男性の隣を歩く女性は、倫子に似ている。
智也は、その女と目が合った気がした。
ほんの一瞬。
だが、まるで見知らぬ他人を見るような視線は、智也を素通りした。
そのまま隣の男の腕に自然と手を添える。濃紺のスーツと紺色のワンピース。まるで最初から対になるように選んだ装いだった。
二人は親密そうに囁き合い、警備員にガードされたまま通路の先へ消えていった。
「……何なんだ、あいつ」
智也の胸に、理由の分からない苛立ちが湧いた。
「あの男性が『再生の魔術師』なのかしら?」
と、美琴が呟いた。
それからしばらく様子を見ているが、他にVIP扱いされる人は出てこなかった。
智也はスマートフォンを取り出した。
「今夜のパーティーに入れるようにしろ」
電話の向こうへ命じる。
「俺と妻の二人分だ」
「いえ。うちの
***
倫子たちは空港を出て、タクシーに乗った。
「桐生夫妻が、今夜のパーティーに出席するそうです」
長身の男――イーサン・タンがスマートフォンを見て、倫子に告げた。
「元の招待客から横取りしたようです。出席を阻止しますか?」
隣に座る朝倉倫子は、窓の外を眺めていた。
懐かしい日本語が、車窓の向こうに溢れている。
「いいえ。そのままで」
倫子は淡く微笑んだ。
「よろしいのですか?」
「せっかく自分から来てくれるんですもの」
イーサンはぴくりと眉を上げたが、それ以上は何も言わなかった。
今回の来日で彼は、倫子のアシスタントとして同行している。その実、彼女を守るボディガードでもあった。
「あの二人が来るなら、ビジネス用のパンツスーツという訳にはいかないわね」
「だから、ドレスを用意した方がいいと……」
イーサンは小言を途中で切り上げ、運転手に高級ブランド店へ向かうよう指示を出した。
「パーティー用のドレスなんて、その場に馴染めればいいのよ」
倫子はそう言って車を降りた。
店内で、彼女は一着のドレスを選んだ。
露出が控えめで上品、かつ水色から青へのグラデーションが美しい。
試着室から出ると、店員も満足そうに頷いた。
「とてもお似合いです」
「そう? では、こちらにします」
倫子が購入を決めた直後だった。
「ちょっと待って。それ、私が買うわ」
振り返ると、そこにはブランド物で身を固めた女性が立っていた。
その女性は倫子を一瞥し、当然のように店員へ告げる。
「今夜、医療関係者のパーティーに出るの。このドレスを着ていきたいわ」
倫子は静かに答えた。
「申し訳ありませんが、先に選んだのは私です」
その女性の表情が曇る。
「私が誰だか知らないの?」
「知りません」
以前、美琴から「従姉妹だ」と写真を見せられたことがあり、顔だけは知っている。だが、知り合いではない。
「私は白木家の人間よ。医療法人
店長が慌てて駆け寄ってきた。
「申し訳ありませんが、お客様……今回は白木様にお譲りください」
店長は、倫子にそう言った。
「……あなたは、その接客を正しいと思っているの?」
倫子は店長を見つめた。
「ですが、お客様のお会計はまだ済んでいません。お得意様を優先するのを、ご理解いただきたく――」
店員が、「ほら見ろ」とばかりに見下してくる。
横で従姉妹が笑う。
「早く脱いだら?」
イーサンが内ポケットからブラックカードを取り出しかけた。どちらが上客か知らしめるために。
倫子はそれを手で制す。
「結構です。もう買いたいと思いません」
倫子は試着室に向かった。
その背中を見たイーサンはスマートフォンを取り出し、どこかへ連絡を入れた。
倫子はドレスを手に試着室を出てきた。
待ち構えていた店員は、ドレスを引ったくるように受け取る。
そのとき、店の入り口から派手な声が響いた。
「あら、やだ! リンちゃん先生ったら。こんな店で何をしているの?」
現れたのは、世界的に有名なデザイナーだった。
近くにある店舗から、わざわざこの店に顔を出すということは……
「イーサン。あなたがジュンコさんを呼んだのね?」
「これから別の店で選ぶのは、時間の無駄だと思いましたので」
イーサンは倫子の方も見ずに、しれっと言った。
「んもう! ドレスが必要なら、うちに来ればいいのに」
デザイナーのジュンコは、倫子の姿をじろじろと眺めた。
「あなた、今日の格好はまあまあだけど……。イーサンの言うことを聞いたのね。
それにしてもパーティーに、また市販品を着ていくつもりだったの?」
「顔出ししないで仕事をしているのだから、目立たない方がいいのよ。
それにジュンコさんは料金を受け取ってくださらないから、却って行きにくいんです」
倫子はほんの少し拗ねるような口調になった。
「恩人からは受け取れないって言っているでしょう」
そう言いながら、ジュンコは倫子が脱いだばかりのドレスに視線を走らせた。
「あら。この胸の切り替えのライン、縫製が甘いわね」
店長の顔色が変わり、震えだした。
ジュンコは店内を見回して、ため息を吐いた。
「この店、昔はもっと質が良かったのにねぇ」
倫子は美琴の従姉妹へ微笑んだ。
「せっかくのパーティー、そのドレスで楽しめるといいですね」
美琴たちは誰かの招待状を奪っている。分家筋の彼女のそれは、真っ先に狙われたのではないだろうか。
「リンちゃん先生。まだパーティーまで時間があるでしょ。念のために用意していたドレスがあるの。試着してもらうわよ」
「ええ。今夜は重要なパーティーですから」
返事をしたのは、倫子ではなくイーサンだった。
「ホテルにチェックインして、昼寝がしたかったのに」
倫子はジュンコに引きずられるようにして、店を出る。
その背中を、美琴の従姉妹は呆然と見送るしかなかった。
そして夜。
かつて桐生倫子と呼ばれた女は――朝倉倫子として、再び美琴と智也の前に姿を現す。
医療法人白徳会の理事長、白木総一郎は苛立っていた。 国際医療グループに朝倉倫子を指名して手術依頼を出したのに、断られたのだ。「日本で標準的に治療可能な症例であり、国外へ搬送する医学的メリットが乏しい」 そんな理由で―― 有名な女優の顔の傷跡を目立たなくする手術だ。 撮影中の事故で、額に3センチほどの傷跡が残った。 髪型やメイク、画像処理で対応できるが、やはり「なかったことにしたい」と願うのは普通だろう。 形成外科としては、一般的な手術の範囲だ。 その女優は、外国の映画に出演することが決まっていた。 世界進出に向けて、有名な医師に手術させる。 両者が相乗効果で名を上げられる。白徳会は手術する場を提供する。 誰にとっても、いい話のはずだ。 せっかく話を持ちかけてやったのに、「神経をつなぐ必要がない」からやらないだと? 総一郎は返信のメールに納得ができず、国際電話をかけた。「なぜだ。朝倉倫子ならできるのだろう?」 と、最初から責め立てるように、大きな声を出した。 電話を受けた医療コーディネーター、イーサン・タンは受話器を耳から離した。「技術的には可能です。しかし、ドクター・アサクラでなければならない医学的理由がありません。そのように回答いたしましたが?」 そのすました態度は、さらに総一郎を苛立たせた。 お高くとまったものだ。 ああ。日本にだって、有能な医師はたくさんいる。そんなことは百も承知だ。 だが、それでは話題にならない。 あの女優だって、「そこまでして、撮影に向き合うプロ根性」という評判が捨てがたく、傷を残しているのだ。 話題作り、話を振られやすいネタ作り。 彼女自身の意思かはわからないが、少なくとも事務所はそう考えている。――昔はよかった。 医師というだけで尊敬された。病院の経営が危ぶまれることも、医師の数が足りないなんてこともなかった。 今では、いつ、何を理由に訴訟を起こされるかわからず、赤字にならないよう経営に腐心する。 親から受け継いだものを守るだけでも大変な時代だ。 子どもたちがもっと頼りになればよかったが、どうも頼りない。まだまだ自分が踏ん張らないといけない。 医療法人や病院の名を上げ、価値を高めるのだ。 総一郎は、自らを奮い立たせた
できることを頑張っているだけなのに、誰かに「ずるい」と非難される。 そのことが、朝倉倫子を疲弊させた。 学生時代は、奨学金をもらっていることを、ずるいと言われた。学費を出してくれる親がいる方が、恵まれていると思う。 医師になり、手術をして、人を助けることができるのは嬉しい。 本来なら、そこには地元の患者であろうと、国外からの要人であろうと区別はないはずだ。 要人の手術をする機会が多いせいで、また、ずるいと言われた。 国際医療グループには、国外からの患者向けの紹介窓口がある。 紹介された患者については、紹介元の主治医と調整を行い、医療情報のやり取りなどをする必要がある。国際医療グループで担当する医師が、直接あるいは医療コーディネーターを介してやり取りすることになるのだ。 両者で治療方針を調整し、ときには共同で手術をすることもある。 そのため、医師としての技量はもちろんのこと、他の医師や医療スタッフと円滑に連携する能力も求められる。 自分のほうが上だと相手に思い知らせたい――そんなタイプは、連携に支障をきたしかねないため、敬遠される傾向にあった。 選ばれるのは光栄だが、手術以外に神経を使うことが多いのだ。「ずるい」と言われて、納得できない気持ちになった。 ***「ドクター・リン。この患者を担当してくれないかな?」 地元の患者を主に担当している医師が、外科医のスタッフオフィスにやってきて、倫子に声をかけた。 倫子はパソコンの前に移動し、患者の電子カルテを一緒に見ることにした。 舌がんで、舌の半分近くを切除する必要がある患者だった。「腫瘍を確実に取り切ることを考えると、かなりの範囲を切除する必要があるけれど、できるだけ残存部分を残したい。いい方法がないかも含めて、相談したいんだ」「悪性腫瘍の範囲想定は? ……ああ、これね。遊離皮弁による舌再建がいいかしら」 前腕や太ももなどから皮膚や軟部組織を採取し、移植する。そうして、舌の形と機能をできるだけ補うやり方だ。「この患者は、地元の屋台を営む男性なんだ。手術後に舌が動くようになればいいというだけじゃなく、味を感じるようにしたい」 思ったよりも、大きな問題だ。「そんな条件があるなら、話が変わってくるわ」「舌の再建部分は、ドクタ
朝倉倫子には、国外の重鎮や富裕層から手術の依頼が入ることがある。 国際医療グループとして依頼を受けるかどうか、そして誰に割り振るかは、医療コーディネーターたちの話し合いで決まる。 患者が好きな医師を自由に指名できるわけではない。 それでも、こんな陰口を耳にするようになった。「ドクター・リンは、手術室の予約を優先してもらえている。依怙贔屓だ」「彼女の患者だけ警備がつく。何様のつもり?」「そこまで特別扱いするほど腕がいいとは思えないけど」 実際には、患者側の事情や安全上の配慮といった理由がある。 けれど、嫉妬する側からすれば、「有力者に気に入られているから、優遇されている」――そんなふうに見えるのだろう。 ある日、倫子を名指して、難しい症例の手術依頼が来た。 すると、倫子をライバル視しているドクター・ナラヤンが横から手を挙げた。「僕が対応できます。ドクター・リンは予約がいっぱいですし、この患者には僕の方が適していると思います」 倫子に負けたくないという意気込みが、その場にいる人たちに伝わる。「私は、医療コーディネーターのイーサン・タンの指示に従います」 倫子は、特にこだわりを見せなかった。自分が執刀することに固執する理由もない。 倫子は、患者は医療的な知識を元に依頼してくるのではなく、たまたま知っている名前を口にしているとしか思っていないのだ。 ところが、患者側が譲らなかった。「ドクター・リンにお願いしたいのです。知人が、彼女に手術をしてもらって、とても良かったと言っています」 窓口になっている医療コーディネーターたちも、そういう患者には慣れている。「我々が、手術内容と医師の得意分野を適切にマッチングしますので、ご安心ください。彼女以外にも、よい医師が揃っていますので」 そんな定型文がすらすらと口から出てくるくらいだ。「ドクター・リンじゃなければ治療できない症例なんてないのに。皆、どうかしているよ。ちょっと名が売れただけじゃないか」 ナラヤンが不満そうに言う。スタッフルームに、気まずい空気が流れた。 倫子は彼の方を見る。「患者さんが私を希望されているなら、理由をイーサンが確認しているでしょう。私でなければならない理由がなければ、他の先生にお願いしてもいいと思います」「日本人だから、ドクター・ゴミの後
朝倉倫子は、患者の主治医を見つけた。 別の患者のリハビリの様子を見つつ、リハビリ科の医師と話し合っているところだった。「ドクター。手術は終わりました」「ドクター・リンか。特に問題はなかった?」 そう訊かれたので、手術の経過を報告した。「予定していた手術は問題なく終了しています。出血量も想定内です。ただ、途中で一時的にバイタルが乱れたため、手順を一部変更しました。その後は安定しています」「ご家族への説明は?」「問題ありません。患者が覚醒したら先生に報告するよう、看護師には伝えてあります」「わかった。ありがとう」 術後にも気をつけなければいけないことは多いが、達成感に頬が緩みそうになる。 報告を終えて形成外科医のスタッフルームに戻ると、五味常子医師がいた。「あの、五味先生」「朝倉くん。どうした?」 初老の女医は、キリッとした表情を少しだけ和らげた。「……手術をしていただいて、ありがとうございました」「ん? どの手術?」「七年前に、私の右手の手術をしてくださったと聞きました。私、先生だと気がついていなくて――」 倫子にとって、第二の人生を歩もうと決意した転換点だ。「ああ、あれね」 五味は片方の唇を上げた。 親戚の三枝哲郎に頼まれ、知人の医師たちに有望な医学生だったと聞いて、執刀したのだ。 初めの顔合わせでは生気がなく、手術前には昏い目をしていた。手術後には、ギラギラと燃えるような目つきになっていた不思議な患者だった。「手術が成功して、やる気のある医師として再会できたんだ。やってよかったよ」「研修医の二年目からもお世話になって……。あのまま日本にいたら、自分の身体に鞭打って潰れていたか、悪い噂に怯えてもっと萎縮していたか――だろうと思います」 倫子は、今回の里帰りで、噂の恐ろしさを再認識した。桐生美琴の執念深さも……。「ああ。SNSで誹謗中傷を受けて、大変だったんだって?」「そうなんです。被害者のふりをして、こちらを攻撃するのが得意な子で……」 美琴は、学生時代はか弱いふりをして、周囲の男性たちに助けてもらっていた。それが今では、女性も味方に付けて攻撃力が上がっている。「厄介なのに目を付けられちゃったんだね」 五味は気の毒だと
小学校の教師が、桐生智也に子どもたちが喧嘩をした原因を説明した。「直也くんに、前のお母様が有名なお医者様なら、自分の身内の手術をしてほしいと頼んだそうです」 その言葉を聞いて、直也に殴られた生徒がうなずいた。「そんなのは無理だって返事をしたら、『お前、捨てられたんだもんな』って言ったんだ。あいつが悪いんですよね、先生」 直也は自信たっぷりに教師へ訴えた。「それでも暴力を振るうのは、よくないです」 教師は穏やかに言い聞かせる。「先生! どうして僕の味方をしてくれないの? ひどいことを言ったのはあっちだ」 直也は椅子から立ち上がった。「誰の味方をするという話ではありません。良くないことをしたから、教えているのです」 教師は辛抱強く説明した。「ばっかみたい。お金があって、発信力があれば、勝ち組なんだ。好きなことをしても、誰にも邪魔できっこない。倫子ママの手を踏んだときだって……」「直也! 何てことを言うんだ」 智也は慌てて、息子の言葉を遮った。 当時の母親に怪我を負わせた。そんなことを、おおっぴらに口にするものではない。「パパ。どうして怒るの?」 直也はキョトンと首をかしげた。 桐生家も、美琴の実家である白木家も、勝ち組の家だ。多少のトラブルなら相手を黙らせることができるし、そうでなければ金で解決してきた。 だが、それを外で口にすれば、反感を買う。「手を出すのは駄目だ。謝りなさい」「……ごめんなさい」 直也はふてくされながら、つぶやいた。 智也は息子が謝ったことを確認すると、おもむろに話題を変えた。「ですが、子どもを使って前妻に仕事を依頼するというのも、おかしな要求ですよね。しかも親同士の話し合いで離婚したことを、言うに事欠いて『捨てられた』などと。品位に欠ける言葉ではありませんか? そんなことは金輪際、言わないと約束してください」「ですが……」 相手の親が食い下がろうとする。もしかしたら、病人を抱えているのだろうか。「そのようなひどい言葉を投げつけられて、息子の心は傷つきましたよ。家庭のデリケートな部分に、土足で踏み入るのはいかがなものでしょう。 先生も、暴力を窘めながら、原因となった暴言は放置するおつもりでしたか?」「そんな……。いえ、私の不徳のいたすところです。すみませんでし
桐生美琴は、病院の院長室に呼びつけられた。そこには父親の白木総一郎もいる。「朝倉医師と連絡は取れたのか? まだ日本にいるんだろうな」 院長を押しのけて、理事長の総一郎がその場を仕切る。「倫子はSNSをやっていないから、同行を追いづらいのよ」 美琴は院長をちらりと見ただけで、遠慮なくソファに座った。「国際医療グループに問い合わせても、手術の依頼を受け付けても医師の指名はできないと突っぱねられてしまう。そうなんだろ?」 総一郎にジロリと睨みつけられ、院長の声は妙に甲高くなった。「は、はい。そうなんです」 総一郎は不機嫌なまま、今度は美琴を責めた。「どうして西園寺の手術が成功する前に、つなぎを取っておかなかったのだ」「それよりも、パク・ミンジェと繋がった方が良くない?」 美琴は別の提案をした。「同じように活躍していても、頻繁に日本に来る医師でなければ意味がないだろう。出張依頼になる分、値も張ってしまう。 それに、昔からの知り合いということで、便宜を図ってもらうこともできないではないか」 総一郎は、娘の浅知恵を鼻で笑った。「お父様。私と倫子は、前妻と現妻なのよ。普通に考えて、仲良くできるわけないじゃない」 親子の会話を聞いていた院長が、珈琲を吹き出しそうになった。「できないのなら、最初から言え! そうしたら、別の者を動かしたのに。本当に駄目な奴だな。仕方ない、智也君に連絡を取らせるか」「お父様! 『再生の魔術師』が誰かわからなかったんだから、後手に回るのも仕方ないでしょう」 「わかった時点で相談せず、情報を抱え込みおって。他にいい手があるのか?」 総一郎は、あるなら言ってみろと言わんばかりに、顎をしゃくって見せた。「……彼女から離婚を言い出したのよ。きっと智也のことを恨んでいるわ」「男女の仲は複雑なんだ。別れた時点できっぱり縁を切る者もいるが、情に溺れてずるずると関係を持ってしまう者もいる」「……」 それこそが、美琴が認めたくない可能性だった。 化粧をしてまあまあ見られるようになった倫子を、智也が気に入ってしまったらどうする? 倫子が、奪われた男を奪い返しにくるかもしれない。 薄々感じていたが、直也も以前のように美琴を慕ってこない。どこか、倫子と比べられている気がするのだ。







