3日後の朝、恭弥は気だるさの中で目を覚ました。全身に赤い痕を散らした千春が、力なく胸元に寄り添い流し目を向けてくる。その体を無造作に押し退け、枕元のスマートフォンを手に取った。画面には通知が1件も届いていない。呼吸がわずかに荒くなる。3日も放置したというのに、麻奈美は謝罪もせず、機嫌取りの連絡すら寄越してこない。初めて自分からメッセージを送ってみたものの、いくら待っても既読はつかなかった。信じられなかった。いつも素直で聞き分けの良かった麻奈美が、自分を拒絶し、連絡先を削除したというのか。深く息を吸い込み、苛立ちを押し殺して秘書に電話をかける。「麻奈美がもう退院したか、すぐに確認しろ」千春と揉み合ってプールに落ちた際、頭を強打していたのを思い出した。間もなく秘書から折り返しの報告が入った。「社長、奥様は3日前にすでに退院されています」ここ数日間の不可解な態度が脳裏をよぎり、胸の奥で不吉な予感が膨れ上がる。起き上がろうとすると、背中に千春の白い腕がすがりついてきた。「ねえ、もうちょっと一緒にいてくれない?」恭弥はその腕を冷淡に振り払う。「お前とはただの遊びだ。妙な勘違いはするな」それだけ言い捨て、振り返りもせず部屋を後にした。千春は去っていく恭弥の背中を睨みつけ、忌々しそうに唇を噛んだ。麻奈美が去ったあの日、すでにその事実は把握していた。だが、これだけの出来事が重なってもなお、恭弥が麻奈美に未練を残しているとは計算外だった。スマートフォンを耳に当て、冷ややかに告げる。「今夜、うちに来て」子供を作ってでも、恭弥の心を繋ぎ止めてみせる。*一方、恭弥は変わりかけの信号をいくつもすり抜けながら車を飛ばし、自宅へと滑り込んだ。勢いよく玄関の扉を開け放つ。「麻奈美、帰って……」だが、広々とした屋敷の中には静寂だけが横たわっていた。部屋を彩っていた温もりある小物は1つ残らず消え去り、もぬけの殻となっている。即座にスマートフォンを取り出し、秘書へ指示を飛ばした。「麻奈美の足取りを洗え。今どこにいる!」当てつけに家出しただけで、数日もすれば頭を冷やすはずだ。そのときに宥めてやれば元通りになる――そう自分に言い聞かせる。ふと思い立ち、言葉を継いだ。
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