刃が肉を裂く鈍い音が響いた。だが、麻奈美の身に激痛が走ることはなかった。代わりに感じたのは、背中を包み込むような逞しい温もりだった。恭弥が背後から抱きしめるようにして、その身で凶刃を受け止めていた。麻奈美が慌てて振り返ると、千春の一撃を受けた恭弥の白いワイシャツに、瞬く間に鮮血が滲み広がっていく。恭弥は何かを伝えようと口を開きかけたものの、あまりの激痛にその顔を苦悶に歪ませた。千春は手を止めるどころか、狂気に満ちた形相でさらに刃を突き立てようとする。「恭弥も、麻奈美も、2人とも……一緒に死んじゃえ!」それでも恭弥は麻奈美を背に庇い続け、ついに力尽きて意識を手放し、その場へ崩れ落ちた。そこへ全力で駆けつけた幸人が、千春の体を力任せに蹴り飛ばす。地面に転がった千春はようやく正気に戻り、血に染まった自らの両手と、血だまりに倒れ伏す恭弥の姿を目にして青ざめた。起き上がって逃げ出そうとしたものの、騒ぎを聞きつけて駆けつけた警備員たちによって即座に取り押さえられる。麻奈美は激しく取り乱しながら恭弥の傷口を必死に押さえたが、溢れ出る血は一向に止まらない。幸人は素早く救急車を呼び、受け入れ先の病院を手配した。やがて到着した救急車に運び込まれ、恭弥は病院へ到着するや否や手術室へと直行した。手術室の扉の前に立ち尽くす麻奈美は、目頭を赤く腫らし、祈るように両手を握り締める。恭弥が自らの体を盾にして庇ってくれた瞬間、麻奈美がこれまで胸に抱えていた怒りや恨みは、すべて消え去っていた。何があろうと、命を懸けて自分を救ってくれた。どうか生きてほしい――ただそれだけを心の中で祈り続けた。隣で見守る幸人もまた、険しい表情で手術室のランプを見つめていた。身を挺して麻奈美を守り抜いた恭弥の姿を目にしたとき、幸人の胸中には複雑な思いとともに、深い感謝が湧き上がっていた。これまでにどれほど麻奈美を傷つけてきた男であろうと、この瞬間に恭弥が見せた覚悟と行動は紛れもなく本物だった。幸人は静かに窓辺へ歩み寄ると、スマートフォンを取り出して実家へ連絡を入れ、ムラゼテクニックへの圧力を即座に中止するよう指示を出した。*丸1日におよぶ懸命な救命処置の末、恭弥は奇跡的に一命を取り留めた。執刀医も安堵の息を吐き出す。あと
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