翌朝、ノエルは卵を残した。 昨日よりも少し多く。 半分ではなく、三分の二ほど。 けれど、それを責める者はいなかった。 小犬は食卓の下で丸くなっている。 布兎はノエルの膝の上。 青いリボンは、昨夜セレスティアが結び直したので、今は真っ直ぐだった。 その真っ直ぐさが、今朝のノエルには少し苦しそうに見えた。「残してもいいですか」 ノエルは小さく尋ねた。 いつもより声が細い。「もちろん」 セレスティアは答えた。「食べられない?」「少し、喉がぎゅっとします」「では、無理に食べなくていいわ」「お父さまは、残すと、もったいないって言いました」 リュシアンの手が止まった。 セレスティアも、スプーンを置く。 ノエルは皿の上の卵を見つめたまま続けた。「お母さまは、残してもいいって言う日と、残したら泣く日がありました」「泣く?」「はい。『私の作ったものじゃないのに、どうして私が責められるの』って。わたし、責めてないのに」 セレスティアは胸が痛んだ。 ミレイユが壊れていく過程を、ノエルは日々の食卓で見ていた。 薬の瓶や帳簿よりも、ずっと細かく。 大人たちが見落とした場所で。「今日は、残していい日です」 セレスティアは言った。「明日は?」「明日は明日、考えましょう」「今日の正解ですか」「ええ」 ノエルは少しだけ頷いた。 けれど、皿から目を離さない。 リュシアン
Last Updated : 2026-08-26 Read more