朝、目を覚ましたとき。私は、胸の奥に妙な違和感を覚えていた。昨夜、龍斗さんは何も言わなかった。夕食の席でも。私の部屋の前を通り過ぎるときも。いつもと変わらない態度だった。けれど。あまりにも何も言わないことが、かえって怖かった。 昨日、九条院家の元顧問だという男性から渡されたファイル。私は、それを一晩中考えていた。龍斗さんの母親は。本当に龍斗さんを捨てたのだろうか。それとも。九条院家によって、引き離されたのだろうか。もし後者なら。龍斗さんが抱えている「捨てられた」という記憶そのものが、間違っていることになる。 私は枕元のスマートフォンを手に取った。母へ連絡したい。けれど昨日から、妙に胸騒ぎがする。私は画面を見つめたまま、しばらく迷った。そして、母の名前を押した。 ――繋がらない。「……どうして?」 もう一度かける。やはり繋がらない......胸の奥がざわついた。 ◇ 朝食の席。龍斗さんは、いつも通り新聞を読んでいた。「おはようございます」「ああ」 私は向かいに座った。しばらくして。「母親に電話しただろ」 龍斗さんが新聞から目を上げずに言った。私は箸を止めた。「……どうして知っているんですか?」「履歴を見た」「私のスマートフォンを?」「ああ」「勝手に?」 龍斗さんはようやく顔を上げた。「夫婦だろ」 その一言に、胸の奥が冷たくなった。「夫婦でも、勝手に見るのはおかしいです」「何をそんなに怒っている?」「私のプライバシーです」「俺に隠すことなんてないだろ」「あります」「何?」「私が誰と話すかは、私が決めます」 龍斗さんの眉が僅かに動いた。「……また母親か?」「はい」「何を話す?」「家族のことです」「俺のことも?」「……」「話したんだな」 私は答えなかった。龍斗さんがため息をつく。「もう、母には連絡するな」「どうして?」「あの人間は君を焚きつける」「そんなことありません」「ある」「お義母様は、私に何かを強制したことはありません」「それでもだ」 龍斗さんは箸を置いた。「母は俺を嫌っている」「だから?」「だから、君を使って俺から離れさせようとする」「そんなこと……」「俺は、そう思っている」 私は目を伏せた。「龍斗さん」「何だ?」「それは、あなたの問題です」 龍斗
Huling Na-update : 2026-08-29 Magbasa pa