翌朝。 目を覚ました瞬間。 私は、昨日のことを思い出した。 一条先生。 病院。 そして。 ――あなたの人生です。 どうするかを決めるのは、あなたです。 その言葉が。 胸の奥に残っていた。 私はゆっくり身体を起こした。 隣を見る。 龍斗さんは、まだ眠っている。 規則正しい寝息。 何も知らない顔。 私はしばらく、その横顔を見つめた。 昨日までなら。 この人が目を覚ますことが怖かった。 今日も。 怖い。 でも。 昨日までとは違う。 私は知っている。 私の苦しさを。 私の恐怖を。 聞いてくれる人がいる。 助けを求めてもいい。 逃げてもいい。 そして。 私の人生を決めるのは。 龍斗さんではない。 私自身なのだ。 私はお腹へ手を当てた。「……一緒に帰ろうね」 小さく呟く。「お母さんと、家に帰ろう」 ◇ 朝食の席へ行くと。 龍斗さんは、すでに座っていた。「おはよう」「おはようございます」 私は椅子へ座った。 いつもと同じ朝。 いつもと同じ食卓。 けれど。 私の中だけが。 昨日までとは違っていた。「体調は?」「大丈夫です」「お腹は?」「問題ありません」「気分は?」「普通です」 龍斗さんが、じっと私を見る。「昨日、病院で何か言われた?」「特にありません」「そうか」 龍斗さんはコーヒーを口にした。「今日も家で休んでいろ」「……はい」「外へ出る必要はない」「わかっています」「今日は俺も家にいる」「……はい」 私は静かに頷いた。 けれど。 そのとき。「由紀江」「はい?」「昨日より、落ち着いているな」 心臓が跳ねた。「そうですか?」「ああ」 龍斗さんは、私の顔を見つめた。「何か安心するようなことでもあった?」「……特にありません」「そうか」 龍斗さんは笑った。「ならいい」 その笑顔を見ながら。 私は思った。 この人は。 私の変化を見ている。 だから。 これからは。 もっと慎重にならなければならない。 ◇ 昼前。 私は自室で一人になった。 と言っても。 完全に一人ではない。 廊下には警備員がいる。 少し離れたところには使用人もいる。 以前なら。 その存在だけで息苦しくなっていた。 今は違
Last Updated : 2026-09-04 Read more