翔太郎の言い訳は、羽根のように軽かった。それなのに、とっくにボロボロだった私の心へ、また新たな傷を深々と刻み込んでいった。私は、深夜になぜ秘書が彼に口づけていたのかと、取り乱して問い詰めたりはしなかった。丸3日、私が彼の安否に気を揉んでいた間も、ずっと別の女のことを気にかけていたのかと、泣きながら問いただすこともしなかった。実は半月前、私は末期の肺がんと記された診断書を受け取っていた。医師から告げられた余命は、半年もないということだった。死へのカウントダウンが始まった今となっては、愛だの憎しみだの、恨みつらみなど、どれも取るに足らないものに思えた。私はただ静かに頷き、こう答えた。「うん、ゆっくり休んでね」その落ち着き払った様子に、翔太郎は少し意外そうな顔をした。眉をひそめ、何か言いたげにしていたけれど、麻酔がまだ強く効いていたのか、すぐにまた深い眠りへと落ちていった。私は立ち上がり、長時間の看病でこわばった体をほぐしながら病室を後にした。廊下の突き当たりの窓が開いていて、冷たい風が吹き込んできた。ポケットからしわくちゃになった診断書を取り出し、しばらく見つめてから、元どおりに折りたたんで奥深くにしまった。彼のために身の回りの世話をしてくれる人を手配し、入院に必要な手続きもすべて済ませた。それから彼のアシスタントに電話をかけ、仕事の引き継ぎや残務処理を任せた。すべてを終えて病室へ戻り、ベッドに横たわる翔太郎を最後にもう一度だけ見つめた。彼は深く眠っていて、整った顔は穏やかだった。彼にとっての「いつも通りの1日」が、7年に及ぶ私たちの結婚生活に終止符を打つ日になったとは、露ほども知らずに。かつて私は、彼を一生愛し続けるのだと信じて疑わなかった。けれど今、その「一生」は、もうすぐ終わりを告げようとしている。私は振り返ることなく、未練など微塵も残さずその場を立ち去った。何年も見続けてきた陳腐なドラマが、ようやく最終回を迎えたときのように。決して納得のいく結末ではなかったけれど、それでもどこか、肩の荷が下りたような気がした。
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