洋介が去っていく背中を見つめたまま、美波はしばらくその場に立ち尽くしていた。顔が、みるみるうちに青ざめていく。彼女は手にしていた診療明細をくしゃりと握り潰すと、そのままゴミ箱へ放り込んだ。その瞳に一瞬だけ、冷たい光が浮かぶ。……一方、洋介は家へ向かった。一刻も早く帰りたくて、いくつもの信号を無視しながら車を走らせる。家に着くと、階段を駆け上がった。焦りのあまり足を踏み外し、そのまま数段下まで転がり落ちる。膝に鋭い痛みが走った。それでも、洋介は立ち止まらなかった。痛みをこらえながらすぐに起き上がり、再び階段を駆け上がる。渚の部屋のドアを開けた瞬間――洋介は足を止めた。室内の空気が、どこか冷たく感じる。いつもなら、渚の好きなジャスミンの香りが漂っているのに、今日は、その香りもしなかった。部屋の中を見回すと、渚のものが消えていたことに気づく。ベッド脇に置かれていたぬいぐるみも、渚が何より大切にしていたあの写真も、どちらもない。洋介は嫌な予感を覚えながら、クローゼットを開けた。そこにあったはずの服も、すっかり消えていた。旅行に行くだけなのに、こんなに多くの荷物を持っていく必要があるのだろうか。まさか――もう、帰ってくるつもりがないというのか?その考えが頭をよぎった瞬間、洋介の顔色が真っ青に変わった。あれほど自分のことを愛していた渚が、どうしていきなり姿を消したのだろう。洋介は必死に思い返す。思い出したのは、渚が一人で用意していた、あの誕生日のケーキ。砕け散ったクリスタルボール。そして――一緒に行こうと言いながら、結局行かなかった旅行……本当は、渚と旅行に行きたかった。なのに、どうしてこんなことになってしまったのだろう。洋介は目を伏せた。長身の身体が、今だけはひどく頼りなく見えた。気づけば、ここ最近の渚の姿ばかりが頭に浮かぶ。洋介はもう一度、スマホを取り出し、渚にメッセージを送る。どうせ、既読がつかないと思い、スマホをしまおうとすると――ピロン、と音が鳴る。洋介は息を呑み、慌ててスマホの画面を見る。だが、そこに表示されていたのは仕事のメッセージだった。渚に送ったメッセージには、まだ既読がついていない。もう半日も経っているのに、まだ読んでいないのだろうか。胸騒ぎは、ま
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