5年前、蒼介は強硬手段で柊家を粛清し、当主である祖父から実権を奪い取った。すべては、家柄も何もない夕夏と結婚するためだった。しかし、結婚式場へ向かう道中、2人は交通事故に遭った。蒼介は夕夏を必死に庇って重傷を負い、懸命な治療の甲斐もなく息を引き取った。夕夏は正気を失い、わずか3日の間に何十回も後を追おうとした。一番危なかった時は、ナイフで自分の手首を切り裂き、真っ赤な血が床一面に広がった。それを見かねた雫が病室に飛び込んで来て告げた。「実は、兄さんは死んでないの。ただ記憶を失っているだけ。お祖父様がそれに乗じて結衣をあてがい、結衣こそが心を通わせた恋人だと兄さんに吹き込んだのよ」絶望の底にいた夕夏の瞳に光が宿り、彼女は雫の袖を必死に掴んだ。「じゃあ、彼に会わせて!私が本当のことを伝えるから!それか、あなたが代わりに伝えてくれてもいい!」雫は目を逸らした。夕夏は何かを察し、声を落とした。「だめなの?」雫はばつが悪そうに顔をしかめた。「結衣は私の親友なのよ!」「ずっと兄さんのことが好きで、やっと一緒になれるチャンスを掴んだのに、私が2人の仲を引き裂く手伝いなんてできるわけないじゃない。それに、結衣は橘家のお嬢様だけど、あなたの父親はただの農家でしょう。どう見ても結衣の方が兄さんにふさわしいわ。あなたのためを思って言うけど、男に頼って玉の輿に乗ろうとしたって、ろくな結末にならないわよ……」夕夏は、「一生守る」と言ってくれたかつての親友を呆然と見つめ、しばらくしてようやく声を絞り出した。「……彼女はあなたの友達で、私は違うの?」「そうやって私を悪者にしないでよ!」雫はムキになって言い返し、少し間を置いてから続けた。「何とかしてあなたをメイドとして柊家に潜り込ませてあげる。あとは自分でどうにかして。それでいいでしょ?」夕夏は迷うことなく答えた。「わかった」彼女は海外のトップクラスの病院からのオファーを蹴り、柊家で泥にまみれてあらゆる汚れ仕事や力仕事を引き受け、蒼介が次々と別の愛人たちといちゃつく姿を見つめ続けた。最初の時、蒼介を呼び止め、すがるような思いで真実を打ち明けようとした彼女は、執事に引きずり出され、顔が元の形をとどめなくなるまで何度も平手打ちを食らった。二度目
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