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記憶の棘、癒いの薔薇
記憶の棘、癒いの薔薇
Penulis: ジョージョー

第1話

Penulis: ジョージョー
5年前、蒼介は強硬手段で柊家を粛清し、当主である祖父から実権を奪い取った。すべては、家柄も何もない夕夏と結婚するためだった。

しかし、結婚式場へ向かう道中、2人は交通事故に遭った。

蒼介は夕夏を必死に庇って重傷を負い、懸命な治療の甲斐もなく息を引き取った。

夕夏は正気を失い、わずか3日の間に何十回も後を追おうとした。

一番危なかった時は、ナイフで自分の手首を切り裂き、真っ赤な血が床一面に広がった。

それを見かねた雫が病室に飛び込んで来て告げた。

「実は、兄さんは死んでないの。ただ記憶を失っているだけ。

お祖父様がそれに乗じて結衣をあてがい、結衣こそが心を通わせた恋人だと兄さんに吹き込んだのよ」

絶望の底にいた夕夏の瞳に光が宿り、彼女は雫の袖を必死に掴んだ。

「じゃあ、彼に会わせて!私が本当のことを伝えるから!それか、あなたが代わりに伝えてくれてもいい!」

雫は目を逸らした。

夕夏は何かを察し、声を落とした。

「だめなの?」

雫はばつが悪そうに顔をしかめた。

「結衣は私の親友なのよ!」

「ずっと兄さんのことが好きで、やっと一緒になれるチャンスを掴んだのに、私が2人の仲を引き裂く手伝いなんてできるわけないじゃない。

それに、結衣は橘家のお嬢様だけど、あなたの父親はただの農家でしょう。どう見ても結衣の方が兄さんにふさわしいわ。

あなたのためを思って言うけど、男に頼って玉の輿に乗ろうとしたって、ろくな結末にならないわよ……」

夕夏は、「一生守る」と言ってくれたかつての親友を呆然と見つめ、しばらくしてようやく声を絞り出した。

「……彼女はあなたの友達で、私は違うの?」

「そうやって私を悪者にしないでよ!」

雫はムキになって言い返し、少し間を置いてから続けた。

「何とかしてあなたをメイドとして柊家に潜り込ませてあげる。あとは自分でどうにかして。それでいいでしょ?」

夕夏は迷うことなく答えた。

「わかった」

彼女は海外のトップクラスの病院からのオファーを蹴り、柊家で泥にまみれてあらゆる汚れ仕事や力仕事を引き受け、蒼介が次々と別の愛人たちといちゃつく姿を見つめ続けた。

最初の時、蒼介を呼び止め、すがるような思いで真実を打ち明けようとした彼女は、執事に引きずり出され、顔が元の形をとどめなくなるまで何度も平手打ちを食らった。

二度目は頭がおかしくなったと見なされ、精神病棟に放り込まれ、骨と皮だけになるまで痛めつけられた。

三度目……

そして最後、少し酒を飲んでいた蒼介に、乱暴にベッドへ引きずり込まれた。

夕夏は悲鳴を上げて抵抗したが、蒼介は冷たく鼻で笑っただけだった。

「あの手この手で俺の気を引こうとしていたのは、これが目的だったんだろ?望み通りにしてやる」

悪夢のような一夜を経て、彼女も蒼介の数多い愛人の一人となった。

蒼介は他の愛人たちには優しく気前が良かったが、夕夏のことだけはゴミのように扱い、結衣が彼女をどれほど痛めつけようと見て見ぬふりをした。

結衣に階段から蹴り落とされ、下腹部を押さえてのたうち回っていたあの日、蒼介は夕夏を一瞥すらすることなく、その場で結衣にプロポーズした。

「他の女はただの遊びだ。お前だけが柊家の奥様になる。

あいつには記憶障害の治療を受けると約束したが、たとえ記憶を取り戻したとしても、俺はあんな女とは絶対に結婚しない」

……

夕夏の話を聞き終えた雫は眉をひそめた。

「たったそれだけの理由で?どうやらあなたも兄さんのこと、そこまで好きじゃなかったみたいね!やっぱり結衣だけが兄さんにふさわしいわ」

夕夏は目を閉じ、瞳の奥に滲む虚無感を隠した。

それだけの理由ではない。

流産した後、夕夏は泣き崩れたが、それでも諦めきれなかった。

だが、蒼介の書斎の前を通りかかった時、彼と結衣の会話を聞いてしまったのだ。

「蒼介、本当は記憶なんて失ってないのに、どうして夕夏を騙してるの?そばに置いて、わざわざ痛めつけるなんて」

デスクの奥に座る男は、指で軽く机を叩いた。その整った顔立ちは氷のように冷酷だった。

「事故の日、あいつは自分だけ逃げ出して、いつ爆発するかわからない車の中に俺を置き去りにした。

爺さんの言う通り、あんな女は俺の妻にふさわしくない。だが、よそで他の男に愛想を振りまくのも胸糞が悪い。この5年は、あいつへの罰だ」

ドアの外にいた夕夏の頭は真っ白になった。

――蒼介は記憶喪失になったのではなく、ただ自分が見捨てられたと思い込んで腹を立てていただけ?

でも、そんなことはしていない!

事故が起きた後、彼女は蒼介の上に被さっていた瓦礫を素手でどかし、十本の指は血まみれになった。

彼を危険な場所から引きずり出し、泣き叫びながら周囲の人に救急車を呼んでほしいと懇願した。

雫が駆けつけたのを見て、ようやく安心して気を失ったのだ。

どうして彼は誤解しているの?!

夕夏は書斎に飛び込んで説明しようとしたその時、結衣が再び口を開いた。

「彼女があなたを置き去りにしたって、どうしてわかったの?」

「雫が教えてくれたんだ」

蒼介の瞳には様々な感情が渦巻き、痛みと復讐の悦びが交錯していた。

「雫は夕夏の親友だ。嘘をつくはずがない」

そうだったのか……

すべては雫の仕業だったのだ。

夕夏は全身が強張り、直後にぷつりとすべての糸が切れたように力が抜け落ちた。

蒼介は彼女を信じず、5年間もいたぶり、踏みにじり続けた。

親友でさえも、彼女を裏切っていたのだ。

これ以上、どうやって耐えろというのか?

……

今、目の前にいる雫に対し、夕夏は問い詰めたかった。

――結衣があなたと幼馴染であるように、私もあなたとは十年以上の付き合いだ。

結衣とあなたが深い関係であるように、私もかつてチンピラからあなたを救い、あなたのために店へ乗り込み、いじめた相手の頭にビール瓶を叩き割った。

私と蒼介の縁だって、元を辿ればあなたから始まったものだ。

どうしてこんな酷い仕打ちができるの?!

だが、唇を震わせても、夕夏はただこう言うだけだった。

「ええ、私はそこまで彼を好きじゃなかったみたい。疲れたの。ただ、ここから去りたい」

雫は呆気にとられ、何かを言おうとしたその時、背後から物音が聞こえた。

脱いだばかりのコートを腕に掛けた蒼介が部屋に入ってきて、冷たい視線を夕夏に向けた。

「出て行く気か?」

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