高級ホテルのラウンジ。夫と式を挙げたホテルもいいホテルだったけど、ここもその類の場所だ。最後にこういうところ来たのいつだっけ……?結婚記念日の食事だったっけ。 窓のから日本庭園が見える。その向こうにはビル。都会の谷間のオアシスを見ながら優雅にお茶をする、そんな場所に美空をベビーカーに乗せたままやってきた、場違いな主婦が私。 今日の取材対象は不倫の当事者。……一歳の美空に聞かせる内容でないのは間違いない。幸いにも現在美空はとっても眠そう。このまま寝ててくれればインタビューにも集中できるし、不倫話を聞かせずに済む。 ベージュのジャケットに黒いインナー、グレーのパンツのガタイの良い男性と目が合った。会釈され、今日の取材対象だと気付く。 「八神さん、でしょうか」 近づく私にその男性がうなずく。 「はじめまして。株式会社ミライノートのライターをしております、里崎と申します。本日はどうぞよろしくお願いいたします。」 「よろしくお願いします」 名刺を差し出した。彼は受け取るだけ。大学生と聞いている。当然、名刺は持っていないわけだ。 「お座りください。すみません、娘も同行させておりますが、よろしいでしょうか?」 いいですよ、と薄く微笑んで八神さんはラウンジのソファに着席した。八神さん、着席しちゃったか。不倫話を聴くには、ここはオープン過ぎる。近くを歩いていたスタッフと目が合った。「里崎で予約してあるのですが。個室を……」「里崎様ですね。確認致しますので少々お待ちください」スタッフがイヤホンで何やら連絡を取っている。少し待った後、奥から別のスタッフがやってきた。「里崎様、ご案内致します。そちらのお客様も……?」「はい、連れです」立ち上がった八神さんと連れ立って個室に入る。うん、ここならどれだけ衝撃的な不倫話が始まっても、どんとこい、だ。個室代は出版社から経費で出してくれる。ありがたい。自腹だったら原稿料とトントンになっていたかもしれない。このホテルのラウンジで個室を予約するには、アフタヌーンティーの注文が必須だ。取材に便乗してアフタヌーンティーが食べられるなんて。優雅な仕事。もしかして楽勝?八神さんのコーヒーと私のアールグレイ、見たことある感じの3段のセットがテーブルに届いた。さあ、ここからだ。「召し上がってください。食べながらお話伺います
Last Updated : 2026-08-31 Read more