LOGIN主婦の里崎ほのかは、夫の健次郎にライター業を反対されたことを根に持ち、彼に内緒でゴシップ記事を書く「こたつライター」として活動している。いつか夫を見返すほどの収入を得ることを目標とする彼女のもとに、ある日、不倫当事者へのインタビューという仕事が舞い込む。最初の取材相手は、大学生の八神岳と、彼が恋に落ちた人妻の谷口麻子。2人の赤裸々な告白をもとに、禁断の恋の記事を書き上げる──。ドロドロな大人のラブストーリー。
View Moreチャラにならないのに。むしろ、その“一回”のために、れいなちゃんの時間と呼吸を削ってるのに。横井先生の存在が、俺を黙らせる。れいなちゃんが“察してくれる大人”を選んだ事実が、俺の言い訳を殺す。俺はもう、泣いて縋って戻せない。戻ったとしても、れいなちゃんの中に残るのは安堵じゃなくて疲労だ。それが分かったから、あの日、俺は諦めた。……諦めた、っていうか。諦めたふりをしただけかもしれない。だって俺は今も、れいなちゃんの近くを通るとき、呼吸を浅くしてる。見つけてほしいから。気づいてほしいから。でも本当は、気づかれたら終わるから。矛盾してる。俺はずっと、こうやって矛盾の中にいる。指輪をしてるのに、れいなちゃんを忘れられない。次がいるのに、れいなちゃんに近づきたくなる。好きって言いながら、好きの形で傷つける。……成熟?笑える。成熟してたら、最初からこんなことしてない。れいなちゃん。横井先生の前でだけ、ちゃんと息してて。俺はもう、そこに入らない。入れない。入ったらまた、俺が壊す。そう分かってるのに、今も、れいなちゃんの名前を聞くだけで、俺の中のいちばん卑怯な部分が、静かに動き出す。放課後。俺は、もう終わりなのに、れいなちゃんを探してた。(やめろ)(マジでやめろ)(今日だけはやめろ)って思うのに、やめられない。ほんと、やばい。俺。見つけた。廊下の角。資料持って歩いてる。「れいなちゃん!」呼んだ。呼んじゃった。れいなちゃん、振り向いた。……顔が、先生の顔だった。「絢斗くん。どうしました?」“絢斗くん”だって……?“れいなちゃん”じゃない。そこで息が詰まった。「いや、別に…」言いながら、俺、近づいた。ほんとバカ。近づいたら何か戻ると思ってた。れいなちゃん、半歩下がった。その半歩が、胸に刺さる。「……なんで避けんの」俺、子どもみたいに言った。自分で言って自分が嫌になる。れいなちゃん、淡々と返す。「避けてないよ。距離を保ってるの」「なんで」「必要だから」必要。つまり俺が危ないってことだ。やば。自覚ある。でも、止まれない。俺、れいなちゃんの唇を見た。見た瞬間、頭が真っ白になった。(キスしたら)(キスしたら、れいなちゃん俺の方見る?)最悪の考え。でも出てくる。勝手に。俺の脳、ほんとどうかしてる。一歩、出そ
噂で回ってるのは、知っていた。「絢斗、今は二年の子と付き合ってる」って。“今は“って何だよ。みんな、本当は俺とれいなちゃんとのこと、知ってたのかよ。知っててみんな、黙っててくれたんだろうか。みんな、いいやつじゃんか。でも今は……。れいなちゃんと別れた今は、みんな、面白がって言う。今ならみんな、声に出せるからだろうか。俺は、平気な顔をする。恋愛なんて自由だろって顔をする。でも本当は、自由とかじゃない。れいなちゃんの代わりがほしいわけじゃない。れいなちゃんを忘れたいわけでもない。ただ、「誰かが俺のことを好きでいてくれる」って状態がないと、俺は立っていられない。空っぽになるから。……だから、指輪をする。指輪なんてさ、あれ、誓いじゃない。俺にとっては“予防線”だ。「俺はちゃんとしてる」って自分に言い聞かせるための小道具。周りに対しての“免罪符”みたいなもの。だけど、指輪をしてる俺が、れいなちゃんに近づく。それがどれだけ汚いことか、分かってる。分かってるのに、やる。だって、れいなちゃんが笑うと、俺の中の何かが“生き返る”から。れいなちゃんの声を聞くだけで、勝手に世界の色が戻るから。それが、もう癖になってる。中毒だ。自分から振ったとか、そういう話じゃない。れいなちゃんは“終わらせようとしてる”んだ。俺は“終わらせたくない”んだ。それだけ。なのに、れいなちゃんは疲弊していく。当然だよな。別れ話のたびに泣いて縋られて、情で揺らされて、やっと離れたと思ったら、また近づいてくる男がいる。しかもそいつは、指輪までしてる。ふざけんなって話だ。れいなちゃんが、横井先生と飲みに行ってるらしいと、目撃したやつがいた。……そこ、刺さる。めちゃくちゃ刺さる。横井先生は“聞かない”んだろ。深くは尋ねない。でも察する。それで、れいなちゃんにとっての逃げ場になる。大人の包容力、ってやつ。俺には、できない。俺は、聞かないふりをしながら、結局“答え”がほしくなる。俺は、包むふりをしながら、結局“自分の不安”を押しつける。だから、れいなちゃんは横井先生のところへ行く。……俺、負けたのか。いや、違う。勝ち負けじゃない。れいなちゃんがやっと呼吸できる場所を見つけただけだ。俺が奪ってた呼吸を、取り返してるだけだ。分かってる。分かって
こいつが欲しいのは、“彼女“というステータスと、性欲を処理する相手。俺に惚れてるわけではない。彼女は俺の見た目しか褒めないもんな。便利だった。れいなちゃんにもう近づくことすら許されない俺は、れいなちゃんで満たされていた性欲の紛らわせ方に困っていた。最初は、れいなちゃんが望んでいたであろう、受験勉強に集中して誤魔化していた。でもな。性欲って人間の3大生理欲なんだよ。そう簡単に、紛れるものではなかった。律樹に誘われて仕方なく参加した、有志ステージ。その練習で俺にやたらと近づいてきたのが、彼女だった。文化祭の後、告られた。断る理由は無かった。れいなちゃんを失った俺は、その彼女で何かを補給出来るかもしれないと思ったからだ。彼女は俺が思っていたよりも性欲が強かった。付き合って3日目に処女を差し出されたときは驚いた。食べたけど。この彼女は便利だった。俺がれいなちゃんを未練がましく見つめているのに気づいても、抱いてやれば大体機嫌が直る。キス落として胸揉むだけ。あとは俺の性欲次第。無料のソープ嬢。そんなの口に出したら殺されるな。彼女はそこそこいい身体をしている。でも、俺史上、最高の身体はやっぱりれいなちゃんだ。れいなちゃんの、身体が恋しい。便利で顔は可愛い、俺の彼女。今日も、俺は彼女の目の前で、れいなちゃんに視線も心も奪われていた。彼女の視線に気付き、微笑みを浮かべる。──ん?何か機嫌悪い?彼女、俺の指見た。リング見た。「それ、私とつけたやつだよね?」「うん」「それつけて、れいなちゃんって呼ぶの、無理」“無理”。その二文字って、めっちゃ強い。反論できない。「俺、別に…」「別にじゃない。顔がもう、れいな先生のとこ行ってる」ムカついた。何だよこいつ。彼女のくせに。黙って俺に抱かれて機嫌直してれば、それでいいんだよ。自分でもびっくりした。ムカつくとか思う資格ないのに。俺何様?「俺だってちゃんと…」ちゃんと何?言葉出てこない。ちゃんとしてるフリはしてる。でもちゃんとしてない。彼女、静かに言った。「別れよ」「え、待って」声が裏返った。だっさ。俺、だっさ。「待てない。私、れいな先生と競争したくない」競争って言葉、マジで痛い。れいなちゃんは競争とかじゃない。お前なんかとれいなちゃんは並べられない。勝負にならない。オハナシにならな
「全部ってなんだよ」「……俺、やばい。俺がやばい」言ったら、律樹が一回だけ息吐いた。「お前、今日ずっと顔死んでたもんな」その一言で、俺の中で何か崩れた。死んでたんだ、俺。周りから見ても分かるくらい。俺の世界から、れいなちゃんが消えた。それは死刑宣告と同じだ。れいなちゃんがいないだけで、息を吸うことすらままならない。俺、ずっとこのままなのか?俺は笑おうとして、失敗した。笑う筋肉が動かない。律樹が肩を軽くぶつけてきた。「帰ろ。寒いし」「……うん」歩き出した瞬間、また後ろ見そうになって、やめた。れいなちゃんの方、見たら終わる気がしたから。律樹が、歩きながらぼそっと言う。「まあ、無理な日は無理だろ。でもお前、明日にはちょっとマシな顔しろよ。檀先生にバレるぞ」“檀先生にバレるぞ”。その言葉が急に現実だった。俺はポケットのリングを握りしめた。握ったら痛い。痛いから、やめた。「……無理だわ」もう一回だけ言った。今度は相手に向けてじゃなくて、自分に向けて。律樹は返事しなかった。でも隣を歩いてくれた。それだけで、ちょっとだけ息ができた。リング、つけてると落ち着いた。彼女が「つけよ」って言ったやつ。俺、ちゃんとしてるって感じする。ちゃんと彼女がいる、ちゃんとした彼氏。でもな。廊下でれいなちゃんが見えた瞬間、全部どうでもよくなる。ほんと、やばい。心臓が先に走る。俺の身体、俺のじゃないみたいに勝手に動く。(見ない)(今日は見ない)(絶対、近づかない)って思ったのに、気づいたら歩く速さ上がってた。何してんの、俺。れいなちゃん、前から来た。ただ歩いてるだけ。なのに俺だけ世界がうるさくなる。(れいなちゃん)呼びたい。呼んだらダメ。でも呼びたい。意味わかんない。俺。「絢斗」後ろから呼ばれて、止まった。二年の彼女。顔は、可愛いと思う。身体も出るとこ出てた。処女を捨てたがっていたこの彼女は、付き合って早々に俺に身体を差し出した。据え膳食わぬは男の恥じゃん?俺だって健康な18歳の男。食べれるもんは、食べるんだよ。もうれいなちゃんの身体を味わうことは叶わないからな。──え?美味しかったよ?れいなちゃんの次にな。そうだ呼ばれてたんだ。最悪のタイミング。ほんと最悪。「どこ行くの?」「どこって…別に」「