私、篠原紗奈(しのはら さな)の命はとうに尽き、苦しみもようやく終わっていた。冷たい海に沈んだ亡骸は、ところどころ魚に食い荒らされていた。それなのに、魂だけは、私をこんな目に遭わせた夫、篠原怜司(しのはら れいじ)のそばから離れられなかった。部屋には暖房がよく効いていた。死ぬ直前、骨まで凍えるようだったあの寒さが、まるで夢のように思えた。私を見張っていた護衛から電話がかかってきた。怜司は、相手が話すより先に口を開いた。「あいつ、やっと自分が悪かったと認めたのか?最初から素直に言うことを聞いていれば、こんな目に遭わずに済んだんだ。あいつを玲奈の墓の前でひざまずかせろ。反省するまで、この家に入れるんじゃないぞ!」怜司は妹の秋山玲奈(あきやま れいな)を死なせたのは私だと、そう信じ切っているようだった。声は冷たく、私への軽蔑を隠そうともしなかった。罪を認めない私など、ひとりの人間として決して許されないと思っているのだろう。電話の向こうで、護衛がためらいがちに答えた。「いえ、そうではありません。奥様が縛られてから、もう丸1日たっています。ボンベの酸素はもう尽きています。救助が必要か、ご指示ください」一瞬、沈黙が流れた。普段は冷静な怜司だったが、次の瞬間、目の前の酒瓶をつかみ、床にたたきつけた。瓶が砕ける激しい音が響いた。それでも、怜司の怒りは収まらなかった。「救助だと?人殺しを助けるというのか?この季節、あの辺りでは潮が満ちるのが遅い。あいつの顔まで水が上がるには、まだ時間がある。海水につかるくらいで、何が危ないんだ!それに、酸素ボンベなんか誰が渡した?玲奈を死なせておいて、自分だけ楽をするつもりか。今すぐ外せ!誰も助けるんじゃないぞ。あいつは自分が悪いと思ってない。玲奈と同じように、誰にも助けてもらえず、息もできないまま死を待つ苦しみを味わわせろ。助けるかどうかは、それからだ!」怜司の冷たい言葉の1つひとつに、胸をえぐられるようだった。楽をしている?中絶させられたばかりの体で、2月の凍える海の中に丸1日もつけられることが?私は下腹の激しい痛みに耐え、血を流し続けながら、自分の体が魚の群れに食いちぎられていくのを見ているしかなかった。どれほど助けを求めたくても、誰にも救ってもらえない。こんな目に遭って、
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