結婚式まで、あと10日。私は建築設計事務所の管理部門が入るフロアで、印刷したばかりの申請書を手に坂本部長を訪ねた。私が来たことが意外だったのか、坂本部長は少し驚いた顔をする。私は申請書を坂本部長の前に置いた。「部長。地方創生のインフラ再建プロジェクト、まだ人員に空きはありますか?私も参加したくて」差し出した申請書を見て、坂本部長が目を見開く。「君、もうすぐ周防チーフと結婚式を挙げるんじゃないのか?」「もう決めたんです。私もメンバーに入れてください」私がどうにか笑ってみせると、坂本部長はしばらく黙って私を見ていたが、やがて事情を察したように小さくため息をつき、申請書に承認のサインを書いてくれた。「参加者は来週正式に発表される。出発は8月初旬だ……まだ時間はあるから、もう一度よく考えろ。気が変わったら、いつでも言いに来い」「ありがとうございます」承認済みの申請書を手に建物を出て、階段を下りたところで車のエンジン音が聞こえた。見慣れた智哉の黒い社用車が、ゆっくりと正面玄関に横づけされる。助手席から先に降りてきたのは天音だった。淡いベージュのワンピースに身を包み、陽の光を受けた長い髪が柔らかく揺れている。天音は車の反対側へ回ると、降りてきた智哉の腕にごく自然な仕草で自分の腕を絡めた。智哉もそれを自然と受け入れる。その光景を見た瞬間、私は昔のことを思い出した。一度、40度近い熱を出した時、智哉に頼み込んで病院まで連れていってもらったのだが、途中で眩暈がして倒れそうになった私は、咄嗟に彼の腕につかまろうとした。けれど、触れた途端に振り払われてしまったのだった。目を覚ましたのは病院だった。あとから聞いた話では、私が倒れると智哉は通りかかった同僚に任せ、そのまま帰ったらしい。10年も一途に追い続けて、ようやく想いが実ってよかったね、と誰もが言う。でも、この10年で手に入れたものは彼の愛情ではなく、彼の冷たさだけということは私しか知らない。智哉はもともと、誰に対しても無愛想で冷たい人だったわけじゃない。ただ、その優しさが私に向けられることがなかっただけ。天音なら彼のデスクの前でポテトチップスを食べようと、彼のマグカップを勝手に使っても怒られない。それどころか、智哉が何より大切にしている設計スケッチを散
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