「あなたは何も悪くないよ」「そんなことない!」智哉はすぐに否定し、私の肩に手を伸ばした。けれど私は身体をずらして避けたため、行き場をなくしたその手が力なく下がる。私は淡々と言った。「あなたが私と結婚しようとしたのは、罪悪感があったからで、今ここまで来たのも同じ。ずっとそばにいた私が急にいなくなって、不安になっただけ」智哉の顔から血の気が引いた。唇がわずかに震えていたけれど、何も言い返してこない。彼の頬を伝う雫が、雨なのか涙なのかは分からなかった。そのとき、航がそっと傘を差し出してくれて、何も聞かず、そのまま私の隣に立つ。智哉は私を見て、それから航へ視線を移した。手にしていた報告書を強く握りしめる智哉。濡れた紙が、くしゃりと歪んだ。「もう、本当に無理なのか?」その声は絶望で沈んでいる。私は静かに首を振った。「智哉。私はここで、自分の人生を生きたい。だから、あなたはあなたの場所で生きて、私も自分で選んだ場所で生きるから。それが一番いいと思わない?」雨脚は少しずつ弱くなっていた。航に促され、私は車に乗り込む。走り出してからバックミラーを見ると、智哉はまだ同じ場所に立っていた。全身ずぶ濡れのまま、追いかけてもこない。航はハンドルを握ったまま私をちらりと見たが、何も聞かなかった。ただエアコンの温度を少し上げる。「先輩、冷やさないようにしてくださいね」その直後だった。前方の斜面から、ぱらぱらと小石が落ちてくるのが見えた。次の瞬間、地鳴りのような轟音が響く。「まずい、土石流です!」航の表情が一気に険しくなったかと思うと、山の斜面を、泥と岩が混じった濁流が一気に流れ下ってきた。轟音は瞬く間に近づき、車体まで細かく震え始めた。「星野くん、下がって!」叫ぶと同時に、航はすぐギアを入れ直してアクセルを踏み込んだ。けれど雨でぬかるんだ道ではタイヤが空転し、思うように車が動かない。土石流はあっという間に距離を詰めてきていて、黒い土砂の波は目の前百メートルまで到達していた。そのとき、斜面から転がってきた岩が車の前部に激突した。激しい衝撃とともに車体が大きく揺れ、エアバッグが開く。胸を強く押され、目の前が暗くなった。「先輩、早く!高い場所へ!」我に返るより先に、航が私の腕をつかんで車外へ引っ張り出した。数歩走った
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