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第2話

Auteur: 挽歌
愛されているか、そうでないかというものは、こんなにも分かりやすい。

私は事務所には戻らず、そのまま家へと帰った。

結婚が決まったばかりの頃、私は期待に胸を躍らせながら智哉と物件を見て回ったけれど、彼は私にカードを1枚放り投げ、「好きにしろ」とだけ言った。

リビングの壁には、私たちのウェディングフォトが飾られている。智哉に撮影に来てほしいと何度頼んだか、もう覚えていないが、彼は最後まで私と写真を撮ってはくれなかった。だから結局、撮影スタッフが智哉と体格の似た男性を用意してくれ、その人と撮った写真に智哉の顔を合成した。

荷物をまとめ終えた頃には、頭がぼんやりして、立っているのもつらくなった。また熱が出てきたようだ。

そのとき、スマホの画面に智哉の名前が表示された。

「取りに戻りたいものがあるんだけど、家にいるか?」

メッセージを眺めているうちに、いつの間にか眠ってしまった。

どれくらい経っただろう。鍵の開く音で目を覚ますと、リビングにオレンジ色の明かりが灯り、眩しさに目を細めた。

外の冷たい空気をまとったまま、片手には仕事用の鞄を提げた智哉が帰ってきた。

がらんとした部屋を見回した彼の視線が、壁から外して隅に立てかけておいたウェディングフォトで止まる。ほんのわずかに彼の眉が寄った。

私はいつもの癖で立ち上がろうとしたが、足に力が入らず、よろめいた。

智哉が反射的に腕を支えてくれたのだが、私の肌に触れた瞬間、彼はすぐに手を離した。

支えを失った私は、そのままソファに崩れ落ちる。

「ひどい顔してるな」

気遣うというより、ただ目についたことを口にしただけのような声だった。

私は彼と目を合わせないまま答える。「大丈夫、少し熱があるだけだから」

「なんで荷物なんかまとめてるんだ?」

「智哉、結婚式はやめよう」

さすがに予想していなかったらしく、智哉は数秒黙りこんだ。

「天音のことか?俺とあいつは、ただの先輩と後輩でしかない。

それに、天音は君とは違うんだ。14歳で一人で海外に出て、自分の夢も仕事への意欲もあるし、ましてや四六時中、恋愛のことばかり考えてるような女じゃない」

私は何も答えなかった。智哉もそれ以上話す気はないらしく、そのまま書斎へ入っていくと、昔のスケッチブックを1冊手に戻ってきた。

玄関を出る直前になって、ようやくこちらを見る。「天音が急ぎでこれを使いたいらしいから、届けてくる。具合が悪いなら病院へ行け。無理するなよ」

閉まったドアを見つめていると、喉の奥がひどく詰まった。泣きたいわけでもないのに、苦しくて……とても痛かった。

翌日、私は仕事を休み、不動産会社に連絡して家の査定に来てもらった。

「水瀬さん、この物件は立地も間取りもいいですし、内装もまだ新しいです。この金額で出したらかなり損をしますが、それでも売却希望ですか?」

「はい」

私は躊躇いなくその場で契約書に名前を書き入れる。

「できるだけ早く売ってください」

家を売りに出したその日のうちに、私は2つのスーツケースを持って家を出た。新しく住む場所を探す気にはなれず、職場の近くにあるビジネスホテルにひとまず部屋を取った。

狭い室内には、ベッドと小さな机、それにユニットバスがあるだけ。

窓の外は交通量の多い道路で、夜になっても車の音が途切れない。

それなのに、あれほど時間をかけて整えた新居より、ずっと落ち着けた。

ここには智哉の痕跡も、彼に愛されていると思い込むために積み上げてきた、くだらない幻想もない。

私はベッドに腰を下ろすと、今度は結婚式場へ電話をかけた。

「予約している結婚披露宴をキャンセルしたいのですが」

「水瀬様、挙式まであと10日となっておりますので、今からのキャンセルですと申込金はご返金できません。それでもよろしいでしょうか?」

「はい。お願いします」

電話を切り、狭いベッドの上で身体を丸めた。熱はまだ下がっていない。ぼんやりする頭で目を閉じると、ずっと見ないふりをしてきた記憶が、次から次へと蘇ってきた。

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