玲司は相変わらず、大勢の人に囲まれていた。そのとき、一人の若い女性が人混みをかき分け、玲司のそばまでやって来た。東雲美月(しののめ みづき)は形のいい眉を寄せ、不思議そうに玲司を見つめる。「何してるの?来ないって言ってたじゃない」美月は玲司の従妹であり、彼のアシスタントの一人でもある。今夜のチャリティー財界晩餐会に、玲司はもともと出席するつもりがなかった。とはいえ、雅子から直々に招待状を受け取っておきながら、無下に断るのも気が引ける。そこで、自分の代わりに美月を出席させることにしたのだ。今夜も玲司は、会場まで美月を送ってきただけだった。ところが、車を停めていたほんのわずかな間に、昨夜、忽然と現れ、また姿を消したあの女を見つけた。それで急遽、予定を変えたのだ。「気が変わった」玲司は相変わらず琴音のいる方向を見つめたまま、気のない返事をした。「何見てるの?」美月もその視線を追う。そして、玲司が一人の美女をじっと見つめていることに気づくと、途端に目を輝かせた。まさか、あの玲司が女を見てる?あの玲司にも、ついに春が来るのだろうか。何か言おうとした、そのとき。情報を集めに行っていた航平が戻ってきた。だが、その顔はひどく言いづらそうだった。玲司が人混みに背を向けると、航平はそばへ寄り、声を潜めた。「社長、諦めたほうがいいです。あの人とは無理ですよ」「俺は、彼女と笹原信彰がどういう関係なのか調べろと言ったんだが」「だから無理なんですって。いわば、敵同士みたいなものです」玲司の眉が寄った。「どういう意味だ?」「彼女は笹原徳松(ささはら とくまつ)の孫娘で、笹原信彰の実の姪です。いやあ、二人が昨夜最後までいってなくて本当によかったですよ。もしそうなってたら、あの頑固じいさん、刀を手にして社長を斬りに来ますよ……」笹原徳松の孫娘。その言葉を聞いた瞬間……玲司の端正な顔が、たちまち凍りついた。とんだ因縁だ。よりによって、あの頑固じいさんの孫娘なのか?これでは二人は、敵対する家の人間ということになる。両家の因縁は、玲司たちの祖父母の代にまで遡る。若き日の徳松は、清廉で保守的、そして頑固な苦学生だった。一方、玲司の祖父である東雲裕礼(しののめ ひろのり)は、裕福な家庭に生まれた、穏
Ler mais