「水野副社長、ご依頼のあった全プロジェクトのデザイン原案です。ご確認ください」社員の佐藤が分厚い資料の束を抱え、私のデスクに置いた。私は軽く中身をめくり、笑顔で尋ねた。「電子データのバックアップはある?」「ありません。デジタルデータは流出しやすいから残さないようにと、高瀬社長から会議で指示されました」佐藤は残念そうに首を振った。どれも完成度の高いデザインだった。社外へ持ち出さなくても、パソコンに保存して勉強できれば、それだけで大きな財産になる。「さすが高瀬社長ね。よく考えてる」私は小さく笑い、原案を1枚めくった。そこには、私が自分の手で描いたデザイン案が収められていた。一本一本の線に、私が注いできた時間と労力が刻まれていた。「でも、どうして急に原案が必要になったんですか?まだ進行中のプロジェクトも多いですし、修正の際には原案と照らし合わせる必要がありますよね」佐藤が不思議そうに尋ねた。この原案は、会社にとってかけがえのない財産だった。「新しい案件が決まったでしょう。昔のデザインを見返して、参考になりそうなものを探したいの」声がかすかに震えた。それでも、表情だけは何でもないように装った。「よかった!また副社長の新作が見られるんですね。新しい原案ができたら、みんなでしっかり勉強させていただきます!」佐藤は目を輝かせ、隠しきれない敬意を向けてきた。何気ない会話を交わして佐藤を見送ると、私は静かにオフィスのドアを閉めた。背後にあるノートパソコンを見つめたまま、しばらく動けなかった。新しいプロジェクトの資料をコピーするため、瑛介のパソコンを開かなければ、私は一生、あのSNSアカウントの存在に気づかなかったかもしれない。そのアカウントが作られたのは、今から4年近く前だった。瑛介は、一つ一つの投稿を丁寧に綴っていた。初めてあの女に惹かれた瞬間から、二人がようやく結ばれたと喜ぶまで。そこには、二人が重ねてきた時間のすべてが残されていた。SNSの中の瑛介は、まるで別の世界に生きているようだった。明るく、冗談好きで、優しい。彼女のすべてを受け入れていた。二人は私が一度も連れていってもらえなかったレストランへ行き、私がずっと食べたがっていた生クリーム入りのシュークリームを一緒に味わって
Read more