第50話 変な好きでも、笑わない場所 交流祭終了のアナウンスが流れたのは、夕方五時を少し過ぎた頃だった。 学生ホールの人波が、ゆっくり外へ流れていく。 朝からずっと人がいたせいか。 急に静かになると。 少し変な感じがした。「終わったね」 陽菜が言う。「うん」「長かった」「かなり」「悠真、途中かなり休んだけど」「そこ言う?」「大事」「もう反省した」「本当に?」「かなり」「次また無理したら?」「怒られる」「誰に」「陽菜」「私だけ?」「神崎先輩と久我にも」「よし」 完全に管理対象になっている。 でも。 今日は。 それでいい気もした。 俺たちは。 少しずつ片付けを始めた。 匿名カード。 模造紙。 風船。 受付用の机。 案内板。 そして。 陽菜の体験文。『高校生の頃、同級生に汗の匂いのことを言われてから、私は自分の匂いが嫌になりました。』 そこから始まる。 一枚の文章。 交流祭前。 出すかどうか。 何度も悩んだ。 文章にする時も。 俺とかなり揉めた。 それでも。 最後は。 陽菜自身が。 出すと決めた。 その文章の横。 小さな感想カード。『自分の嫌いなところを、すぐ好きにならなくてもいいって初めて思いました。少し救われました。』 陽菜は。 まだそれを持っている。「それ」 俺が言う。「何」「持って帰る?」「うん」「展示物として保管しない?」「これは」 陽菜が少し考える。「私が持ってていい?」 神崎先輩へ聞く。「もちろん」「本当に?」「書いた人の個人情報もないし」「はい」「陽菜ちゃん宛てに近い感想だから」「じゃあ」 陽菜は。 カードを。 大事そうに財布へ入れた。「なくさない?」「悠真のカードもまだある」「あれ財布?」「うん」「一緒?」「別のところ」「何で」「折れたら嫌だから」「そんな大事?」「大事」 以前。 俺が書いた。『一緒にいると、自分が少しまともになるところ。』 それも。 まだ持っているらしい。「悠真は?」「何が」「私のカード」「手帳」「まだ?」「ある」「見せて」「今?」「確認」「信用ない?」「あるけど見たい」 俺は。 バッグから手帳を出す。 少し奥。 透明のポケット。『
Last Updated : 2026-09-22 Read more