FAZER LOGIN人より嗅覚が鋭すぎる大学一年生・香坂悠真は、他人の香水や洗剤、汗の匂いまで強く記憶してしまうせいで、人付き合いを避けてきた。そんな彼が出会ったのは、陸上部で明るく人気者なのに、自分の汗と体臭にひそかなコンプレックスを抱える夏目陽菜。「私、やっぱり臭う?」と聞かれ、悠真は思わず「する。でも嫌じゃない。むしろ好きかもしれない」と答えてしまう。最悪すぎる一言から始まった二人の距離は、匂い、声、筆跡、手、仕草など、人には言いづらい“好き”を語るフェチ研究会との出会いで少しずつ変わっていく。自分では嫌いだった部分を、誰かだけが好きと言ってくれる。そんな不器用で面倒で、やさしく胸が高鳴る青春偏愛ラブコメ。
Ver mais大学生活というものは、もっと劇的に始まるものだと勝手に思っていた。
入学式の日、桜の下で運命的な出会いがあるとか、講義室でたまたま隣になった誰かと意気投合するとか、サークル勧誘に巻き込まれた結果、それまでとはまるで違う世界が広がるとか。高校までの俺は、そんな話を小説やドラマの中だけのものだと笑っていたくせに、いざ自分が大学生になると、心のどこかで少しくらいは期待していたらしい。
だが、私立青葉ヶ丘大学に入学して二週間が経った現在、香坂悠真の大学生活は驚くほど地味だった。
講義に出て、昼食を食べ、次の講義に出て、帰る。
以上。
友人と呼べそうな相手も、一応はいる。基礎ゼミで隣の席になった久我蒼とは何度か昼を食べたし、連絡先も交換した。ただ、久我は今日は午後からアルバイトがあるとかで、一限が終わったところで帰ってしまった。
だから俺は今、一人で学生食堂へ向かっていた。
「……人、多いな」
昼休みの中央広場には、嫌になるほど学生がいる。
別に人間そのものが嫌いなわけじゃない。ただ、人が多い場所は昔から苦手だった。
春の風が吹くたびに、さまざまな匂いが鼻へ流れ込んでくる。誰かが飲んでいる甘いカフェラテ、芝生の青臭さ、植え込みの土、柔軟剤、香水、ヘアワックス。それから、少し遠くにある学食の換気口から漂ってくる揚げ物の油。
普通の人間なら気にも留めない程度なのかもしれないが、俺には全部が妙にはっきり分かる。
生まれつき鼻が利きすぎるのだ。
犬並み、などと言えば格好よく聞こえるかもしれないが、別に犯罪捜査に役立つわけでもなければ、ワインの銘柄を嗅ぎ分けられるわけでもない。ただ人より少し、いや、かなり匂いに敏感というだけだった。
そして、この体質は大抵の場合、便利さより面倒のほうが勝つ。
人混みを避けるように歩きながら、学食まであと少しというところで、俺は前方から勢いよく走ってくる人影に気づいた。
「すみませーん! 通ります!」
女子学生だった。
肩に大きなスポーツバッグを掛け、ジャージの上着を羽織っている。長い髪は高い位置で一つにまとめられていて、額には汗が浮いていた。
どうやら走ってきたらしい。
しかも速い。
「うわっ」
「きゃっ、ごめんなさい!」
曲がり角で真正面からぶつかりそうになり、俺は反射的に半歩後ろへ下がった。
女子学生も急停止した。
「ほんとごめん。大丈夫? ぶつかってないよね?」
「ああ。平気」
「よかった……。昼休み短いのに、ミーティング長引いちゃってさ。って、あれ?」
彼女はそこで言葉を止めた。
俺の顔を見る。
そして、さっき俺が一歩下がった場所を見る。
表情が微妙に変わった。
「……もしかして、私、なんかついてる?」
「いや」
「顔?」
「別に」
「じゃあ、その一歩は何?」
「一歩?」
「今、私が近づいた瞬間、下がったでしょ」
かなり細かいところを見ている。
「ぶつかりそうだったからだろ」
「それだけ?」
「それ以外に何があるんだよ」
女子学生はしばらく俺の顔を見ていたが、やがて、自分の首元を気にするようにジャージの襟を少し引っ張った。
その仕草で、俺にも何となく察しがついた。
彼女は走ってきたばかりなのだろう。汗をかいている。
そこを気にしているらしい。
「……ねえ」
「何?」
「正直に答えてほしいんだけど」
さっきまで明るかった声が、ほんの少しだけ小さくなった。
「私、やっぱり臭う?」
一瞬、答えに詰まった。
質問があまりにも直球だったからだ。
こういう時、一般的にはどう答えるのが正解なのだろう。
臭わないよ、と即答するべきなのか。
だが俺の場合、それは嘘になる。
「……汗の匂いはする」
言った瞬間、彼女の顔が露骨に曇った。
「ああ、やっぱり」
「いや、待って」
「いいよ、正直に言ってって頼んだの私だし。朝から部活だったから仕方ないんだけどさ。でも、やっぱり人と会う前に着替えてくればよかった。ボディシートも使ったんだけどなあ」
彼女は困ったように笑った。
明るく取り繕っている。
でも、その笑い方が妙に引っかかった。
昔から俺は、人が嘘をついているかどうかは分からない。だが、匂いに関してだけは、人よりずっと細かく感じ取ってしまう。
彼女からは確かに汗の匂いがしていた。
ただ、それだけではない。
洗いたてのタオルの匂い。薄い柑橘系のボディシート。それに、外を走った後特有の、日差しに温められた服と髪の匂い。
少なくとも俺には、不快ではなかった。
「別に臭くないぞ」
「今、汗の匂いするって言ったじゃん」
「汗の匂いがするのと、臭いっていうのは別だろ」
「え?」
「汗をかいてるんだから、汗の匂いがするのは普通だろ。でも、それが嫌な匂いかって聞かれたら、そうじゃない」
彼女は目を瞬かせた。
「……何、その理屈」
「理屈じゃなくて、事実」
「普通、女の子にそんな説明する?」
「そっちが正直に答えろって言ったんだろ」
「言ったけど、もうちょっとこう、言い方っていうものがあるじゃん」
「じゃあ、どう言えば正解だったんだよ」
「知らないよ。『全然気にならないよ』とか?」
「気にはなる」
「最悪じゃん!」
思わず声を上げた彼女に、近くを歩いていた学生が何人か振り返った。
「声大きい」
「誰のせいよ!」
「だから、悪い意味じゃないって」
「じゃあ、どういう意味なの?」
詰め寄られて、俺は困った。
本当に説明しづらい。
「……なんというか」
「うん」
「嫌じゃない」
「それはさっき聞いた」
「むしろ」
そこで止めればよかったのだと思う。
今振り返れば、間違いなくそうだ。
なぜ俺が、その先まで正直に言ってしまったのかは分からない。
ただ、その時の彼女が、自分の汗の匂いを本気で嫌っているように見えたからかもしれない。
「むしろ俺、その匂い、結構好きかもしれない」
沈黙した。
風が吹いた。
中央広場の木々がざわざわと揺れ、遠くでサークル勧誘の学生が「新入生まだ募集中でーす!」と叫んでいる。
そんな周囲の音だけが、やけにはっきり聞こえた。
「……は?」
彼女が言った。
「いや」
俺はようやく、自分が何を口走ったのか理解した。
「今のは忘れてくれ」
「ちょっと待って」
「忘れろ」
「無理でしょ!」
頬を真っ赤にした彼女が、俺を指差した。
「初対面に近い女の汗の匂いを『好き』って言う人、私、生まれて初めて会ったんだけど!」
「俺だってこんなこと言う予定じゃなかった!」
「予定があったらもっと怖いよ!」
「だから忘れろって」
「忘れられるわけないでしょ!」
こちらも恥ずかしくなってきた。
別に変な意味で言ったわけではない。
本当にただ、不快ではないということを伝えたかっただけだ。
それなのに、自分の口から出ると、とんでもなく怪しい発言になる。
彼女はしばらく俺を睨んでいたが、ふいに何か思い出したようにスマートフォンを見た。
「あっ、やばい! 学食!」
「何?」
「十二時半から友達と約束してるの! もう十二時二十七分!」
「それで走ってたのか」
「そうだよ!」
慌てて走り出しかけた彼女は、しかし二歩進んだところで止まった。
振り返る。
「ねえ」
「まだ何かあるのか」
「名前」
「名前?」
「あなたの名前。聞いてない」
俺は少し迷った。
「香坂。香坂悠真」
「香坂悠真……」
なぜか確認するように繰り返したあと、彼女は自分を指差した。
「私、夏目陽菜。文学部じゃなくて経済学部。陸上部。あと、別に毎日汗臭いわけじゃないから」
「最後の情報いるか?」
「いる! 非常に重要!」
夏目陽菜はそう言うと、今度こそ学食へ走り出した。
十メートルほど進んだところで、また振り返る。
「それから!」
「今度は何だよ」
「さっきの発言、まだ許してないから!」
「別に許してもらうようなことした覚えないけど」
「女の子に『汗の匂い好き』は十分事件なの! 覚えといて!」
言いたいことだけ言うと、彼女は今度こそ人混みの向こうへ消えていった。
残された俺は、その場で小さく息を吐いた。
「……何だったんだ、あいつ」
そう呟いた直後だった。
風が、彼女の走っていった方向から吹いてきた。
一瞬だけ、さっきの匂いがした気がした。
汗。
洗剤。
柑橘系のシート。
春の日差し。
俺は無意識に、その方向へ目を向けた。
もう彼女の姿は見えない。
なのに、なぜだろう。
今まで何百人、何千人と人間の匂いを感じてきたのに、夏目陽菜という名前と一緒に、あの匂いだけが妙に頭へ残っている。
「……いや、だから何なんだよ、俺」
自分で自分に呆れながら、俺は学食へ向かった。
この時の俺はまだ知らなかった。
数日後、あの夏目陽菜が、まるで俺を避けるようになることも。
そのくせ、俺が別の女子学生と話していると、妙に遠くからこちらを見てくることも。
そして彼女との出会いをきっかけに、俺が大学生活で最も関わりたくなかった種類の集団――人間の「好き」を真面目に研究する、通称「フェチ研」へ足を踏み入れることになるなんて。
もちろん、この時点では知るはずもなかった。
第50話 変な好きでも、笑わない場所 交流祭終了のアナウンスが流れたのは、夕方五時を少し過ぎた頃だった。 学生ホールの人波が、ゆっくり外へ流れていく。 朝からずっと人がいたせいか。 急に静かになると。 少し変な感じがした。「終わったね」 陽菜が言う。「うん」「長かった」「かなり」「悠真、途中かなり休んだけど」「そこ言う?」「大事」「もう反省した」「本当に?」「かなり」「次また無理したら?」「怒られる」「誰に」「陽菜」「私だけ?」「神崎先輩と久我にも」「よし」 完全に管理対象になっている。 でも。 今日は。 それでいい気もした。 俺たちは。 少しずつ片付けを始めた。 匿名カード。 模造紙。 風船。 受付用の机。 案内板。 そして。 陽菜の体験文。『高校生の頃、同級生に汗の匂いのことを言われてから、私は自分の匂いが嫌になりました。』 そこから始まる。 一枚の文章。 交流祭前。 出すかどうか。 何度も悩んだ。 文章にする時も。 俺とかなり揉めた。 それでも。 最後は。 陽菜自身が。 出すと決めた。 その文章の横。 小さな感想カード。『自分の嫌いなところを、すぐ好きにならなくてもいいって初めて思いました。少し救われました。』 陽菜は。 まだそれを持っている。「それ」 俺が言う。「何」「持って帰る?」「うん」「展示物として保管しない?」「これは」 陽菜が少し考える。「私が持ってていい?」 神崎先輩へ聞く。「もちろん」「本当に?」「書いた人の個人情報もないし」「はい」「陽菜ちゃん宛てに近い感想だから」「じゃあ」 陽菜は。 カードを。 大事そうに財布へ入れた。「なくさない?」「悠真のカードもまだある」「あれ財布?」「うん」「一緒?」「別のところ」「何で」「折れたら嫌だから」「そんな大事?」「大事」 以前。 俺が書いた。『一緒にいると、自分が少しまともになるところ。』 それも。 まだ持っているらしい。「悠真は?」「何が」「私のカード」「手帳」「まだ?」「ある」「見せて」「今?」「確認」「信用ない?」「あるけど見たい」 俺は。 バッグから手帳を出す。 少し奥。 透明のポケット。『
第49話 俺の嗅覚、イベント会場では最悪でした 人より匂いが分かるという話をすると、たまに羨ましがられることがある。「料理の匂いだけで何入ってるか分かるの?」「好きな人が近くにいたら気づける?」「香水とか当てられる?」 そういう時、俺はだいたい適当に答えてきた。分かる時もあるし、分からない時もある。そもそも嗅覚が少し鋭いだけで、何でも当てられる特殊能力ではない。 それに、良いことばかりでもない。 むしろ人が多い場所では、余計な情報まで拾うせいで面倒になる。 春季交流祭当日の昼過ぎ、俺は改めてそのことを思い知らされていた。「香坂君、入口側どう?」 神崎先輩に呼ばれ、俺は展示板から視線を外した。「今のところ大丈夫です。受付の前だけ少し詰まってるので、記入カードをもう一つ奥へずらしたほうがいいかもしれません」「分かった。じゃあ私動かす」「俺やります」「いや、香坂君は今全体見てて」「でも近いので」「だから私がやるって」 神崎先輩が机を動かし始める。 俺は一歩遅れて手を止めた。「……じゃあお願いします」「珍しく素直」「今それ言います?」「最近ずっと運営責任者みたいな顔してるから」「責任者じゃないです」「顔は完全にそう」 神崎先輩は笑っていたが、俺にはそこへ返す余裕があまりなかった。 人が増えている。 それ自体は嬉しい。 フェチ研の展示は、想像していたより明らかに人を集めていた。 澪先輩の字に惹かれて入ってくる人。匿名カードを見て友達同士で笑う人。陽菜の体験文の前で立ち止まる人。自分の「好き」を書いて、少し恥ずかしそうに箱へ入れる人。 企画としては成功している。 問題は。 成功すればするほど。 匂いも増えることだった。 まず人。 香水。 整髪料。 柔軟剤。 制汗剤。 汗。 ハンドクリーム。 コーヒー。 学生ホールの向こうで売られている焼き菓子。 さらに外から風が入るたび、屋台の油とソースの匂いまで混ざってくる。 一つずつなら。 別に平気だ。 でも。 同時に来る。 しかも。 人が動くたび変わる。 俺の頭は。 勝手にそれを拾う。「香坂君?」 澪先輩の声。 俺は少し遅れて反応した。「はい」「今呼んだ」「すみません」「大丈夫?」「何がですか」「反応遅かった」「ちょ
第48話 白石先輩の字が、いちばん人を集めました 春季交流祭前日。 学生ホールで展示タイトルを試しに掲げた時。 最初に足を止めたのは、フェチ研に興味がある人ではなかった。「字、めっちゃ綺麗」「これ手書き?」「すごくない?」 通りかかった女子学生二人が。 澪先輩の書いた、『好きって、どこから?』 を見上げている。 その下には。『あなたの「好き」は大切。でも、相手の「嫌」も同じくらい大切。』 さらに小さく。『好きは、誰かの境界線を越える許可証ではありません。』 全部。 澪先輩の字だった。「写真撮っていいのかな」「展示始まってないし、やめとく?」「でも字だけでも見たい」 女子学生たちは。 少し離れたところにいる俺たちへは気づいていない。 そのまま。「こういう字書ける人いいな」「分かる。ノート借りたい」 と話しながら去っていった。 俺は。 その様子を見たあと。 澪先輩を見る。「白石先輩」「……何」「かなり固まってますけど」「うん」「大丈夫ですか」「多分」「嫌でした?」「嫌じゃない」「じゃあ」「恥ずかしい」 かなり小さい声。 陽菜が俺の袖を軽く引く。「悠真」「何」「白石先輩、耳赤い」「見れば分かる」「珍しい」「聞こえてる」 澪先輩が言った。「すみません」 陽菜はあまり反省していない顔。「でも」「何?」「嬉しかったですか」 澪先輩は。 すぐに答えなかった。 展示タイトルを見る。「……少し」「少し?」「かなり」 陽菜が笑う。「素直」「でも変な感じ」「どこがですか」「私」 一度止まる。「人の字を見るほうだったから」 その言葉に。 俺も少し納得する。 澪先輩は。 ずっと。 字を見る人だった。 俺のノート。 付箋。 短いメモ。 最後の線。 ひらがなと漢字の違い。 本人が気づいていない癖。 かなり細かく見る。 だから。 逆になった。 今。 自分の字を。 知らない人に見られて。 評価された。「どうですか」 俺が聞く。「何が」「見られる側」 澪先輩は。 少しだけ困った顔をする。「落ち着かない」「嫌?」「嫌じゃない」「でも」「もっと勝手に見てほしくないって思うかと思った」「……」 陽菜も。 少し表情を
第47話 彼氏と一緒に文化祭準備すると、普通に喧嘩する 恋人同士だから、一緒に何かをやれば息が合う。 そんなのは、多分かなり都合のいい思い込みだった。「だから、入口に募集カード置いたほうがいいって」「俺は反対」「何で」「入ってきた人が最初から書くとは限らないだろ。まず展示見てもらって、自分にもこういう好きあるかもって思ってから書くほうが自然」「でも最後に書く場所あったら、混むじゃん」「だから出口手前に机二つ置く」「教室狭くなる」「入口に置いても狭くなる」「入口ならまだ流せる」「立ち止まられたら詰まる」「そんな大混雑する前提で考えなくてもよくない?」「混んでから考えるほうが遅い」「悠真、そういうところ!」 交流祭三日前。 フェチ研の部室。 床には教室の簡単な見取り図が広げられ、その上へ付箋や小さな紙が何枚も置かれている。 入口。 受付。 展示板。 匿名カード。 陽菜の体験文。 自由記入スペース。 久我が出す予定の焼き菓子は、食品提供の申請が間に合わないため試食ではなく「食べる表情についての写真なし展示」に変更された。 神崎先輩が最初に言った。『今日は全部決めます』 その宣言から、まだ二十分。 俺と陽菜は。 すでにかなり揉めていた。「どういうところ」「全部先に悪い場合考えるところ」「悪い場合考えないと当日困るだろ」「分かるけど」「じゃあ」「でも、まだ来る人数も分かんないじゃん」「分からないから余裕持たせる」「その余裕のために展示小さくするの?」「安全なほうがいい」「面白くなくなったら意味ない」「面白さの話と導線は別」「別じゃないよ」「別だろ」「別じゃない」「……」「……」 向かい。 神崎先輩が。 紙コップのコーヒーを飲みながら俺たちを見ていた。 澪先輩はペンを持ったまま黙っている。 久我はなぜか今日も来ている。「神崎先輩」 俺が言う。「何?」「何か言ってください」「どっちも分かる」「一番困るやつ」 陽菜も言う。「玲奈先輩、逃げてません?」「逃げてないよ。本当に両方分かるから」「じゃあ決めてください」「会長権限?」「こういう時に使ってください」「嫌」「何で」「二人が何で揉めてるか、まだ見たい」「楽しんでる!」 陽菜が言った。「少しだけ