第21章キャシーは足を引きずるようにして、蒸し暑い狭いアパートへと入ってきた。古びた布製の靴を脱いだ瞬間、全身を襲う痛みがさらに激しさを増した。彼女はすり減ったウレタンのソファに倒れ込み、胸元に赤の毛糸の首輪を強く抱きしめながら、残されたわずかな力を振り絞ろうとしていた。「キャシー? 帰ってきたの?」バスルームのドアが開き、親友であり同居人でもあるセレーナが姿を現した。タオルで髪を拭いていたセレーナだったが、泣き腫らした目でボロボロになったキャシーの痛々しい姿を見るなり、即座に手を止めた。「うん……ただいま、セル」キャシーは掠れた低い声で答えた。そして素早く、首輪をズボンのポケットの中に隠した。セレーナは近寄り、ソファの彼女の隣に腰を下ろした。その表情は一変し、ワクワクとした歓喜にパッと華やいだ。「キャス、聞いて! すごい良いニュースがあるの。私が働いているモーレンズ・コーポレーションでね、チーフファッションデザイナーの大規模募集が始まったのよ」キャシーはハッとした。その名前を耳にした瞬間、頭の中で鋭い耳鳴りが響いた。彼女は首をぶんぶんと振り、反射的にその提案を拒絶した。「デザイナー? 無理だよ、セル。私……私には無理。もうずっとスケッチも服のデザインもしてないんだもの」「どうして無理なのよ?」セレーナは眉をひそめ、不満げな視線を彼女に向けた。「キャス、あなた私たちの代で一番優秀な生徒だったじゃない!」「それは、ずっと昔の話だよ、セル……」キャシーは呟いた。その視線は床の一点に落ち、惑うように彷徨った。胸を押し潰すような息苦しさが、再び彼女を捉える。「5年前に結婚してから……私はその夢を完全に捨てたの。ただの妻として、母親として生きたかった。私の技術なんて、もう錆びついているはずだよ」「ちょっと、キャシー!」セレーナは彼女の肩を優しく揺さぶり、自分のポジティブなエネルギーを少しでも分け与えようとした。「過去の不幸な出来事のせいで、あなたの素晴らしい才能を無駄にしちゃダメ! これは人生をやり直すための絶好のチャンスなのよ。チーリのためでもあるんでしょ?」自信に満ちた笑みを浮かべ、セレーナは言葉を続けた。「ノートにこっそりデザインを描いているの、知ってるんだから。あなたなら絶対にできるわ!」キャシーは沈黙した。かろうじ
Last Updated : 2026-09-20 Read more