野菜スープが地面にこぼれた。白い湯気が立ちのぼったが、それもすぐに冷たい風にさらわれていく。尋の声が震えた。「寧々、そんなこと言うなよ。東都が俺たちの家だろ」私は首を振った。「あれはあなたの家でしょ。私の家じゃない。ここには7年も住んだけど、ずっと、誰かの家に居候しているみたいだった。キッチンでは辛いものを作れないし、リビングには私の物を置けない。母が送ってくれた燻製肉だって、あなたがいないときに隠れて食べてたんだよ。尋。私には、ずっと前から家なんてなかったの」尋の目から、また涙がこぼれた。「俺が変わる。戻ってきてくれたら、全部やり直すから。寧々の好きなようにしていい。キッチンには唐辛子をたくさん置こう。それから、ベランダには君の好きな花を植えるよ。北州にも一緒に帰るし、お義母さんにも会いに行く。なんでも君の言う通りにするから」その姿を見ていると、7年前の自分を見ているようだった。あの頃の私も、大事に抱えた気持ちを、壊さないようにそっと尋へ差し出していた。「尋、二人でうまくやっていけるなら、私、何でも覚えるよ」でも、一度冷え切った心は、あとからどれだけ温めても、元には戻らない。私は静かに言った。「私みたいにならなくていいよ。もう意味ないから」彼は私を抱きしめようと手を伸ばす。私は一歩、後ろへ下がった。行き場をなくして止まった伸ばされた腕。「寧々……頼む。行かないでくれ。今になって分かったんだ。寧々がいないと、何もかも駄目になる。帰っても家の明かりがついてないし、クローゼットには君の服がない。冷蔵庫を開けても、君が買った果物がひとつも入っていないんだ。胃が痛くなっても、もう薬を出してくれる人がいないし、昇進の資料を間違えてても、誰も気づいてくれない。そんなの全部、大したことじゃないと思ってた。でも今になって分かった。ずっと寧々が支えてくれてたんだって」彼は涙声で必死に訴える。けれど私は、ただ疲れるだけだった。「尋。あなたは、私を愛していたんじゃない。私に世話をしてもらうことに慣れてただけ。いつも言うことを聞いてくれる都合のいい関係が好きだったんでしょ?いつもあなたの後ろにいる、私が好きだっただけなの」尋は何
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