尋が帰ってきたとき、私は辛味噌鍋に肉を入れていた。鍋の素は、母がわざわざ北州から送ってくれたもので、牛脂たっぷりの激辛。この7年間、尋が辛いものを嫌うから、いつも棚の奥にしまい込んでいた。そして賞味期限が切れるたび、捨てていた。でも今日は、どうしてもこの味が恋しかった。玄関を開けた尋は、部屋に漂う辛い匂いに気づくなり顔をしかめる。「俺が辛いもの食べないって知ってるだろ。早く捨ててくれ。匂いだけで気持ち悪い」結婚してから7年、尋はずっと辛いものは受けつけないと言っていた。母が北州から唐辛子と山椒で煮込んだ郷土料理を送ってくれたときも、唐辛子が入っていると分かった途端、尋はそのままゴミ箱へ捨てた。それどころか、私が一度、辛味噌鍋を作ったときには、その日のうちに鍋も食器も全部新しいものに買い替えた。だから、私はずっと、彼が本当に心の底から辛いものが嫌いなのだと思っていた。だから尋に合わせて、7年間ずっと自分の好みを我慢してきた。でも今日、別の女性と激辛で有名な鍋料理店で食事をしている姿を偶然見て、ようやく分かった。彼は辛いものが食べられないんじゃない。私とは食べたくなかっただけ。尋の言葉が聞こえなかったふりをし、私は鍋から肉を一枚取り、取り皿に入れた。尋が眉間にしわを寄せた。「寧々、聞いてるのか?」私は顔も上げずに答える。「今日、私の誕生日だよ」去年の今日、ケーキのろうそくを吹き消す前に、私は一つ願い事をした。「来年の誕生日だけでいいから、尋と一緒に家で辛味噌鍋が食べたい」尋は露骨に嫌そうな顔をしたけれど、それでも了承してくれた。でもそのあと、私は尋に悪いと思って願い事を変えた。「じゃあ来年の誕生日は、一日中一緒にいてほしい」今日は、その願いが叶うはずの日だった。それなのに、尋は私と一緒にいてくれなかったどころか、好きなものさえ食べさせてくれない。去年の自分を思い出すと、思わず笑いが漏れた。その拍子に唐辛子でむせ、涙が止まらなくなる。尋も去年のことを思い出したらしく、険しかった表情が少し和らぎ、気まずそうに目を逸らした。そのとき、尋のスマホが鳴った。若い女性の声が聞こえてくる。「尋さん、激辛で有名なラーメン屋さんを見つけたの。すっごくおいしそうだから
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