「……透?」私は驚いて、恐る恐る声をかけた。もしかしたら寝ぼけているだけなのかもしれない。そう思うと、うかつに起こすのもためらわれた。「うん」透が低く答えた。それを聞いて、ようやく胸を撫で下ろした。「こんな夜中に寝ないで、ここに立って何してるの?」透は肩をすくめ、どうでもよさそうに答えた。「さっき、お前がぐっすり寝ててさ。息してないみたいだったから、死んだのかと思って様子を見てただけ」「……ほんっと、口が悪いんだから」私はむっとして呟いた。体に力が入るなら、枕でも投げつけてやるところだ。けれど透は私の不満など気にも留めず、そのまま背を向けると、折り畳みベッドへ戻っていった。やがて、寝息を立てて眠った。そのたくましい背中を眺めながら――私はふと、ぼんやりした違和感を覚えた。和哉の身長は175センチで、細身だった。それに対して、透は183センチ。背が高く、がっしりしている。どうしてだろう。夢の中で見た、あの背中。あれは和哉よりも――透に似ていた気がする。そういえば、私が和哉を追いかけ始めたばかりの頃、綾香にもよく笑われた。「愛がヒール履いたら、和哉とほとんど同じ身長じゃん。あんな細っこい男が、愛を守れるわけがないでしょ?彼氏なら、透みたいな人がいいって。あっちのほうが絶対安心できるんだから」当時の私は、そんな言葉をまともに聞く気もなく、ただひたすら和哉のことを見つめていた。でも今なら分かる。私があれほど大切にして、守って、支えてきた和哉は――私を守ってくれなかった。それどころか、私を深く傷つけた。私はそれ以上考えるのをやめた。ゆっくりと目を閉じる。もうすぐ死ぬ私にとって、夢の中に誰が出てきたのかなんて――どうでもいいことだった。……数日後。透が海外から呼び寄せた専門医による診察を受けた。子どもを諦めて治療に専念する。そのうえで、適切な薬物療法と分子標的薬を組み合わせれば――余命を2、3年ほど延ばせる可能性があるという。その話を聞いても、私の心にはほとんど何も浮かばなかった。ただ、透と綾香だけが、泣いたり笑ったりしながら喜んでいる。私は2人を見て、静かに笑った。「少しだけ時間をちょうだい。気分転換で、いろんなところを回ってみたいの。戻ったら、ちゃんと治療を受ける
Read more