自然と軽くなる足取りが、百貨店のショーウィンドウに映る。ガラス越しに目が合った自分の顔は久しぶりに晴れやかで、家までの道のりがじれったい。 3回目の結婚記念日が今までで1番のものになる気が、美琴にはしていた。やっと、待ちわびた日が来た。きっと千尋もお義母さんも喜んでくれるはず、きっと……。 そう、長かった。大槻千尋と結婚して以来、家業—— 『jewelry otsuki』の跡継ぎはまだかと催促される日々。会社の宝石デザイナーとして活躍しながら不妊治療を続けて、ようやく宿った命。これまで美琴を冷たくあしらってきた義母も、認めてくれるかもしれない。 やっと報われるのだ、そんな期待を込めて、身長を超える大きな鉄製の門を開ける。「ただいま帰りました!」 弾むような足取りでリビングに覗かせた美琴の笑顔は、一瞬のうちに凍りついた。 夫・千尋の横にいたのは、赤井このは。jewelry otsukiの宣伝部の新人だった。それまで笑い合っていたのであろう二人の表情が固まる。ぎこちなく視線を逸らしながら「お、おかえり美琴」千尋はそれだけ口にした。 美琴はゆっくり二人を見比べた。千尋はjewelry otsukiの若き社長だ。何か理由があって社員を家に招くこともあるのかもしれない。だが、肩が触れ合うほどのこの距離感は——。 「あら、帰ったのね」 背後から声がした。ふり向くと、千尋の母・優子が立っていた。「ずいぶん遅かったじゃないですか」「す、すみません。少し病院に……」「そう。なら連絡のひとつでもくださればよかったのにねえ。これだからあなたは」 美琴を一瞥しただけで、千尋とこのはのほうに歩み寄る。言葉を失う美琴の前で、優子は追い打ちをかけるように、このはに微笑みかけた。「このはさん、ずっと立っていては疲れない? どうぞ座ってちょうだい」 美琴には決して向けたことのない穏やかな声。このはも上目遣いに優子を見上げ、片手を握って口もとに当てた。「大丈夫です。お気遣いいただきありがとうございます」 彼女のもう片方の手がすっとお腹を撫でたのを、美琴は見逃さなかった。 手が震える。千尋とこのはの関係は、社内でも噂になっていた。もちろん美琴の耳にも入っていたし、同僚から、二人がホテルに入っていく写真を見せられたこともあった。 それでも信じていた。千尋が「誤
Last Updated : 2026-09-11 Read more