翌日、家を出た夜瑠は、晏臣がまだ立ち去っていなかったことに気づいた。彼はひどくやつれた様子で車のドアに寄りかかっていたが、夜瑠の姿を認めるなり、その濁った両目にパッと光を宿した。「夜瑠、どこへ行くんだ。俺が送ろう」しかし夜瑠は彼を完全に無視し、自分の車に乗り込んだ。晏臣は車を出し、憔悴した面持ちで彼女の後をつけた。彼は信じていなかった。たった2ヶ月離れていただけで、自分の愛する夜瑠が他の男に心を移すはずがない、と。それに、二人の間にあるのはただの誤解だ。彼女の怒りさえ収まれば、必ず自分の元へ戻ってくるはずだ。ふと我に返った時、夜瑠の車が向かっていた先が病院であることに気づいた。夜瑠が病気なのか?なぜ病院に?事前にきちんと調べていなかった自分を悔やみながら、同時に夜瑠の体をひどく案じていた。だが、夜瑠の歩みについて行った先は――産婦人科だった。しかもそこには、すでに朔也が待ち構えていた。晏臣はピタリと足を止めた。心臓が早鐘のように激しく打ち鳴らされ、一歩前へ踏み出すことすらできない。朔也に付き添われながら、夜瑠が妊娠健診の登録を行い、採血を受け、診察室へと案内されていく姿。そのすべての光景が、ひとつの恐ろしい事実を彼に突きつけていた。夜瑠は、妊娠している。世界がぐるぐると反転するような目眩を覚えながら、晏臣は麻痺したように二人の後ろをついて歩いた。その時、慌てて通りかかった若い看護師が、誤って手元のトレイを落とした。晏臣は咄嗟に身を挺し、飛び散るガラスの破片から彼女を庇った。腕を伝って流れ落ちる鮮血は、かつて彼が誤って夜瑠を傷つけてしまった時の光景とひどく似ていた。ただ違うのは、今回は自分が彼女を護ったということだ。彼は掠れた声で口を開いた。「……夜瑠」だが、夜瑠は振り返らなかった。かつて、彼の傷を見て心を痛め、涙を流してくれたあの優しい娘は、彼自身の手によって永遠に失われてしまったのだ。晏臣は目を閉じ、看護師の手当てを拒絶すると、惨めな姿のまま再び夜瑠の後を追った。今度は彼女の前に立ちはだかり、卑屈に懇願した。「夜瑠、お腹の子の父親が誰であろうと構わない。俺がその子の父親になる。俺の持つすべてのものを、その子に与えるから。頼む、俺を無視しないでくれ……」夜瑠はひどく静かな
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