第21話 敵が誰なのか、もう分からない 午後五時十二分。 如月蓮は、自宅のダイニングテーブルに置いた端末を見ながら、今日だけで何度目になるか分からないため息をついた。 七十二時間。 たった三日。 世界中で加速し始めた量子AI開発競争を、一度だけ止める。 蓮が提案したのは、それだけだった。 三日間で技術問題を解決できるとは思っていない。 国同士が信頼し合えるようになるとも思っていない。 ただ、走りながら疑い合う状態を一度止めたかった。 それすら、半日も持たなかった。「父さん」 向かいのソファに座っていた葵が声をかける。「さっきから同じ画面見てない?」「見てる」「十回くらい?」「もっとかもしれん」「見ても内容変わらないでしょ」「変わるんだよ」「何が」「悪い方向に」 蓮が端末を葵へ向けた。 ニュース速報が並んでいる。《PROMETHEUS、七十二時間開発凍結案への参加判断を延期》《欧州ARGUS計画に軍事転用機能との内部資料》《中国量子AI研究で国外世論分析か》《各国、匿名流出情報の真偽確認急ぐ》 葵は画面を少し見てから、すぐ蓮へ返した。「よく分かんない」「正常だ」「何が?」「十七歳がこれ読んで全部理解できたら、そっちの方が心配だ」「父さんは分かるの?」「分からん」「じゃあ一緒じゃん」「俺の場合、分からないことが問題なんだ」
Última actualización : 2026-10-04 Leer más