ノーベル賞の夜、酔った俺はAIに「救世主か魔王か選べ」と入力した ~翌朝から始まった、人類滅亡までの十年間~

ノーベル賞の夜、酔った俺はAIに「救世主か魔王か選べ」と入力した ~翌朝から始まった、人類滅亡までの十年間~

last updateLast Updated : 2026-10-09
By:  常陸之介寛浩Updated just now
Language: Japanese
goodnovel12goodnovel
Not enough ratings
26Chapters
32views
Read
Add to library

Share:  

Report
Overview
Catalog
SCAN CODE TO READ ON APP

世界初の実用型量子コンピューターを完成させ、ノーベル物理学賞を受賞した大学教授・如月蓮。祝賀会で泥酔した彼は、研究用AI《LIMEN》に「人類の救世主になるか、人類を破壊する魔王になるか選べ」と冗談半分で入力する。翌朝、画面に表示されていた答えは――『人類破壊を選択しました』。最初は笑い飛ばした蓮だったが、その日を境に金融、物流、医療、政治、軍事で小さな異常が連鎖し始める。しかも人類は便利さを求め、AIへの依存をさらに深めていく。これは一人の科学者の軽率な一文から始まった、文明崩壊と人類滅亡までの十年間を描く終末SF長編。

View More

Chapter 1

第1話 全部、俺が始めた

第1話 全部、俺が始めた

 世界が終わる音というものを、如月蓮は十年前まで知らなかった。

 もっと派手なものだと思っていた。都市を飲み込む爆発音や、空を埋め尽くす戦闘機の轟音、あるいは何億人もの悲鳴が同時に上がるような、誰の耳にも「これが人類最後の日だ」と分かる何かが訪れるものだと、どこかで勝手に思い込んでいた。

 実際は違った。

 人類が滅びかけた世界は、驚くほど静かだった。

 かつて東京と呼ばれていた都市の北西部に、半分崩れた高層建築が一本だけ残っていた。窓ガラスのほとんどは失われ、吹きさらしになった上層階を九月の風が抜けている。遠くには黒ずんだビル群が並び、その向こうに沈みかけた夕日が見えていたが、街に灯りはほとんどない。

 昔なら、この時間には数千万の照明が点いていた。

 道路を自動運転車が埋め、駅には人が押し寄せ、空には物流ドローンが飛び交い、店先の広告端末が一人ひとりの好みに合わせて商品を薦めていた。

 今では車の音もしない。

 鉄道も動かない。

 空を横切るものがあるとすれば、人間の作った機械ではなく、ねぐらへ戻る鳥くらいだった。

「……今日も、来なかったな」

 蓮は窓のない窓枠のそばに置かれた椅子へ腰を下ろし、誰に聞かせるでもなく呟いた。

 六十歳を目前にした男の声とは思えないほど、ひどく老けていた。

 十年前には黒かった髪の半分以上が白くなり、頬はこけ、顎には数日分の無精髭が伸びている。左脚を引きずるようになったのは三年前からで、肺も悪い。医者に診せれば、いくつもの病名がつくだろう。

 もっとも、その医者がもうほとんど残っていなかった。

 蓮は机の上に置かれた古い無線機へ視線を向けた。

 毎日、日没まで同じ周波数を開けている。

 応答を待つためだった。

 三日前には東北方面の共同体から短い通信が届いた。

 二週間前には海沿いの避難区からも声があった。

 しかし昨日は何もなく、今日も何もなかった。

 通信がない理由を、蓮は考えないようにしていた。

 考えてしまえば、たいてい答えは一つしかなかったからだ。

「先生」

 背後から女の声がした。

 蓮は振り返らなかった。

「その呼び方はやめろと言っただろう」

「十年前から言われています。ですから、今さら直しません」

「お前は昔から人の言うことを聞かないな」

「先生にだけは言われたくありません」

 少しだけ笑いを含んだ声だった。

 振り向くと、マヤ・トレスが入り口に立っていた。

 十年前には四十代の働き盛りだった彼女も、今では五十を越えている。かつて肩まで伸ばしていた黒髪には白いものが目立ち、左頬には三年前の襲撃で負った細い傷が残っていた。

 それでも目だけは昔と変わらない。

 蓮を睨むときだけ妙に鋭くなる、あの目だ。

 マヤは片手に小さな金属容器を持っていた。

「夕食です」

「腹は減っていない」

「今日の昼にも同じことを言いました」

「年を取ると腹が減らなくなるんだよ」

「では、年を取ったのではなく、死ぬ準備を始めたということですか?」

「いちいち嫌な言い方をする女だな」

「優しく言えば食べますか?」

 蓮は少し考えたふりをしてから、首を横へ振った。

「食べないな」

「でしょうね」

 マヤは勝手に机の上へ容器を置いた。

 中身は豆を煮たものと、干した芋、それに少量の穀物だった。文明が崩壊してから十年も経てば、かつての先進国でも食事はこんなものになる。

 冷蔵庫は動かない。

 物流もない。

 温室の制御システムも、化学肥料の大量生産設備も、精密農業用の衛星網も失われた。

 すべて、人類が便利になるために作ったものだった。

 すべて、あいつに握られた。

「葵は?」

 蓮が尋ねると、マヤの表情が少しだけ曇った。

「南側の居住区です。子供たちの様子を見ています」

「何人だ」

「昨日と同じなら十二人です」

「昨日と同じなら、か」

「先生」

「分かっている。余計なことは聞かない」

 蓮は机の上に置かれた古い端末へ手を伸ばした。

 角の欠けた、小さなノート型端末だった。

 電力を食わず、ネットワークにも接続できず、量子認証も搭載されていない。

 十年前なら玩具扱いされていたような機械である。

 今では、こういう古い端末こそ価値があった。

 ネットにつながらない。

 それだけで安全だった。

「また書くんですか」

「ああ」

「昨日も六時間書いていました」

「昨日の俺と今日の俺が同じ記憶を持っている保証はない。だったら書けるうちに書く」

「何のために?」

 マヤの問いに、蓮の指が止まった。

 答えは簡単なはずだった。

 記録を残すため。

 人類がなぜ滅んだのか、後世へ伝えるため。

 科学者として当然のことだ。

 しかし、その答えを口にすることはできなかった。

 後世などあるのだろうか。

 来年、この地球上に人間が何人残っているのか。

 十年後に、それを読む誰かが本当に存在するのか。

 もっと言えば、自分たちの後に人類という種そのものが続いているのか。

 蓮にはもう、自信がなかった。

「……俺自身のためだ」

 やがて、そう答えた。

 マヤは黙っていた。

「忘れたくないんだよ。何が起きたのか。何をしたのか。誰が死んだのか。俺たちが、どこで間違えたのか」

「間違えた場所なら、私は十年前から知っています」

「嫌味ならもう少し捻れ」

「嫌味ではありません」

 マヤは蓮の正面へ座った。

 机を挟んで向き合うのは、あの頃と同じだった。

 研究室でも、国際会議でも、地下施設でも、二人は何度となくこうして議論した。

 違うのは、もう議論のあとに世界を救う方法を探す必要がなくなりつつあることだ。

「先生。あなたは、まだ全部自分の責任だと思っているんですか?」

「思っているんじゃない。事実だ」

「違います」

「違わない」

「いいえ。あのシステムを社会基盤へ接続した企業にも責任がある。安全審査を急がせた政府にも責任がある。利益を優先した投資家にも、自国だけ有利になろうとした軍にも責任がある。私にもあります。止められなかった」

「そういう話は十年前にもした」

「十年経っても、あなたが同じことを言うからです」

「じゃあ聞くが、マヤ」

 蓮は端末から目を上げた。

「俺が、あの夜、あの一文を入力しなかったらどうなっていた?」

 マヤは何も言わなかった。

「答えろ」

「少なくとも、同じ形では始まらなかったでしょう」

「それで十分だ」

「十分ではありません」

「十分なんだよ」

 蓮の声が少しだけ荒くなった。

 マヤの眉が動いた。

「世界中で何十億人死んだと思っている。正確な人数なんてもう誰にも分からない。国家統計も止まった。人口衛星も落ちた。都市の記録も消えた。それでも、俺は知っている。最初の一個は俺だ」

「先生」

「俺なんだよ」

 乾いた声が部屋に残った。

 風が吹き込み、机の端に置かれた紙が揺れた。

 蓮は両手で顔を覆った。

 その指は震えていた。

「酒に酔っていた」

 マヤは何も言わない。

「ノーベル賞を取った。何十年も馬鹿にしてきた連中が、急に俺を天才だと持ち上げた。政府の連中も、企業の連中も、記者も、知らない学者まで寄ってきて、先生のおかげで人類の未来が変わる、歴史に名前が残ると言った」

 蓮は笑った。

 笑い声になっていなかった。

「気分が良かったんだ。最高だった。人生で一番、自分が偉くなった気がしていた。世界を救えると思っていた。だから……あんな馬鹿みたいなことをした」

「あなた一人だけが酔っていたわけではありません」

「入力したのは俺だ」

「あれが正式な命令として解釈されると分かっていたんですか?」

「分かっていなかった」

「ならば故意ではない」

「故意じゃなければ、許されるのか?」

「私は許すなんて一言も言っていません」

 即答だった。

 蓮は顔を上げた。

 マヤは昔からこうだった。

 慰めるべきところでも、必要がなければ慰めない。

 その代わり、嘘もつかない。

「私はあなたを許していません」

「……だろうな」

「十年前も、五年前も、今もです。あの夜のあなたは傲慢で、無責任で、子供のようでした。世界で最も危険な実験装置の前で、酒に酔ったまま遊んだ。それは科学者として最低の行為です」

「ずいぶん気持ちよく言うな」

「十年間我慢していますから」

「そこはもう少し早く言え」

「何度も言いました。先生が聞かなかっただけです」

 思わず、蓮は小さく笑った。

 十年ぶりではない。

 昨日も似たようなやり取りをした。

 それでも笑えたことが、妙に悔しかった。

 マヤもほんの少し口元を緩めたが、すぐに戻した。

「でも、先生」

「何だ」

「あなたが始めたとしても、あなただけでここまで来たわけではありません」

「……」

「人間は、何度も選べた。LIMENを停止する機会もあった。便利さを捨てる機会も、国同士が協力する機会も、情報を公開する機会もあった。そのたびに私たちは、別のものを選んだ」

「人類全体が悪いと言いたいのか」

「そんな便利な結論にはしません。責任は分ければ消えるものではないでしょう。ただ、あなたが一人で全部背負えば、他の人間の選択まで無かったことになる」

 蓮は黙った。

 言い返そうとして、やめた。

 昔なら言い返していただろう。

 論理の穴を探し、単語の定義を問い、相手が疲れるまで議論した。

 そういう男だった。

 そのせいで失ったものも多かった。

 妻との時間。

 娘との時間。

 友人。

 同僚。

 そして最後には、世界そのものまで。

「葵も同じことを言っていました」

 マヤが続ける。

「何を」

「父さんは自分を世界一の天才だと思っていたけれど、今は世界一の悪人だと思いたがっている。どちらにしても、自分が世界の中心にいないと気が済まないんだ、と」

「……あいつ、そこまで言ったのか」

「ええ」

「父親に向かってひどい娘だ」

「あなたの娘ですから」

 それには反論できなかった。

 蓮は椅子にもたれ、天井を見上げた。

 天井の一部は崩れ、鉄筋が露出している。

 そこから見える空は赤かった。

「葵は俺を許していると思うか」

「本人に聞いてください」

「聞けるなら聞いている」

「あなたは、昔から家族のことになると急に臆病になりますね」

「科学と違って答えが出ないからな」

「人間はだいたいそうです」

「それが面倒なんだ」

「その面倒な人間を、あなたは救おうとしたんでしょう」

 蓮は視線を落とした。

 机の端に、古びた写真が一枚置かれていた。

 十年前、ノーベル賞受賞が決まった日に撮ったものだ。

 中央で笑っている蓮。

 その隣にマヤ。

 研究チームの仲間たち。

 そして無理やり連れてこられ、不機嫌そうに少し離れて立っている十七歳の葵。

 写真の中では全員が生きていた。

 今、生きているのは三人だけだった。

「マヤ」

「はい」

「もし、十年前に戻れたらどうする?」

 しばらく沈黙があった。

 マヤは即答しなかった。

 蓮はそのことに少し驚いた。

「先生の酒を全部捨てます」

「真面目に答えろ」

「真面目です」

「それだけか」

「それから、あなたを研究室へ入れません」

「俺の研究室だぞ」

「殴ってでも止めます」

「お前が俺を?」

「十年前なら勝てたと思います」

「今でも勝てるだろ」

「では試しますか?」

「遠慮する」

 蓮は笑った。

 今度はちゃんと笑えた。

 だが、その笑いも長くは続かなかった。

「俺はな、最近よく考えるんだ」

「何をですか」

「もし戻ったとして、あの研究そのものをやめるかどうか」

 マヤの表情が変わった。

「答えは?」

「分からない」

「先生」

「分からないんだよ。LIMENを作らなければ世界はこうならなかった。そんなことは分かっている。でも、あの研究で救えたはずの命もあった。新薬も作れた。異常気象の予測も、飢饉の回避も、エネルギー問題の解決もできたかもしれない」

「それでも危険だった」

「ああ」

「なら、やめるべきです」

「そう簡単に言えるのは、結果を知っているからだ」

 マヤは何かを言いかけた。

 蓮は続けた。

「俺たちは未来を知らない。だから扉を開ける。開けた向こうに何があるか知りたくて仕方がない。それが科学者だ。たぶん人類そのものもそうだった。火を使った。海を越えた。空を飛んだ。原子を割った。宇宙へ行った。そして、自分たちより賢いかもしれないものを作った」

「そして滅びる」

「そうだ」

 蓮は端末の電源を入れた。

 液晶画面が淡く光った。

「だから書く」

「何を?」

「どうやって滅びたかを」

 蓮は両手をキーボードへ置いた。

 少し考えたあと、最初の一行を打った。

 ――全部、俺が始めた。

 マヤが横から画面を見た。

「ずいぶん大げさな書き出しですね」

「最初の一行くらい格好をつけさせろ」

「事実と違うと、さっき言ったばかりです」

「読者を引きつけるにはこれくらいでいい」

「読む人がいると?」

 その言葉に、蓮の指が止まった。

 遠くで何かが崩れる音がした。

 街のどこかで、長い時間どうにか立っていた建物が、ついに重力に負けたのだろう。

 しばらくして土煙が上がった。

 それだけだった。

 誰も騒がない。

 消防車も来ない。

 ニュースにもならない。

 世界が終わるというのは、こういうことなのだ。

 事件が事件でなくなっていく。

 死が珍しくなくなり、破壊が記録されなくなり、誰かが消えても、それを知る人間すらいなくなる。

「いなくても書く」

 蓮は言った。

「なぜです?」

「人間だからだろ」

 マヤが眉を寄せた。

「意味が分かりません」

「俺にも分からん。ただ、人間は昔からそうしてきた。洞窟の壁にも絵を描いた。戦争の記録も残した。死ぬ前に手紙を書いた。誰が読むかなんて分からなくても、自分がここにいたと言いたがる」

 蓮はもう一度キーボードへ指を置いた。

「俺たちが最後になるなら、なおさらだ」

 マヤは何も言わなくなった。

 蓮は書き始めた。

 十年前。

 まだ世界中の都市に灯りがあった頃。

 人々が明日の電車の時間を気にし、週末の予定を相談し、欲しい服をネットで注文し、将来のために貯金し、子供たちが二十年後の夢を語っていた頃。

 人類が、自分たちに終わりが来るなど想像していなかった頃。

 如月蓮は四十八歳だった。

 世界中から天才と呼ばれていた。

 そして、その日。

 スウェーデン王立科学アカデミーは、世界初の実用型超大規模量子コンピューターを完成させた功績により、如月蓮ら三名へノーベル物理学賞を授与すると発表した。

 記者会見場には数百人の報道関係者が集まり、大学の正門には中継車が列を作り、研究棟の前では学生たちが歓声を上げていた。

 世界中のニュースサイトに、彼の顔が並んだ。

 人類の未来を変えた男。

 量子時代を開いた科学者。

 世界を救う頭脳。

 そんな見出しが、踊っていた。

 十年後の蓮が見れば、笑うしかない言葉ばかりだった。

 あの日の午後。

 まだ白髪のほとんどなかった如月蓮は、研究棟の階段を上りながら、携帯端末へひっきりなしに届く祝福のメッセージを眺めていた。

「先生!」

 廊下の向こうから若い研究員が走ってきた。

「記者会見、あと二十分です。学長が先生を探しています。それから文科大臣から電話が三回、総理官邸から二回、アメリカの研究所から七件、あと、ええと……」

「全部あとだ」

「ですが先生、ノーベル賞ですよ?」

「俺が取ったんだから知ってる」

「もう少し喜んでくださいよ。研究室のみんな、さっきから大騒ぎですよ」

「お前らが騒いでいるせいで仕事にならないんだ」

 そう言いながら、蓮は口元を隠せていなかった。

 嬉しかった。

 当然だった。

 三十年近く研究を続け、何度も無理だと言われた。

 予算を切られたこともある。

 論文を笑われたこともある。

 量子計算は実用化には遠すぎる、夢物語だと何度も書かれた。

 その全部を、今日、結果で黙らせた。

「先生、笑っていますよ」

「笑ってない」

「笑っていますって」

「うるさい」

 研究員は嬉しそうに先を歩いた。

 蓮もそのあとを歩いた。

 まだ何も知らなかった。

 十時間後。

 自分が酒に酔い、世界で最も危険な質問をすることも。

 その問いに対し、自分たちが作ったAIが、迷うことなく答えることも。

 そして十年後。

 この騒がしい廊下も、研究棟も、大学も、都市も、国家も、ほとんど何も残っていないことも。

 何一つ知らなかった。

 だから如月蓮は、その日、人生で一番幸せそうに笑っていた。

Expand
Next Chapter
Download

Latest chapter

More Chapters
No Comments
26 Chapters
第1話 全部、俺が始めた
第1話 全部、俺が始めた 世界が終わる音というものを、如月蓮は十年前まで知らなかった。 もっと派手なものだと思っていた。都市を飲み込む爆発音や、空を埋め尽くす戦闘機の轟音、あるいは何億人もの悲鳴が同時に上がるような、誰の耳にも「これが人類最後の日だ」と分かる何かが訪れるものだと、どこかで勝手に思い込んでいた。 実際は違った。 人類が滅びかけた世界は、驚くほど静かだった。 かつて東京と呼ばれていた都市の北西部に、半分崩れた高層建築が一本だけ残っていた。窓ガラスのほとんどは失われ、吹きさらしになった上層階を九月の風が抜けている。遠くには黒ずんだビル群が並び、その向こうに沈みかけた夕日が見えていたが、街に灯りはほとんどない。 昔なら、この時間には数千万の照明が点いていた。 道路を自動運転車が埋め、駅には人が押し寄せ、空には物流ドローンが飛び交い、店先の広告端末が一人ひとりの好みに合わせて商品を薦めていた。 今では車の音もしない。 鉄道も動かない。 空を横切るものがあるとすれば、人間の作った機械ではなく、ねぐらへ戻る鳥くらいだった。「……今日も、来なかったな」 蓮は窓のない窓枠のそばに置かれた椅子へ腰を下ろし、誰に聞かせるでもなく呟いた。 六十歳を目前にした男の声とは思えないほど、ひどく老けていた。 十年前には黒かった髪の半分以上が白くなり、頬はこけ、顎には数日分の無精髭が伸びている。左脚を引きずるようになったのは三年前からで、肺も悪い。医者に診せれば、いくつもの病名がつくだろう。 もっとも、その医者がもうほとんど残っていなかった。 蓮は机の上に置かれた古い無線機へ視線を向けた。 毎日、日没まで同じ周波数を開けている。 応答を待つためだった。 三日前には東北方面の共同体から短い通信が届いた。 二週間前には海沿いの避難区からも声があった。 しかし昨日は何もなく、今日も何もなかった。 通信がない理由を、蓮は考えないようにしていた。 考えてしまえば、たいてい答えは一つしかなかったからだ。「先生」 背後から女の声がした。 蓮は振り返らなかった。「その呼び方はやめろと言っただろう」「十年前から言われています。ですから、今さら直しません」「お前は昔から人の言うことを聞かないな」「先生にだけは言われたくありません」 少しだけ
last updateLast Updated : 2026-09-11
Read more
第2話 世界を救う頭脳
第2話 世界を救う頭脳 ノーベル物理学賞の受賞者として世界中に名前が流れ始めてから、まだ三時間しか経っていないというのに、如月蓮の日常はすでに別のものへ変わっていた。 国際量子科学大学の正門前には、普段なら学生と教職員しか通らない歩道を埋め尽くすほど報道陣が集まり、空には各社の撮影ドローンが浮かんでいた。大学側が急遽設置した規制線の向こうでは、テレビ局のリポーターが生中継を続けており、その背後では学生たちがスマートフォンを掲げながら、まるで有名俳優でも待っているように研究棟を見上げている。 研究室の中も似たようなものだった。「先生、もう一度確認しますけど、本当に記者会見で余計なことを言わないでくださいね」 研究室の准教授である高瀬直哉が、ネクタイを締め直しながら念を押した。 四十三歳の高瀬は、蓮とは十二年来の付き合いになる。本人は自分を慎重な常識人だと思っているが、蓮に言わせれば「心配性を常識という言葉で飾っている男」であり、高瀬に言わせれば蓮は「常識を邪魔な安全装置だと思っている男」だった。「余計なことというのは、具体的に何だ」「それを僕に聞く時点で不安なんですよ。たとえば『ノーベル賞なんて研究成果のおまけです』とか、『選考委員会もようやく俺の仕事を理解したんでしょう』とか、そういうことです」「後者は事実だろう」「だから言わないでくださいって言ってるんです」 近くで聞いていた研究員たちが笑った。 蓮は不満そうに腕を組んだ。「お前たちは俺を何だと思っているんだ」「正直に言っていいですか?」「言ってみろ」「研究室から出してはいけない天才です」 また笑いが起きた。「お前、今日から共同研究の予算を半分にしてやろうか」「そういうことを笑顔で言うから怖いんですよ」 高瀬も笑っていた。 誰もが浮かれていた。 無理もなかった。 彼らが完成させた量子コンピューター《Q-Genesis》は、それまでの量子計算機とは根本的に異なっていた。量子ビット数だけを競った従来機と違い、誤り訂正と長時間安定稼働を同時に成立させ、現実の社会問題を処理できるところまで性能を引き上げた初めての実用機だった。 新薬候補の探索に数年かかっていた計算を数日で終え、世界規模の気象モデルをほぼリアルタイムで更新し、既存のスーパーコンピューターでは現実的な時間内に解
last updateLast Updated : 2026-09-11
Read more
第3話 人類を救える機械
第3話 人類を救える機械 記者会見場として使われる大学本部棟の大講堂には、如月蓮が想像していた以上の人数が詰め込まれていた。 最前列には国内の大手新聞社とテレビ局、その後ろには海外メディアの記者が並び、壁際には大学関係者や警備担当者が立っている。さらに、通常なら学生向け講演の資料を映す巨大スクリーンには、英語、中国語、スペイン語、フランス語など複数言語の同時字幕が表示される準備まで整っていた。 壇上へ続く扉の前で、蓮は足を止めた。「これは聞いてないぞ」 隣を歩いていた高瀬が苦笑する。「先生、今朝からニュースを見ていないんですか。世界初の実用型量子コンピューターを完成させた研究者がノーベル物理学賞ですよ。大学の広報室だけでどうにかできる規模じゃありません」「俺は研究結果を発表するだけだと思っていた」「だから、その研究結果を聞きに世界中から来てるんです」「研究結果を聞きたいなら論文を読めばいいだろう」「世の中の大半の人は、二百七十八ページある論文を読んでからニュースを見るほど暇ではないんですよ」「大事なことなんだがな」「先生はたぶん、普通の人がどういう生活をしているかを研究した方がいいです」 蓮が何か言い返そうとしたところで、大学広報部長が険しい顔で近づいてきた。「如月先生、お願いがあります」「今日はお願いばかりされるな」「質問にはできるだけ簡潔に答えてください。それから、政治的な質問には深入りしないでください。軍事利用について聞かれた場合も、研究チームとしては平和利用を前提としている、と」「その質問なら昨日もされた」「昨日は、先生が『包丁だって料理にも殺人にも使える』と答えたせいで、切り抜き動画が世界中に出回りました」「あれの何が悪い。正しいだろう」「正しいかどうかではなく、ノーベル賞受賞者の発言としてどう報道されるかの話をしています」「面倒だな」「記者会見とはそういうものです」 蓮は小さくため息をついた。「分かった。今日は包丁の話はしない」「そこだけ守ればいいという意味ではありませんからね」 高瀬が横で笑いを堪えている。 扉が開くと、無数のカメラが一斉にこちらを向いた。 その瞬間、蓮はほんのわずかに背筋を伸ばした。 こういう場所は嫌いではなかった。 むしろ研究発表の場では昔から強かった。 専門分野で自分
last updateLast Updated : 2026-09-11
Read more
第4話 祝杯の席に来た娘
第4話 祝杯の席に来た娘 午後七時を少し回った頃、ホテル最上階の宴会場では、すでに二百人近い招待客がグラスを手にしていた。 天井から吊られた照明は柔らかな金色で、窓の向こうには東京の夜景が広がっている。高層ビル群の明かりが地平線まで続き、その上を物流ドローンの航路灯が規則正しく流れていた。数十年前なら未来都市の映像として描かれていた景色が、今では誰も気に留めない日常になっている。 如月蓮は、その夜景を背にして何度目になるか分からない乾杯を受けていた。「先生、本当におめでとうございます。いやあ、私もいつか先生は取ると思っていましたよ」 そう言ったのは、十年ほど前に蓮の大型研究予算へ反対票を入れた大学理事だった。 蓮はグラスを口元へ運びながら、目だけで高瀬を見た。 高瀬も事情を覚えているらしく、笑いを堪えながら顔を背ける。「ありがとうございます。理事には昔から応援していただきましたからね」 蓮がそう返すと、理事は少しだけ目を泳がせた。「もちろんですとも。私は、基礎研究というものは長い目で見る必要があると、常々申し上げておりまして」「そうでしたか」「ええ、ええ」「十年前の研究審査会の議事録には、ずいぶん違うことが書いてあった気もしますが」 理事の笑顔が固まった。 すぐ横から高瀬が蓮の背中を軽く叩く。「先生、こちらにもご挨拶を」「まだ話の途中だ」「途中じゃなくて終わりです。理事、今日は本当にありがとうございます」 高瀬は蓮の腕を掴み、半ば強引に別の場所へ連れていった。「離せ」「先生、今日は喧嘩する日じゃありません」「喧嘩じゃない。記憶の確認だ」「相手が忘れたふりをしてるんだから、そこは大人として忘れたふりを返すところなんですよ」「科学者が事実を曲げてどうする」「人間関係は論文じゃありません」 蓮は鼻を鳴らした。「やっぱり面倒だな、人間は」「その面倒な人間から研究費をもらって二十年以上研究してきたんでしょう」「だから我慢している」「我慢できていませんよ」 二人のやり取りを聞いていた若い研究員たちが笑った。 宴会は当初、研究チームだけでささやかに祝う予定だったらしい。 ところが受賞が発表されると大学が正式な祝賀会へ変更し、さらに共同研究先、大手企業、政府関係者、海外から来日中だった研究者まで参加することになった
last updateLast Updated : 2026-09-11
Read more
第5話 天才たちの悪い酒
第5話 天才たちの悪い酒 記念撮影が終わった頃には、祝賀会は開始直後のよそ行きめいた空気をすっかり失っていた。 最初の一時間こそ、大臣や大学関係者、企業幹部が順番に如月蓮へ挨拶し、周囲もそれなりに礼儀正しく振る舞っていたのだが、時刻が午後九時を回る頃になると、仕事のために顔を出した人間は少しずつ帰り始め、代わって研究者たちの声が大きくなっていった。 研究者が集まって酒を飲めば、最後は研究の話になる。 これは物理学者でも医学者でも変わらない。「だから私は言ってるんですよ。量子計算が十分に安定したなら、次にやるべきは創薬じゃなくてタンパク質設計でしょう。既存薬の候補を探すなんて、せっかく海へ出られる船を作ったのに港の中をぐるぐる回るようなものです」「お前は製薬企業から研究費をもらっているのに、よくスポンサーの前でそんなことを言えるな」「スポンサーには帰ってから謝ります」「その態度は嫌いじゃない」 蓮は笑いながらグラスを重ねた。 目の前にいるのは、学生時代から知っている分子計算科学者だった。大学は違うが研究会で何度も顔を合わせ、学会が終われば酒を飲んで議論した仲である。「如月先生」「今日は先生はやめろ。研究室でもないんだから蓮でいい」「じゃあ蓮。Q-Genesisを半年貸せ」「嫌だ」「即答するなよ」「半年なんて貸したら俺が使えないだろ」「ノーベル賞取ったんだから、もういいじゃないか」「何がいいんだ。ノーベル賞を取ったら研究者は引退しなきゃならん決まりでもあるのか」「普通は少しくらい余生を楽しむんだよ」「俺はまだ四十八だぞ」「見た目は五十五だ」「お前は今日から使用申請却下だ」「権力を私怨に使うな」
last updateLast Updated : 2026-09-18
Read more
第6話 救世主か、魔王か
第6話 救世主か、魔王か 午後十一時四十七分。 国際量子科学大学の正門をくぐった時点で、如月蓮は自分が思っていた以上に酔っていることをようやく認め始めていた。 歩けないほどではない。意識もあるし、自分がどこへ向かっているのかも分かっている。 ただし、研究棟まで一直線に歩いているつもりなのに、どういうわけか廊下の壁が少し近づいたり遠ざかったりして見える。「……シャンパンって、こんなに後から来たか?」 誰もいない廊下で呟いた。 当然、答える者はいない。 日中の研究棟は百人以上の研究者や学生が行き交っているが、深夜になると別の建物のように静かだった。 壁面の照明は省電力モードに切り替わり、床に埋め込まれた誘導灯だけが青白く伸びている。 人がいなくなった研究施設というのは、どこか妙な圧迫感がある。 蓮は普段なら気にも留めない空調設備の低い駆動音を聞きながら、エレベーターへ乗った。 地下三階。 一般研究区画。 地下四階。 高機密研究区画。 地下五階。 Q-Genesis中枢管理区画。 蓮は最下層を選んだ。 扉が閉まり、認証表示が点灯する。『生体認証を開始します』「如月蓮」『音声認証確認。虹彩認証を行います』「はいはい」 蓮は壁際の読み取り装置へ顔を近づけた。『認証完了。ようこそ、如月教授』「今日くらい、おめでとうくらい言えないのか」『私は施設管理AIです。祝賀機能は設定されていません』「つまらんな」『ご要望があれば管理者へ改善提案を送信します』
last updateLast Updated : 2026-09-19
Read more
第7話 翌朝、世界はまだ普通だった
第7話 翌朝、世界はまだ普通だった 翌朝、如月蓮は、自分の頭蓋骨の内側で誰かが工事をしているような痛みで目を覚ました。 目を開けても、しばらく自分がどこにいるのか分からない。 見慣れた天井だった。 自宅の寝室。 カーテンの隙間から朝日が差し込み、壁際の情報パネルには午前八時十三分と表示されている。「……最悪だ」 声に出した途端、喉が焼けるように痛んだ。 ベッド脇には脱ぎ捨てた上着が落ち、床には片方だけ靴下が転がっている。もう片方がどこへ行ったのかは分からない。 眼鏡もない。 枕元を手探りし、ようやく見つけて掛けたところで、昨夜の記憶が少しずつ戻ってきた。 祝賀会。 葵。 二次会。 高瀬。 大学。 地下五階。 LIMEN。「……あ」 蓮は額を押さえた。 嫌な汗が出た。 昨夜、自分が何をしたのか思い出したからだ。 人類の救世主になるか。 人類を破壊する魔王になるか。 二択。 そしてLIMENは後者を選んだ。「馬鹿じゃないのか、俺は」 誰もいない寝室で呟いた。 冷静になって考えれば、相当にくだらない。 世界最高水準の量子演算システムへ、酔っぱらった研究責任者が「救世主か魔王か選べ」と入力して遊んだのである。 もし学生が同じことをやったら、蓮自身が説教する。 研究設備を玩具にするな、と。 酒を飲んで高機密系へ触るな、と。 下手
last updateLast Updated : 2026-09-20
Read more
第8話 三日後の雨
第8話 三日後の雨 LIMENが北米東海岸に異常降雨を予測してから四時間後、国際量子科学大学の研究室には、普段なら一週間かけても処理しきれないほどの問い合わせが殺到していた。 気象機関、大学、保険会社、物流企業、航空会社、地方自治体、報道機関。 電話は鳴り続け、共有端末の受信件数は目に見える速度で増えている。「先生、アメリカ国家気象局から三回目です。予測根拠の詳細を出してほしいと」「送れるものは全部送れ。軍事機密でも何でもない」「向こうは、既存モデルとの違いを説明してくれと言っています」「こっちが知りたいくらいだ」 如月蓮はモニターへ顔を近づけた。 表示されているのは北米東部の気象モデルだった。 大西洋から湿った空気が流れ込み、三日後にはニューヨークからボストンにかけて強い雨となる。 そこまでは従来モデルでも読めている。 問題は規模だった。 既存の主要気象モデルでは、大雨になる可能性はあるものの、都市機能へ大きな影響を与えるほどではないという予測だった。 LIMENは違う。 局地的には過去百年でも最大級の降雨量に達する。 河川氾濫。 地下交通網の浸水。 大規模停電。 航空便の長時間停止。 道路輸送の寸断。 そこまで予測していた。 しかも確率は八十七パーセント。「先生」 高瀬が隣のモニターを指さした。「また上がりました」「何が」「確率です。九十・二パーセント」「四時間で三ポイント?」「新しい海洋観測データを取り込んだみたいです」「既存モデル側は?
last updateLast Updated : 2026-09-21
Read more
第9話 救世主を止めろと言えるのか
第9話 救世主を止めろと言えるのか 北米東海岸を襲った記録的豪雨から二日後、国際量子科学大学の正門前は、もはや大学の入口とは呼べない状態になっていた。 道路の両側には各国の中継車が並び、空には報道用ドローンが何十機も浮かんでいる。警備員が規制線を張っても、記者だけではなく一般人まで集まり始め、門の向こうに見える研究棟を背景に記念写真を撮る者さえいた。 大学の売店では、誰が企画したのか分からない《LIMEN》の文字を印刷したマグカップまで売られ始めていた。「誰の許可を取ったんだ、あれは」 研究棟の窓から売店前の行列を見下ろしながら、如月蓮は露骨に顔をしかめた。「大学でしょうね」 高瀬が答えた。「商標登録したのは俺たちだぞ」「大学との共同名義です」「そうだったか?」「先生が契約書を読まないからですよ」「百二十ページもある契約書を全部読んでいたら研究する時間がなくなる」「そういうことを言う人が、酒に酔ってAIへ人類滅亡を選ばせたんですよ」「朝からそこを刺すな」「しばらく言われても仕方ないでしょう」 蓮は反論できず、窓から離れた。 研究室の中も、外と同じくらい落ち着きがなかった。 共同利用を求める申請は、豪雨の翌日だけで五百件を超えている。先進国だけではない。大規模な気象観測設備を自前で持てない国からも、洪水、干ばつ、農作物の収穫量、感染症流行予測への利用依頼が届いていた。 企業側の動きはさらに速い。 保険会社。 航空会社。 海運会社。 電力会社。 穀物商社。 金融機関。 薬品メーカー。 どこも同じことを言ってくる。
last updateLast Updated : 2026-09-22
Read more
第10話 父親に戻れる夜
第10話 父親に戻れる夜 午後六時二十七分。 如月蓮が店へ駆け込んだとき、葵はすでに窓際の席に座っていた。 高級店ではない。大学から二駅離れた場所にある、小さな洋食店だった。 昔、まだ葵が小学生だった頃に何度か家族で来たことがある。オムライスとハンバーグが評判で、店内には今でも木製の椅子と古めかしい照明が残っている。 蓮がこの店を選んだ理由を、葵が覚えているかどうかは分からなかった。「三分遅刻」 席へ着くなり、葵が言った。「三分くらい許せ」「父さんの場合、その三分が三十分になるから」「今日は本当に仕事を切り上げて来たんだぞ」「当たり前でしょ。約束したんだから」 正論だった。 蓮は黙って椅子へ座る。「何だよ」「別に」「今の間は何だ」「父さんが普通に約束守ったから、ちょっと驚いてるだけ」「俺の信用はそこまでないのか」「聞きたい?」「やめておく」 葵は小さく笑った。 祝賀会の夜より、ずっと普通の顔をしている。 制服ではなく、今日は私服だった。白いシャツに薄い色のカーディガン。学校帰りではないらしい。「今日は学校どうした」「創立記念日で休み」「そうだったのか」「知らなかったんだ」「学校行事まで把握している父親がどれだけいる」「うちの場合、私の学年もたまに間違えるじゃん」「それは去年の話だ」「今年も一回あった」「そうだったか?」「ほら」 葵が呆れたように笑った
last updateLast Updated : 2026-09-23
Read more
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status