All Chapters of ファミリア ~シングルマザーが幸せになる方法~: Chapter 21 - Chapter 30

33 Chapters

まだ親子ではないけれど…… ②

「――んー、莉子の手作りの唐揚げ美味いなぁ。奏ちゃんのママは勝利上手だな」  瑛司くんはあたしお手製の唐揚げを頬張りながら、楽しそうに奏に話しかけている。奏もハンバーグを食べながら嬉しそうに「うん!」と頷いた。 「ありがと、瑛司くん。まだまだたくさんあるから、どんどん食べてね。あたしもハンバーグとウィンナーと唐揚げと、おにぎりもう一個食べよっと」 「あー! ママ、いっぱいとってるー! カナたんもたまごやきとウィンナーたべるー」 「よしよし。じゃあ、えいじおじちゃんが取ってあげような。はい、奏ちゃん」 「ありあとー♡」  こうしてみんなでワイワイ言いながら食べるお弁当は美味しい。こんなのいつぶりだろう? 去年の保育園のお遊戯会以来かな? 今年のお遊戯会の時は、母は来られたけれど父は出張中だったから来られなかったし。 「瑛司くん、ホントに奏のお父さんになったみたいだね。両親と一緒に四人で出かけた時は、あたしのお父さんがその役割してくれてるんだ。でもそれって、ホントはおじいちゃんじゃなくてお父さんの役目だよね」 「俺はいつでも奏ちゃんの父親になれるつもりでいるから。あとは莉子が、あの婚姻届を書いてくれるのを待つだけ」 「……あー……、あれね。まあ、あたしもまだ仕事変わって間もないし、まだ会社の人たちにも瑛司くんと付き合ってること言ってないし。書くのはまだまだ先かなぁ」 「そっか……。まぁ、期限は設けてないって言ったの俺だったしな。だったらまだ籍は入れなくてもいいから、奏ちゃんとは血の繋がってない父親
last updateLast Updated : 2026-10-08
Read more

まだ親子ではないけれど…… ③

 ――楽しかった時間はあっという間に過ぎて、もう夕方。帰りも瑛司くんに車で家の前まで送ってもらえることになった。「――奏、ぐっすり寝ちゃってる。はしゃぎ疲れちゃったのかな」 あの後ペンギンも見て、瑛司くんにマヌルネコとレッサーパンダ、そしてペンギンのぬいぐるみまで買ってもらってすっかりご機嫌だった奏は今、チャイルドシートの上でぬいぐるみたちに囲まれてすやすやと可愛い寝顔を見せている。あたしはその隣で我が子のそんな姿を見ながら、運転席の瑛司くんと話しているというわけだ。「家に着くまで起こさないでおこう。今日、よっぽど楽しかったんだろうな。俺も父親候補として認めてもらえたみたいだし」「うん。っていうかぬいぐるみ、約束どおり買ってくれてありがとね。予定外のペンギンまで増えちゃったけど。なんか余計な出費までさせちゃったみたいでごめんねー」「いやいや、俺は別にいいよ。可愛い可愛い奏ちゃんに『ペンギンしゃんもほしい~』って言われたら、買わないわけにいかないじゃん。大丈夫だよ。俺、これでも社長ですから。給料もいいし」「……いや、そういう問題じゃないと思うんだけど」 瑛司くんが奏を喜ばせたくてそうしてくれたことは分かっているのだけれど、母親のあたしからしたら、それって奏を甘やかしていることにならないのかな……と心配になるのだ。将来、彼が奏から「ねだれば何でも買ってくれるチョロい父親」と思われたりしないだろうか、と。「莉子は、今日楽しかった? 俺との子連れデート」「うん、すごく楽しかったよ。あたしも久々に童心に帰れた感じ」「そっか、それはよかった。でもごめんな? 莉子にも何か買ってやりたかったんだけど、奏ちゃんがくっついて離れないもんだからさ」「あたしはいいよ。奏に三つもぬいぐるみ買ってもらっちゃったし。何より、瑛司くんがあたしを会社に呼んでくれて、働かせてもらってるだけで十分だよ。ありがと。あと、こうして付き合えるようになったこともね」「……そっか。俺としては、莉子にもっと色々してやりたいと思ってるんだけどな。離れてた十年間を埋めるっていうか、そんな感じでさ。だから莉子がひとりで命がけで産んだ奏ちゃんにも、父親っぽいことしたいんだろうなって」「うん……、そっか。ありがと」 彼はきっと、あたしに向けてくれているのと同じくらいの熱量で奏にも愛情を注いでくれ
last updateLast Updated : 2026-10-10
Read more

婚姻届の保証人 ①

「――お父さん、お母さん、ただいまー!」「じぃじー、ばぁばー、ただいまぁ。どうぶつえん、たのしかったよぉ」 あたしと奏が一緒に玄関に入ると、両親が揃って「おかえり」と出迎えてくれた。家に着く前に、前もって「もうすぐ着くよ」と母にメッセージを送っておいたのだ。 玄関には瑛司くんも一緒についてきていて、両親に向かって「どうも、ご無沙汰してます」と頭を下げていた。「そう。奏ちゃん、よかったわねぇ。あら、ぬいぐるみさんまで三つも買ってもらって。瑛司くん、ありがとうね」「ああ、いえ。俺はただ、奏ちゃんに喜んでほしかっただけですから」 彼はそう言って、「なぁ、奏ちゃん?」とあたしの愛娘の頭を優しく撫でてくれた。「うんっ!」と奏も嬉しそうだ。「瑛司君、莉子が君の会社でお世話になってるそうで。ありがとう。莉子はちゃんとやれているかな?」「はい、大丈夫です。もうバリバリ戦力になってくれてますから。仕事を覚えるのも早いですし、キチンと大きなミスなくやってくれてますし。本当に助かってます」「そうか、よかった。莉子は孫を産んでからパートで働いたことしかなくて、正社員の経験がなかったもんだから。父親としても、社会人の先輩としても心配だったんだ」「そうだったんですね。でも、莉子は今の職場を気に入ってくれてるみたいです。仕事は楽しいし、同じ部署の人たちもみんないい人ばかりだし、って。俺も社長として嬉しいですよ。起業した甲斐があったなって」 父も母も、瑛司くんと再会するのは彼があたしと同じ十五歳の頃以来だ。でも、父と彼との会話はすっかり大人の男同士の会話になっている。父にとって今の彼は十年ぶりに再会した娘の幼なじみであり、娘の雇い主でもあるのだ。そして近い将来、「義理の息子」――つまり娘の夫という関係もそこに加わることになる。「瑛司くん、玄関で立ち話もなんだし上がって行って。何なら夕飯も一緒に食べて行ったら? 今日は唐揚げなんだけど、多めに作ったから。――今もご両親と一緒に住んでるの?」「いえ、今はひとり暮らしです。だから夕飯、ご相伴にあずかります」 瑛司くんがひとり暮らしをしているなんて知らなかった。再会してからも まだ半月余り、付き合うようになってまだ数日しか経っていないので、彼の現在のプライベートなことは何ひとつ知らされていないのだ。「分
last updateLast Updated : 2026-10-12
Read more

婚姻届の保証人 ③

「――おばさん、今日はごちそうさまでした。おばさんの唐揚げ、十年前と変わってなくてめちゃくちゃ美味しかったです。またおジャマしてもいいですか?」 夕飯が終わり、「ごちそうさま」と言ってから自分の食器をキッチンのシンクに運びながら、瑛司くんは母にお礼を言った。「ええ、もちろんよ。いつでもいらっしゃい。今住んでいるところはここから近いの?」「はい。ここから電車で一駅くらいですけど、俺車も持ってるんで」「そう……。それなら、お父さんの晩酌の相手はムリそうね。でもゴハンくらいならまた食べにいらっしゃい。瑛司くんはこの先、莉子の旦那さんになる人なんだから。遠慮しないでね」「ありがとうございます。それじゃ、俺はこれで失礼しますね。おジャマしました」「あっ、じゃああたし、瑛司くんをそこまで見送りに行ってくるよ。奏も一緒に行く?」  彼が玄関へ行こうとすると、食器を運んできたあたしも彼を見送りに出ることにした。そのために、家に帰ってきてからまだ服を着替えていないのだ。「ううん。カナたん、おうちでこのこたちとあそんでりゅー」「莉子、奏は父さんが相手してるから行ってきなさい。瑛司くん、またおいで」「はい。おじさんも、今日はありがとうございました。また遊びに来ますね。車で来なかった時は一緒に晩酌しましょ」 ――というわけで、あたしは瑛司くんと二人で家を出た。車を停めた駐車場は家から少し離れているので、そこまでちょっとした夜の散歩を楽しむ。「瑛司くん、今日はホントにありがと。それからお疲れさま」「俺の方こそ、今日は奏ちゃんに会わせてくれてありがとな。すげえ楽しかったし、おばさんの唐揚げも美味かったし。……あ、莉子の手作りの弁当も」「ううん。奏も喜んでくれてたしね、会わせてみてよかったよ。あと、ぬいぐるみもありがとう」 買ってもらってすぐに商品のタグを取ってあげると、奏はすっかり気に入って手放さなくなったのだ。さっそく名前までつけて可愛がっているし、保育園まで持っていくとか言い出さないかと親としてちょっと心配ではある。「奏ちゃんには今日、欲しいもの買ってあげたから……。今度は莉子に何か買ってやる番かな」「……うん?」「今度は、二人でどこかに行かないか? つまり、奏ちゃん抜きで……ってことだけど」「え……。それって……デート、ってことだよね?」 ここへ
last updateLast Updated : 2026-10-14
Read more

天国にいる彼へ ①

 ――瑛司くんの会社に入社して、半月以上が経ったある日。「――沙希さん、すみません。明日休ませてほしいんですけど……」 出勤してすぐ、あたしは直属の上司である沙希さんにおずおずとそう申し出た。 「明日? まぁ、莉子さんは今急ぎの案件を抱えてないから大丈夫だけど。どうしたの? 体調でも悪い? ……あ、これって理由訊いちゃいけないんだっけ?」「いえ……。体調は特に何も問題ないんですけど、明日はちょっと私用で行くところがあって」 沙希さんもおっしゃっていたとおり、最近は自分の案件を何件も任せてもらえるくらい仕事は順調だし、人間関係も良好だし。体調も悪くない。でも、明日はどうしても外せない用事があって出社できないのだ。「そっか、用事があって出社できないってことね。分かったわ。有休使わなくていいの? 普通の休みだとお給料つかないけど」「大丈夫です。あたし、まだ入社して間もないですし。有休はまた次の機会に使わせて頂きます」「そう? ……ねえ、これはあくまで個人的に訊きたいんだけど。その用事って?」 沙希さんはここからは上司としてではなく、あくまで個人として質問してきた。有休を申請された時でも、理由を訊くのはタブーとされているらしい。でも個人的には理由を知っておきたいということだと思う。「明日は元カレの……、娘の父親の月命日なんです。だから毎月お墓参りに行っていて」「元カレの……。そういえば入社前に結婚してないとは聞いてたけど、お相手は亡くなってたんだね。病気で?」「いえ、交通事故でした。彼が亡くなってすぐに、あたしは妊娠してることが分かったんです」「そうだったの……。なんかごめんね。つらいこと思い出させちゃって」「いえいえ、あたしは大丈夫です。このことは瑛司くんにも話してあるので」 沙希さんは決して悪意があって訊いたわけじゃないと思う。シングルマザー、特に未婚の母には様々な事情があるので、上司として知っておきたいというのは自然なことだ。「そっか、瑛司社長も知ってるわけね。……で、そろそろ教えてくれてもいいんじゃない?」「……えっ? 何をですか?」「莉子さんって、瑛司社長と付き合ってるの?」 思いっきりストレートに訊かれ、あたしは答えに詰まった。もう話してしまってもいいのかな? 沙希さんを始め、この会社の人たちはみ
last updateLast Updated : 2026-10-15
Read more

天国にいる彼へ ②

「そうだね。死んだ人って、自分のことをいつまでも忘れないでいてほしいのか、それとも愛した人には幸せになってほしいって願ってるのかどっちなんだろうね」 今となってはもう、彼にそれを訊ねることも叶わないけれど。彼には天国からあたしの幸せを願っていてほしいなと思う。奏のためにも……。「そういや莉子、墓参りって奏ちゃんも連れて行くのか? 奏ちゃんにとっては父親なわけだろ?」「先月まではあたしひとりで行ってたけど、明日は初めて奏も連れて行こうと思ってる。保育園もお休みって言ってあるし。もう三歳半だし、そろそろホントのこと知ってもらった方がいいからね。あの子が理解できるかどうかは分かんないけど」「そうだよなぁ。じゃあさ、先月まではどうしてたんだ? っていうか、奏ちゃんは知ってるのか? どうして父親がいないのか」「先月まではお母さんに見てもらってた。お父さんは仕事だし。パパがいない理由、奏にはまだ話せてないの。『死んだ』ってことをどこまで理解できるか分かんなかったから。でも、明日はそれもあの子に知ってもらういい機会だと思うんだ。『奏のパパは、奏が生まれてくるずーーっと前にお空の上に行っちゃったんだよ』って、そう言って分かってもらえるといいんだけど」 三歳の子の知能で、一体どこまで理解できるのかなんて親のあたしにも分からない。でも漠然とでもいいから、「パパはもういないんだ。会えないんだ」ということだけ分かってもらえたらいいなと思う。せめて瑛司くんと籍を入れて、正式に奏の「お父さん」になってもらうまでは。「そうだな。明日、気をつけて行って来いよ。奏ちゃんによろしく言っておいて」「うん……」 笑顔で言ってくれた瑛司くんだけれど、その表情は何だか複雑そうだ。「……瑛司くん、ホントはあたしに彼のこと早く忘れてほしいんじゃないの?」「えっ? いや、そんなことないけど。だって、奏ちゃんの血の繋がった父親がその元カレだっていう事実は曲げようがないしさ。だから『忘れろ』って言う方が酷だろ」「まぁ、そうだけど。親子の絆って血の繋がりだけじゃないと思うな。あの子は実の父親の顔を知らないんだよ? だったら、血は繋がってなくてもこれから瑛司くんがあの子の父親になっていけばいいんじゃないかな」「……うん」「それにあたし、元カレのお墓参りは明日を最後にしよ
last updateLast Updated : 2026-10-17
Read more

天国にいる彼へ ③

 ――霊園の最寄り駅に到着すると、まずは駅前の花屋さんに立ち寄って墓用の花を買い、奏と手を繋いで霊園まで歩いていく。 海の見える高台の墓地に竜也のご実家のお墓があり、そこに彼も眠っているのだ。 お墓の前まで行くと、彼のお母さまがすでにいらっしゃっていて墓石をキレイに掃除していた。 お母さまとは毎年ここでお会いしているけれど、去年よりだいぶ老けた感じがする。まだ五十歳くらいだったと思うけれど、白髪が増えたからだろうか?「――あら、莉子さん、いらっしゃい。今年も来たのね。……あら、その子はもしかして……」「はい。竜也さんとの間にできた子で、奏といいます。〝奏でる〟の奏です。今年で三歳になりました」「そう……、あの子の……。奏ちゃんっていうのね」 大人二人で話していると、奏があたしのワンピースの裾をつかんで不思議そうな顔をしている。そういえばこの子は、母方の祖父母であるあたしの両親は知っていても、父方の祖父母の顔を知らないのだ。「ママー、このおばちゃんだぁれー?」「奏、この人はパパのお母さん。奏のもう一人のおばあちゃんだよ。ちゃんとご挨拶して」「はぁい。みやせかなタンでしゅ。パパのばぁば、よろしくおねがいしましゅ」「はい、よろしくね、奏ちゃん。あなたのもう一人のおばあちゃんよ。――莉子さん、あなたは立派に母親をしてるのね。奏ちゃん、すごくいい子に育ってて竜也もきっと喜んでくれてるわ」「ありがとうございます、お義母さん。……実はあたし、今日でここに来るのは最後にしようと思って。だから最後に奏も連れてきたんです」 あたしがそう言うと、竜也のお母さまは「えっ?」と驚いた顔をされた。「あたし、今は正社員として働きながらこの子を育ててるんですけど。そこの会社の社長さんと結婚が決まったんです。あたしの幼なじみなんですけど。だから今日は、竜也さんにその報告と『さよなら』を言いに来ました」「そう……だったの。おめでとう、莉子さん。そのお相手の人は、奏ちゃんのことご存じなのね?」「はい。彼はそれでもいいと言ってくれました。自分が奏の父親になりたいって。……でもお義母さん、あたしは竜也さんのことを忘れるわけじゃないんです。幸せになるために、竜也さんの死を乗り越えなきゃいけないと思って。そうしないと、相手の彼にも申し訳ないですから。勝手なこと
last updateLast Updated : 2026-10-20
Read more

たまには二人きりで…… ①

 ――こうして竜也の墓前に結婚の報告も済ませたあたしは、瑛司くんとの結婚に向けてまた一歩前進した。 それから一ヶ月後、迎えた初給料の日――。 「莉子さん、先月はまる一ケ月間お疲れさまでした。これ給料明細ね」  この部署の部長である沙希さんが、一人一人に給料明細を配って回っている。そしてついにあたしの手元にも……。 「ありがとうございます」 「金額見たらビックリすると思うわよ? お楽しみに♪」  パートで働いていた頃のお給料は多い月でも十三万円くらいだったけれど、正社員として月給でもらうのは初めてだ。確か入社前の説明では、月給三十万と聞いていた気がするけれど……。あたしはワクワクしながら、明細書を開封した。すると――。 「手取り金額、二十七万円……。税金とか引かれてもパートの収入の倍くらいある。正社員ってスゴいなぁ」  パート時代の約二ヶ月分の金額が、手取りとしてそこに書かれていた。これだけあれば、今まで以上にお金も早く貯まるし余裕も持てる。奏に欲しいものをガマンさせることもなくなるかもしれない。 「ね? 正社員ってスゴいでしょ? 大卒の初任給でさえ、それより低い企業もまだまだいっぱいあるのよ。ウチの会社、なかなかやると思わない?」 「そうですね。初めてのお給料でこんなにもらえるなんて……、あれ? 何か手当がついてる。……家族手当?」  諸手当の欄も見ると、家族手当の欄に三万円と書かれている。なるほど、これと合計して総手取りが三十万ということか。 「そっか、莉子さんは母子家庭だから家族手当もつけてくれたのね。そこ、ひとり暮
last updateLast Updated : 2026-10-21
Read more

たまには二人きりで…… ②

 ――というやり取りの後、午前中バリバリ仕事を片付け、お昼休みになった。 あたしは小さな手提げバッグにお財布とスマホ、コンパクトとリップだけを詰め込んで、すぐ外出できるよう準備をしてから瑛司くんのスマホに電話した。「――瑛司くん、今から出られる? あたし、一階のエントランス出たところで待ってるよ」『うん。俺も今から行くよ。それじゃ、また後でな』「はーい、また後で」 電話を切ると、あたしは隣の席の沙希さんに声をかけた。「……というわけなんで、沙希さん、あたし今から瑛司くんとお昼食べに行ってきます」「うん、行ってらっしゃい。ちゃんとデートに誘うのよ? 瑛司社長だって、自分から声かけづらくて莉子さんに誘ってもらうの待ってるかもしれないから」「……そうですね。うまくいくかどうかは分かりませんけど、誘ってみます。それじゃ行ってきますね」 あたしは頼もしい上司に背中を押され、手提げバッグを持って一階まで下りて行く。エントランスを出たところで少し待っていると、多分スーツのポケットにお財布とスマホだけを突っ込んできたであろう瑛司くんがやってきた。「莉子、お待たせ」「ううん。あたしもつい数分前に下りてきたところだから、そんなに待ってないよ」「そっか。それじゃ行こうか。いつもの店でいいかな? それとも今日は別の店に行くか?」 いつものお店というのは、初出勤の日に連れて行ってくれた大衆食堂のことだ。会社で一緒にお弁当を食べる日以外はだいたいそこにお昼を食べに行っている。今ではあたしもすっかり常連になった。 「そうだなぁ……。今日はなんかハンバーガーが食べたい気分だから、二つ向こうの筋のバーガーショップに行こう。……と、その前にお金おろしたいからそこのコンビニに寄ってっていい?」「いいよ。俺も付き合う」 というわけで、まずは二人ですぐ近所のコンビニまでテクテクと歩いていく。「……ねえ瑛司くん、そういえば瑛司くんの社長のお給料って月にいくらなの?」 会社の社長の給料額なんて想像がつかない。大企業なら何百万、何千万っていう役員報酬が支払われるのだろうけれど、ウチの会社はそこまで大きくないし、瑛司くんが個人で起こした会社だからそんなに大きな金額はもらっていないと思うのだけれど……。「俺? 俺の給料は、月で言ったら百五十万。でも手取りは百万行くか行かないか
last updateLast Updated : 2026-10-23
Read more
PREV
1234
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status